失敗と責任

 

プロフィールを見ればわかるように、私はアルバイトで塾講師をやっている。

当然経験も考え方も未熟の私である。失敗も数々犯してきている。

このエッセーでは、その失敗の一つについて書こう。

 

私の授業では、ある程度単元を進めたら、その単元の復習課題をテキストから出している。

冬期講習中の1月13日も例外でなかった。締め切りは次の授業日である17日にした。

そして17日、私は生徒の宿題状況をチェックしてまわっていた。

ところが、女子生徒の一人Aさん(仮名)が、その宿題をやってこなかったのだ。

彼女はいつも私の指示する宿題はちゃんとやってくる子である。

おかしいな?とは思いつつも、その場では「次はちゃんとやってきてね」と一言言ったのである。

(管理人注:宿題忘れの常習者は、私の塾にはいないので、決して怒ることはない。

そっと一言注意すれば、たいてい次回はきちんとやってきてくれる)

 

ところが、その日の夜中、ふと思い出したことがある。

それは、今日(17日)までの宿題を出した13日、Aさんは欠席していたのである。

しかも「部活で休む」とちゃんと連絡も入っていた。

13日の日報を確認すると、そのように記録されていたから、間違いないだろう。

つまりAさんは、その宿題が出されたこと自体知らなかったわけである。

そのときそれをすっかり忘れていた私は

あろうことか「次はきちんとやってきてね」と無責任に注意してしまったのである。

 

聞いてもいない宿題はやれるはずもない。

その上、その宿題を、次はやってくるよう注意されたら、やはりAさんも気分は悪いに違いない。

「私は何も悪くないのに、あの先生に注意された・・・」と、信頼を損ねたのが怖かった。

そういう不信感はあっという間に広がるものだ。それがやがて塾全体に対する不信感へとなる。

出来る限り早く謝罪せねば。私は直感的にそう思ったのである。

早くといっても、具体的には18日(木)。

私はこの日にこだわった。

なぜなら、Aさんは次は金曜日に塾に来るからである。

その時、少しでも不信感をもって塾に来させるのは、失礼にあたるわけである。

 

私は次の日、塾長にそのことを報告した。メールではなく、直接である。

こういうことはすぐに対応しなければならないからである。

私は対応策として、Aさんが学校から帰ってくる時間を見計らって、Aさんの家に電話を入れることを提案した。

しかし塾長は「すぐにお母様に事情をご説明してください」と私に指示したのである。

私みたいな若造が直接お母様にお話して大丈夫か、と不安だったが、

塾長も「大丈夫だ」と話したし、

私もそれが、Aさんの不信感を払拭するのなら、と思い、実行した。

ところが、お母様は出ない。2時間後再度電話しても出ない。

さらに1時間後、大学の公衆電話から電話して、ようやくつながった。

そこで私は事情を全て説明し、Aさん本人に誤解を招いたこと、

宿題に関してはAさんに何の非もないことを説明した。

もちろん、苦情を言われるのを覚悟して、である。

相手も最初は神妙そうな声だったが、事情を説明し終わり謝罪すると、

「わざわざご丁寧にありがとうございました」と苦情どころかなんとお礼まで言われてしまったのだ。

 

しかしこのとき本人は不在。帰ってくる時間を聞き、その時間に再度電話を入れた。

2度も電話を入れてまで謝罪したいなんて、単なるお前の自己満足じゃないか、と聞こえてきそうだが

そんなこと言ってられない。本人に直接謝罪したほうが、わだかまりも取れる、そう確信しただけである。

後に本人とも電話がつながり、謝罪すると「その宿題、もうやりました」と笑いながら言うのである。

すねて「宿題なんてやるもんか」となるのが自然だと思っていたが、

私が思っているよりずっとAさんはしっかりしていたのである。

最後に「また来週から一緒に頑張ろうね」と言って、電話を切った。

 

こうして、とりあえずAさんから大きな不信感を招かずに済んだと思っている。

 

この日は一日、冷や冷やしていた。昼食も食べられなかったほどである。

「これでやせられるな」と苦笑しつつも、「やってしまった・・・」という気持ちの方が強かった。

電話後は、一気に気が楽になった。とりあえず良かったのだ。

 

私がしでかした失敗とは、決してやってはいけないことである。

しかし、失敗しない以上に、

失敗してからの責任をすぐにとるべく行動することの方がはるかに重要じゃないのか。

失敗してしまっては、当然不信感も持たれる。

しかし、気づいたらすぐに責任をとる、そうすればほとんどの不信感は取り除かれるはずだ。

事情を説明してからの、Aさんのお母様の反応からも、それはわかる。

 

今後生きていくうえで大事なことを、結果として学んだわけである。

 

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