2003年11月23日更新

こらむ


 コラムというと,少しは知的なところを見せねば,と構えてしまう。が,いちいち構えていたら何も言えなくなってしまうので(構えるのは論文を書くときだけで十分でしょう(笑)),気軽に書いてみたい。そういう意図もあり,このページのタイトルを「コラム」ではなく「こらむ」にした次第。主にトピックとなるのは,「雑記帳」に書くのには長すぎ,「生活編」に書くほど実践的ではなく,「研究編」に書くほど学術的ではない,というネタ。もちろん,コラムである以上,独りよがりにならないように心がけたいと思います。
1.「日常会話」の難しさ(2002年12月27日)
2.意外(2003年1月1日)
3.英国からみた「日本」(2003年11月23日)

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3.英国からみた「日本」
 日本に住んでいると案外分からない日本のイメージ。海外に住んでこそわかることかもしれません。例えば,「東京は世界一物価が高い」と東京の人は思い込んでいますが,明らかにロンドンの方が高いです。もっとも,生活費の国際比較は,為替とか購買力平価とか色々な尺度でいかようにもできるので,どこが一番高いかは正確にはいえないのですが...例えば地下鉄の初乗り運賃。東京の営団地下鉄は160円。ロンドンの地下鉄は中心部で£1.60(300円)。単純比較でも高いし,得られるサービスの悪さから言うと割高感はさらに増すわけです。
 最近,日本の外務省が海外在住日本人に対し,テロ警戒情報を出しました(読売新聞の記事)。イギリスはどうかと調べてみましたが,今のところ特に危険ということにはなっていません。一方で,イギリス人から見た場合,日本はどういう評価がされているのかが気になって英国外務省のHPをチェックしてみたら,日本の紹介があり,なかなか面白かったので,以下抜粋します。
・(総論)日本は安定し,高度に発展し,近代的な国である。しかしながら,通常の常識的な予防措置をとり,自身の安全や持ち物については,油断のないようにすべきである。英国民は,世界のいかなる場所でも,公共施設における一般市民をターゲットにした無差別テロ攻撃のリスクに注意しなければならない。
→これは総論として,日本人の常識の範囲内ですね。
・(旅行)日本における旅行は比較的容易である。鉄道ネットワークは,効率的で,信頼性が高く,安全で価格も手頃である(特急列車は通常のものと比べてかなり高価である)。タクシーは,一般に安全で料金は固定のメーターシステムを使用しているが,とても高価である。
→英国の鉄道と比べると確かに日本の鉄道は素晴らしいと思います。要するに,英国の列車は「非効率的で信頼性が低く,危険で価格も高い」(笑)。新幹線などは確かに高いですが,イギリスの列車から得られるサービスに比べれば,そのくらい払う価値があるのでは? ただ,イギリス人は対価と得られる効用を比べるのではなく,価格そのものを問題にするので...
・(道路)日本の道路は一般的によく維持管理されている。英国の交通ルールと同様に左側通行であるが,ドライバーは次のようなことに特に注意が必要である:赤信号で道路を渡る歩行者(特にスクランブル交差点),車道を車と反対方向に夜間にライトをつけずに走る自転車,突然停車するタクシーなど。特に高速道路の料金は非常に高価である。道路渋滞はイギリスよりもしばしば著しく悪い。都市部では多くの道路標識は日本語と英語で書かれているが,農村部では一般的ではない。
→道路は日本の方が確かによく管理されています。日本は公共事業の無駄が指摘されますが,英国のように維持管理を放棄するのもどうかと。交通マナーについては,ドライバーのマナーは,(少なくともDevon地域では)とてもよいですが,歩行者のマナーは日本とあまり変わらない気がします。
・(法律および習慣)日本と英国には,旅行者に影響を与えるような,法律や習慣の大きな差異はない。しかしながら,海外訪問に共通していえることだが,異なった文化・人びとに対して分別を持つべきであり不必要に迷惑を引き起こす行動をすべきではない。日本人は友好的であるが,内気でもある・・・大声や騒がしい行為は,英国のようには受け入れられない。
 飲み物・食べ物の代金は,食事の後店を出るときに支払う。英国のパブとは違うので,店を出るときに支払いを忘れないこと。

