戦慄の手料理


 「ねえねえ、ナッシュ―」
 その声にナッシュが振り向く。
 振り向いた視線の先には、エプロンを身につけたリリスがいた。
 「何だ?」
 ナッシュの問いかけに、リリスが答えた。
 「ちょっとシチュー作ったんだけど、味見してくれない?」
 リリスはそう言って、今作ったばかりのシチューを供した。
 シチューは到って普通のホワイトシチュー。
 にんじんやらジャガイモ、ブロッコリーなどの野菜の他に、かぼちゃのような肉厚の野菜、肉団子、そしてなぜかタコまで入っていた。
 ナッシュがシチューを口に含む。
 「お、うまいな」
 その言葉に、リリスが飛び上がって喜ぶ。
 「本当?やったあ!」
 リリスはさらにおかわりをついだ。

 30分後。
 リリスと別れたナッシュのおなかは、もう満腹だった。
 「ふう・・・食べ過ぎたか・・・」
 少しでもおなかを軽くしようと、ナッシュはトレーニング室に向かった。
 その途中。
 「ボス?どこなの?」
 人を捜す女の声が聞こえた。
 ナッシュはその女の声に聞き覚えがあった。・・・・・・セイバートゥースの助手のバーディだ。
 まもなく、そのバーディが姿を見せた。
 バーディはナッシュを見るなり、一言。
 「ボスを見かけなかった?」
 ナッシュは「いいや」と答えた。
 バーディは困惑した面持ちでため息をついた。
 「・・・困ったわね・・・これからどうしても外せない仕事が・・・」
 バーディの愚痴を遮るかのように、ソンソンが声をかけた。
 「ねえねえ、アミンゴ知らない?」
 二人は首を振った。
 さらに、焦りの色を浮かべたダンがやってきた。
 「お前ら、シュマゴラス知らねえか?」
 ナッシュもバーディもソンソンも「知らない」の一点張り。
 「あ〜・・・くそったれ!」
 イライラのあまり、ダンの口から怒声が出る。
 ダンの声に気分を害されたのか、近くの部屋からマロウが飛び出した。
 「うっさいね、今何時だと思ってんだよ!・・・眠れやしない!!」
 ダンがはっと我に帰る。
 「悪い悪い、つい興奮して・・・・・・?」
 ダンが驚いてマロウを見つめる。
 ナッシュもバーディもソンソンも、みな口をあんぐりあけている。
 ナッシュが言う。
 「お前、背中の骨はどうした・・・・・・?」
 「骨?」
 マロウが背中に手を伸ばすと・・・背中から生えているはずの骨が、ない。
 しかも、全部。
 「ない、ない!」
 マロウは背中をかきむしり、パニック状態ではえているはずのない骨をさがした。
 ダンが耳をほじりながら、他人事のように言う。
 「そんなパニックになるこたあねえだろ、普通の人間になれたんだからよ」
 マロウが眉を釣り上げる。
 「余計なお世話だよ!」
 マロウの平手が、ダンの頬を思いっきり叩いた。
 「何すんだ、てめえ!」
 ダンがマロウにくってかかる。
 ナッシュとソンソン、バーディが止めに入る。
 「おい、やめろ!」
 「やめてよ、二人とも!」
 「うるせえ!」
 ダンの裏拳がナッシュにぶつかる。
 「わ・・・」
 ナッシュが後ろによろけ、誰かにぶつかった。
 「きゃあっ!」
 「誰か」は金切り声をあげ、しりもちをついた。
 床に生ゴミが散らばる。
 五人は一斉に、「誰か」に目を向けた。
 「リリスじゃない」
 ソンソンがしりもちをついたりリスに言う。
 そのそばには、大きなゴミ袋が一つ、転がっていた。
 「いたたた・・・・・・」
 リリスは尻をさすった。
 「すまない」
 ナッシュがリリスに謝る。
 「ううん、気にしてないよ」
 リリスは何事もなかったかのように立ち上がると、周囲に散らばった生ゴミを拾い始めた。
 「俺らも手伝うよ」
 ナッシュとマロウ、ソンソンはゴミ拾いを手伝い、バーディとダンは掃除道具を取りに行った。

