「真夜中の絵画」


夜の闇が紫色に染まる頃
薄い黄色の明かりがもれる
小さな部屋で
ある画家が絵を描き出していた

夜の中に静けさという音が聞こえ
微かな夜風が吹き抜けていった
描かれる絵は
翼を閉じた鳥の絵だった

画家は筆を持つ手を置き
窓から夜空を眺めてみた
いつもと変わらない
無口な月があった
月は薄い黄色で
部屋の明かりを跳ね返しているようだ

翼を閉じた優しい鳥は
羽ばたくときを待ちわびた
未来へ向かって羽を伸ばす
そんな絵画を心待ちにした

穏やかな月明かりが夜空を支配し
滑らかな時の揺らぎを感じ始める
静かな夜
本当に静かな夜
風が止み
空気が柔らかい

再び筆を手にして
絵の空の紫色は
夜に溶けて深緑に見えた
完成間近の未来へ向かって残す鳥

もうすぐ
間も無く
新しい世界へ
未だ見ぬ希望へ
もう
すこし

そのとき

その瞬間

それは

突然だった

凄まじく破壊的な紅い月が跳ね上がり
夜空が切り裂かれた
強大な潮汐力を放つ真っ赤な月が
天地を崩壊に導いた
画家の筆は無残に砕け散り
赤い世界の藻屑と消えた

後に残されるものは
一枚の鳥の絵

この鳥はもう
卵を産むことはできない