外来語の話

第2回「外来語の言い換え」

 

最近、外来語をできるだけ日本語に言い換えようという動きが見られます。

文部科学省が先頭に立って、現在も議論は続いているようですが、最近、その案が出されました。

ではなぜこのような言い換えが盛んになってきたのかといいますと、

外来語の増えすぎで意味がわからないのが多い、もっとわかりやすくしてくれ、という国民の不満があるからです。

そういわれると、最近はわかりにくい外来語、というかカタカナ語(ご年配の方にとっては「横文字」?)が多すぎます。

インキュベーション(起業家育成)、コンソーシアム(事業連合)、ストックヤード(分別ごみの一時保管所)・・・

これは上のリンク先からの抜き出しですが、全部、私が初めて聞いた(当然意味も知らない)外来語です。

 

話はそれますが、最近洋画のタイトルも、もともとのタイトルをそのままカタカナ表記するのが多い気がします。

アメリカの映画会社が、もともとのタイトルを使うように働きかけているのが理由、と聞いたことがありますが、

昔の映画には、独自に日本語のタイトルを与えた映画もあったようです。

「俺たちに明日はない」という洋画のもともとのタイトルは、Bonny and Clyde で、

「明日に向かって撃て」はButch Cassidy and the Sundance Kid で、

ディズニーの「101匹わんちゃん」はthe 101 Dalmetiansです。

ある翻訳家が、洋画のタイトルをもっと上手に日本語訳すべきではないか、と言ったのを聞いたことがあります。

映画のタイトルにそんな目くじらを立てなくても・・・という気もしますが、

リバー・ランズ・スルー・イット(The River Runs Through Itが原題)のような、

ちっとも分からない(ていうか訳しにくい)タイトルが目立つと、確かに何とかならないかと思います。

 

しかし、日常使われることばで、外来語が増えすぎてわけがわからない、となると困ったものです。

さっき出したインキュベーションなんて、経済とか経営を学ぶ人のほかに使う人がいるのか、と思ってしまいます。

しかもこの場合、日本語に訳した「起業家育成」のほうがはるかに分かりやすいではないですか。

ではなんでそんなわかりにくい外来語を多く使うのでしょうか。

確かな理由はわかりませんが、

一つには、カタカナ・横文字の方が、平仮名・漢字よりも洗練された、しゃれた感じがするというのがあるかもしれません。

欧米文化に対する日本人のコンプレックス(劣等感)や憧れ、が根底にあるような気がします。

確かに「JRタワーは交通手段が良いから便利だ」というよりは、「JRタワーはアクセスが良いから便利だ」と言うほうが、

しゃれた感じがするというのもわからなくはないですが、

その外来語の意味が通じなければ、コミュニケーションの意味は無い気がします。わかってもらえてなんぼですから。

それと、外来語をいちいち日本語に訳すのが面倒くさい、というのもあると思います。

ノーマライゼーションとは、「健常者・障害者が隔てなく生活できる社会」という意味ですが

これは確かに外来語をそのまま使うほうが簡単かもしれません。

アイドリングストップという外来語も、今回「停車時エンジン停止」と言い換えられ、

ゼロエミッションは「廃棄物完全再利用」「廃棄物ゼロ」となりますが、

これも私などは外来語の意味を覚えてそのまま使うほうが楽な気がします。

個人的には、多くて4文字か5文字で訳すほうが定着する気がします。8文字も9文字もあるとかえって面倒です。

あとは、日本での英語学習が盛んになっているという時代上の理由も考えられます。

英単語をいくつ知っているかでエリート度が決まるといっても過言ではない今の日本では、

日本語で言えばいいものを、わざわざ英語などをそのまま使って(外来語にして)言うエリート気取りがいるかもしれません。

それと、日本語はカタカナを使って、もともとの英語と同じ(あるいは似た)発音を書きやすいということもあります。

中国語はほぼ全部漢字なので、こういうことはできません(例えばホームページのトップページなら、主頁と書きます)。

 

最後に、外来語の意味をちょっと言語学っぽく考えてみましょう。

実は、外来語のもとの英語(など)を直訳したのと、実際に使われている意味とが、

必ずしも一致するとは限らないことに注意してください。

(ちなみにこれは、第1回の「外来語の意味が、もともと外国で使われている意味と変わることがある」というのと似てます)

例えば、インフォームド・コンセント。今回「納得診療」と言い換えられますが、

意味は、医者が患者に病状を説明し、納得してもらった上で手術などをすることです。

英語で書くとinformed consentとなりますが、直訳すると「説明された同意」になります。

さて、この直訳に診療という意味がないことに注目してください。

インフォームド・コンセントということばは、病院で使われてきたことばなので(なぜ病院かは分かりません)

そのため、直訳しても出てこない診療という意味が、外来語に生まれた、というわけなのです。

別の例では、ユニバーサル・サービスがありますが、言い換えられると「均一料金サービス、均一料金事業」です。

英語ではuniversal serviceとなりますが、やはり料金という意味は直訳にはありません。

直訳すれば「全員へのサービス」となるでしょうから、料金という意味は新たに生まれたことになります。

 

いまや外来語を全部日本語に言い換えるのは無理です(このページにもいくつ外来語があるでしょうか)

しかし、意味を考え日本語に訳すのが面倒だという理由だけで、やたらと外来語を増やす風潮もどうかと思います。

大事なのは、きちんと意味が伝わることです。

どうせなら字数が多すぎず凝縮した、分かりやすい日本語に言い換えられるよう期待します。

 

さて、外来語となると、どうも日本語だけの話に聞こえてきますが、英語にも外来語は多くあります。

それが第3回のテーマです。

 

(2003年3月15日)

 

エッセーのインデックスに戻る