 生ゴミを拾い上げているうちに、ナッシュはそれらの生ゴミを「どこかで見たような気がする」と思うようになった。
 粉々に砕かれた骨も、黄緑色の肉片も、緑色の果肉も、なぜかゴミ袋に入っていた黄色い毛も。
 そのそばで、ソンソンが生ゴミを袋に入れようとしていた。
 と、そのとき。
 「ひいっ!」
 ソンソンが恐怖の叫びを発して、後ろに飛び退いた。
 「どうした?」
 ナッシュとマロウが振り向く。
 ソンソンはガチガチと歯を震わせ、恐怖の面持ちでゴミ袋を指した。
 「ゴ・・・ゴミ袋の中に、な、生首が・・・!」
 「ゴミ袋?」
 二人はゴミ袋の中を覗き込んだ。

 二人は、血の気が一気に引いていくのを感じた。
 ゴミ袋の中にはなんと、セイバートゥースのものと思われる生首が入っていた。
 二人は視線を周囲に移し、リリスの姿を捜した。
 リリスは運良く、この場を離れている。
 ナッシュとマロウはゴミ袋を倒し、中身を床にぶちまけた。

 ゴミ袋の中身は、野菜の皮のほか、このようなものが入っていた。

 「気持ち悪い・・・・・・。」
 マロウが吐きそうな顔で行った。
 ナッシュの脳裏に、想像するのも恐ろしい推測が浮かんだ。

 ダンやバーディと一緒に、リリスが戻ってきた。
 「あ〜、余計汚れてる〜!」
 リリスが頬を膨らませ、ゴミ袋にゴミを詰める。
 「リリス、ちょっと尋ねたいことがあるんだが・・・」
 悪い予感を感じつつも、ナッシュはリリスに尋ねた。
 「何?」
 リリスがナッシュを見上げる。
 「セイバートゥースとアミンゴとシュマゴラスを見かけなかったか?」
 「見かけたよ」
 「で、今どこにいるか知ってる?」
 ソンソンの言葉に、リリスは無邪気にしゃべった。

 「え・・・・・・?」
 その場にいた五人が、一斉に硬直した。
 「じゃ、あたしの骨は・・・・・・?」
 「マロウの骨?・・・ああ、ブイヨンがなかったから、ちょっと使ったの。ごめんね」
 マロウが大声で怒鳴った。
 「あんた、そんなものを人に食べさせたらどうなるかって事ぐらいわかってるでしょ!」
 ダンも怒鳴る。
 「お前は俺たちを殺す気か!・・・おい、お前からも何か言ってやれ、ナッシュ」
 ダンがナッシュの肩を叩いた、次の瞬間。
 ガチガチに硬直したナッシュの体が、前のめりにバタンと倒れた。
 どうやら、さっきのリリスの言葉にショックを受け、立ったまま卒倒したらしい。
 「ナッシュ!」
 「おい、しっかりしろ!」
 ダンやマロウ、ソンソンやバーディが口々に叫ぶ。
 まもなく、ナッシュはリリスを含めた五人に担がれて、医務室に運ばれた。

 ナッシュはそれから一週間、食当たりと精神的なショックで寝込んでしまったらしい・・・。

終わり



 SACさんのサイトで333HITを踏ませていただき、リクをどうぞという有り難いお言葉に調子をこいて(ヲイ)リクエストした小説をこの程頂きました。ありがとうございます。

 SACさんの書かれるSSが面白かったので、「マヴカプ2でドタバタ」というリクエストをさせて頂きまして。今冷静になって考えると、あの登場キャラクターの多いゲームにおいて、なんと漠然としたリク内容だった事かと思ってしまいましたが……いやいやなかなかどうして。中尉の振り回されっぷりがいい感じでス。リリスの天然ぶりも揃ってお見事。「絶対に食事中に読まないでください」という注意を頂いておりましたが、それは確かにおっしゃる通り……。でも闇鍋とか平気でやりそうですよねこの連中。
 しかしセイバートゥースだの、シュマちゃんだのを平気で調理してしまうリリス……恐るべし。モリ姐さんは止めなかったのか呆れて全く口を出さなかったのかそれとも先に轟沈したのか……想像は膨らみます(笑)。ところでシュマちゃんて美味しいのでしょうか。色は凄そうですけど。アミンゴは青臭そうだし……(それ以上想像するのは止めておきなさい)

 とにもかくにもSACさん、ありがとうございました。そろそろ利子がいい感じに膨れ上がっております。申し訳ない限り<(_ _)> でも利子はきっちりと!(マジで準備中)

BACK TO "NOVELS"】 【HOME