→たしかに英国人は飲んで騒ぐのが大好き。あまり「人の迷惑」は考えないと思います。パブも前払いが原則・・・きちんとテーブルで食事ができるパブは後払いのことも多いですが。
・(自然災害)日本は大きな地震地帯にあり,非常に頻繁に様々な大きさの地震が起こる。地震時に備え安全手続きに熟知しておくべきであり,ホテルの部屋の地震関連の説明も確認しておくべきである。日本にはいくつかの活火山もある。火山地帯への旅行は,日本の担当機関からの助言に留意すべきである。
→特に地震は英国人には恐ろしいものに感じるようです。日本では大してニュースにもならない地震(震度3〜4程度)がBBCで速報で流れることもしばしば。.恐らくBBCの東京特派員の過剰反応でしょう。
・(その他一般事項)ほとんどの日本人は学校で英語を学ぶが,それをうまく話したり何を言われているかを理解できる者はほとんどいない。しかし,多くの人は紙に書いた明瞭でシンプルな英語を理解することが出来るし,話すよりもより容易に書面で返事をすることができる。しかし,英語が全く理解されない状況も想定すべきである(例:タクシードライバー,レストランの従業員,警察,医者)。ペンとノート,それに簡単な言い回しが載っている本は有用である。
→これは図星じゃないでしょうか(笑)。英国人は,日本人は教育水準が高いのになぜ英語ができないのかとても不思議なようです。特にアカデミックな世界は教育水準が高い人間が集まっているはずなので,余計に不思議がられます。かくいう自分も,昔は海外の人たちとメールでの情報交換はできても会話はさっぱりでした。正直,読み書きができるなら後は場数と気合で何とかなると思いますが。それにしても英語が全く理解できない状況の中に警察や医者が入っているのはいかがなものか(おそらく正しいのだけど)。
・(その他一般事項)旅行前に日本ではどのような気候が予想されるのか確認すべきである。5−8月は,とても暑く湿度も高く,十分な注意が必要である(例:十分な水を飲む,太陽の下で過ごす時間を制限する)。(倒木や洪水などで)けが人や場合によっては死者も出る台風シーズン(9−10月)も注意が必要である。
→日本の夏はおそらく英国人にとって地獄でしょう。日本人にとって英国の夏は天国ですが...英国はかなり北方にあるので寒いというイメージを持つ方が多そうですが,実は日本よりも夏は涼しいし,冬もそれほど寒くならないので,よりマイルドではないかと思います。英国人はやたらと日光を浴びるのが好きですが,日本で同じことをやったら日射病になるかも。
・(その他一般事項)日本は非常に物価が高い国で,主に現金が通用する社会である。クレジットカードやバンクカードは,広くは普及していない。また,それらのカードで現金を引き出せる現金支払機もほとんどない(銀行や現金支払機はしばしば窓口営業時間のみ稼動していて,夜間や週末は使えない)。旅行前に自分の銀行に確認し,現金を得る十分な選択肢を持つべきである。
→確かにこの国では現金をあまり持ち歩きません。自分は10〜20£くらい(2,000〜4,000円)が普通。10£を超えたらまずバンクカード(デビットカード)を使います。ATMも24時間動いているので現金が必要だとしてもそれほど困りません(ただし,現金がなくなるとサービス終了)。きちんと現金やトラベラーズチェックを準備せずに日本に来たら,確かに大変かも...まあクレジットカードは日本でもかなりの場所で使えると思いますが。ただ,両方を比べると,日本も英国のような当座預金・小切手・バンクカード,という文化が普及してもよいと思います(日本の場合,クレジットカード会社がバンクカードと遜色ないサービスを提供してしまっているのだが)。日本人は,資産管理をきちんとするのではなく,財布の中の現金を使う分には破産しない,という原始的な管理方法をよしとする傾向がある(クレジットカードやサラ金を敬遠するのはこの象徴でしょう)ので,これはなかなか普及しないかもしれませんが。
・(その他一般事項)英国の携帯電話の多くは,ローミング・モードにしたとしても日本では使えない。日本で携帯を使いたい場合,携帯会社に確認が必要である。
→英国の携帯はアイルランド+ヨーロッパ大陸でも使えます。単に技術的な問題だと思うのでそのうちなんとかなるのでしょう。
 以上いかがでしょうか? 英国の人は,日本に来る前にこういうガイドを見てやってくるというわけです。
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2.意外(2003年1月1日)
 英国に来て約半年。お正月記念ということで(笑),「意外」だったものを挙げてみます。

