英文法の話

第3回「冠詞と文法:ここでa(an)しか使えないのはなぜ?」

 

第2回で英語の話しをしましたが、

今回はいくつかの文法事項(構文や熟語など)に冠詞が関わっている例を見たいと思います。

 

T. 感嘆文

感嘆文とは、

(1) How beautiful she became! (彼女はなんて美しくなったんだ!)

(2) What a beautiful lady she became! (彼女はなんて美しい女性になったんだ!)

※訳し分けてますが、(1)と(2)は同じ訳でもOK.

のように、何か驚いたことを表すときに、ちょっと語順を変えて使う文です。

細かい規則については、ここでは省略することにして、注目して欲しいのは、上に挙げた例文の2つ目です。

(2) What a beautiful lady she became!

とはいいますが、ここでaをtheに変えて

(3) What the beautiful lady she became!

という言い方は、まずしないということなのです。

冠詞を変えただけなのですから、(3)がおかしいと思われる理由は、冠詞によると考えてよいでしょう。

 

ここで、aとtheの違いを思い出してください。

a:特定できていないものを指す。

the:特定できているものを指す。

という違いです。

 

繰り返しますが、感嘆文とは、何か驚いたことを表すのに使う文です。

人間は、すでに知っているものに対して驚くことは普通しないで、

知らないもの、あるいは忘れていたもの、意識していないものに対して驚くものです。

例えば、高校時代の同級生に10年ぶりに会って、

What a beautiful lady she became!と驚くことはあっても

昨日会ったばかりでもうその同級生が美しくなったことを知っていて、「わぁ・・・」と驚くことはありませんよね。

そういう、普通驚く対象になりうるものが、特定されているか特定されていないか、といえば、

特定されていないことの方が多いわけです。

上の例文だと、その同級生のことは知っていた(特定できた)としても、

美しい女性になった、ということは知らない(特定できない)わけですから、

What a beautiful lady ...のように冠詞はaを使うわけです。

 

U. there構文

there構文とは、「〜がある、いる」ということを表す文で、例文は次のようなものです。

(4) There is a book on the desk. 「机の上に本がある」

これもaをtheに変えて

(5) There is the book on the desk.

とは普通言わないのです(この「普通」という言い方に注意)。

なぜでしょうか。

ここで、英語には、新しい情報を後ろにもっていく、という傾向があります

ちょっと話しはそれますが、このことを示すために、次の(6)を観てください。

(6) Who did you buy the book for? 「誰にその本を買ってあげたの?」

  I bought the book for Mary. / I bought for Mary the book. 「メアリーに本を買ってあげたんだ」

疑問文に対する答えの文として2つ作りましたが、英語を母国語とする人は、

たいてい後ろの答えの文の方がおかしい、とみなすようです。

それは、疑問文で「誰に買ったのか」聞いているので、for Maryの方が新しい情報になり、それを後ろに置く傾向にあるからです。

話しを戻しますが、(4)(5)のa bookが主語になっていますが(「本がある」と訳せることからもわかると思います)、

主語は普通文の最初の方に来ることにも注意してください。

普通最初に来る主語を、わざわざ後ろの方に持っていくということは、

その主語が新しい情報であるからです。

新しい情報は、知らない情報であることから、普通特定できない(あるいはしにくい)ものです。

だからthere構文で「〜がある」というときは、冠詞aを使う傾向にあるわけです。

 

ただし注意して欲しいのですが、there構文の後ろに来る名詞は、絶対theが付いてはいけない、

というわけではないのです。

例えば

(7) A: Is there anything to eat in the refrigerator? 「冷蔵庫に何か食べるものはあるかい?」

  B: Yes, there is the apple pie which Mom made yesterday. 「うん、昨日母さんが作ったアップルパイがあるよ」

これはtheを使っていても、全然おかしくない文です。なぜでしょうか。

それは「何かないか?」と聞かれたときに「アップルパイ」が新しい情報になるからです。

ここでtheが付いているのは、「昨日母さんが作った」という風にアップルパイを特定できるからです。

特定できる=新しくない、とは必ずしもなりません。

 

ここでは感嘆文とthere構文のみを見ましたが、

英語の冠詞の使い分けが、ある文法事項に影響することがあるのだ、ということがお分かりいただけたかと思います。

 

(2004年6月19日)

 

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