@タバコ
 米国が禁煙社会であることは有名であるが,英国も同じだと思ったら大間違い。驚くほど多くの人がタバコを吸います。もちろん,禁煙という場所も多い(例えば,我が家のフラットは禁煙が貸出条件)ですが,デフォルトは「喫煙可」と思っていいかも。ちなみに,屋内施設は「禁煙」か否かのどちらかしかなく,日本のレストランのような「分煙」という発想はあまりないようで。もっとも,ロンドンではまた事情が違うかも。

Aサッカー
 英国と言えば,サッカーの母国。さぞサッカーだらけの世の中と思いきや,意外にサッカーを見る機会はありません。サッカーは競技場で見るかテレビで見るか,ですが,テレビ中継はスカイスポーツが牛耳っているため,地上波ではテレビ中継がほとんどなしという状態。よって日常生活ではサッカー見られません。幸いにも我が家はケーブルテレビに加入しているので,チャンピオンズリーグなどは時々見ることができます。がプレミアリーグは見られません。月24£ほどの追加料金を払えばスカイスポーツが視聴可能。また1試合8£でも見られます(涙)。こういう事情もあって,競技場に行けない人は(自宅ではなく)スポーツバーでテレビ観戦するわけです。

B日本もの
 日本は英国から最も遠い国と言っても良いでしょう。それが逆に日本への興味をひくようで,日本に関するテレビ番組をちょくちょく見かけます。一番多いのは「世界のテレビ番組」みたいな番組の中で,日本のバラエティ番組が紹介されるパターン。なぜか「よいこ」がよく出てきます(日本に滞在している英国人特派員のお気に入りなんだろう(笑))。次に多いのはBBCにありがちな庭園や農村景観シリーズ。日本庭園がよく出てきます。あと,マニアックなネタも。一度「東京のSM事情」をやっていたときにはたまげました(笑)。この番組では,縛り続けて30年みたいなおじさんが出てきて,「愛のない縛りは縛りとはいえない」とか訳の分からないことを言ってました。一方で,日本の「日常生活」はあまり放映されないので,「日本人は普段は洋服だが日曜日は着物を着る」などといった間違った認識を持った英国人もいます。
 あと,ワールドカップのおかげで,英国人はイングランド対アルゼンチン戦があった「Sapporo」という地名をみんな知っています(最近は忘れられつつあるかも)。

C低くて大きい
 英国紳士といえば,背が高くすらっとしているイメージですが,実際には背の低い人も多く,この辺りでは自分より背の高い人をあまり見かけません(もちろん背の高い人はとことん高い)。ちなみに自分の身長は181センチ。また,英国でも食生活のアメリカ化が進んでいて,デブが多いです。ダイエット番組などもはやってます。もっとも,これも田舎とロンドンでは大きく違うでしょう(米国でもアイオワとニューヨークでは違うように)。

DCM
 こっちのCMは訳がわからないのが多い。商品を露骨に前面に出さないのは英国らしいのかもしれないが,かと言ってイメージ戦略とも思えない。例えばこんなCM。暗い控え室で女の子がヨーグルトを食べていると,そこに若いカップルが入ってくる。そのカップルは女の子に気づかないまま,事をはじめようとするのだが,女の方が「ちょっと待って。今日は話があるの...実はできちゃったの」。すると男が戸惑いながら「・・・・それで,誰の子?」,これを聞いた女が男をひっぱたいて部屋を出て行く。この一部始終を女の子はヨーグルトを食べながら興味津々で見ている。というヨーグルトのCM。面白いのかもしれないけど,あまりにもひねているような(英国らしいといえばらしいが)。[Top]
1.「日常会話」の難しさ(2002年12月27日)


 海外滞在者が一時帰国すると,よくこんな会話が交わされる。


「どう? 英語できるようになった?」
「いやあ,日常会話は何とかなるけど,難しい話はまだまだ」

 これは半分正しいが,半分間違っている(とはいえ,自分もこう言ったかも(笑))。

 この「日常会話」というのが曲者である。「日常会話」を「健康で文化的な最低限度の生活を送るのに必要な会話」(笑)と定義するならば,上記の会話は正しい。自分が衣食足りた生活をするために必要な語学力などたいしたことない。欲しいモノを買い,やって欲しいことを頼む能力があればよいのだから。

 しかし,「日常会話」とはそういうものだろうか?

 自分の経験からすると,「健康で文化的な最低限度の生活を送るのに必要な会話」は確かに楽である。また,仕事上の会話(自分の場合は研究上の会話)もそう難しくはない。なぜならば,その分野について少なくとも日本語での知識は豊富であり,残るのは日本語⇔英語の言語変換の問題だけだからである。知らない単語が出てきても,相手に少し説明してもらえれば理解できるし,こちらが話す場合も,英語表現がストレートに出なくても少し説明すれば,相手は「ああ○○のことね」と分かってくれる。もっとも,自分が話す内容について相手が無知である場合,相手を理解させるのは非常に難しくなるのだが(笑)。

 ではどういう会話が難しいか。それは「日常会話」である。それも,ティーブレイクやパブなどで交わされるたわいのない会話。「多少は高度な生活を送るのに必要な会話」というべきか(笑)。

 例えば,日本語で考えるとこうなる。日本語を勉強しそれなりの語彙を得てから来日した外国人がいたとしよう。その外国人の前で「電波少年」という単語を出したとき,彼もしくは彼女は,それを理解できるだろうか? 彼は「電波」=「Radio Wave」,「少年」=「Boy」であることはわかっても「Radio Wave Boy(s)」が何を意味するか,いきなりはわからないだろう。さらにいえば,日本人同士でも,自分と全く無関係の集団にいきなり飛び込んだ場合,集団内で交わされる「日常会話」はほとんど理解不能ではないだろうか?

 つまり,前提となる知識がない場合,その会話を理解するのは言語の選択以前に非常に厳しいし,我々の「日常会話」とはまさにそのような類のもので埋め尽くされているのである。

 ここからインプリケーションを引き出すと,そもそもそんな「日常会話」などフォローする必要はないという考えも成り立つ。事実,自分の考えはこれに近い(笑)。もちろん,「日常会話」をフォローしないこととコミュニケーションをとらないことは別である。この区別が曖昧なところが,まさに「日常会話」の難しいところなのだが。

 また,語学能力向上という点からは,必要なのは「語彙」にとどまらない「知識」であるといえる。その「知識」に,「これを英語/日本語で何と言うか」というちょっとした注意力が必要なのである。逆に言えば,「知識」を志向しない人間がいくら「英語」を勉強しても,その語学力は空虚ではなかろうか。もっと突っ込んで言えば,「英語を勉強する」こと自体が目的になることはありえないということでもあろう。英語が母国語でない以上,何らかの目的があって,初めて英語を勉強できるのだ。

 ただし,「知識」と言い出すとまた難しい話になる(特に「専門的な」学術研究をしている人間にとって)ので今日はこの辺で。
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