単語と意味をちょっと考える
第3回「意味と意味のつながり」
今回は、意味と意味のつながり、というタイトルで、
多くの意味をもつ単語(これを多義語と言います)について、日本語の例を使って考えてみようと思います。
例として、「もつ(持つ)」を取り上げましょう。大辞泉によると、「もつ」には次の9個の意味があるようです。
1. 手にとる、手の中ににぎる。「重たい荷物をもつ」
2. 身に付ける。「いつもハンカチを二枚もっている」
3. 所有している。「別荘をもつ」
4. 受け持つ。担当する。「重要な役目をもつ」
5. 自分のものとして引き受ける。負担する。「責任をもつ」
6. ある性質・状態などを有する。「ピアニストの素質をもつ人」
7. 心の中にいだく。「悩みをもつ」
8. 場などを設ける。設定する。「団体交渉をもつ」
9. 長くそのままの状態を保ち続ける。「夏場までもつ食品」
さて、こうやって見ると「え〜、もつって9個も意味があるの!?」と思われるかもしれません。
しかし、ここから先の話が、今日のタイトル「意味と意味のつながり」と関係するのです。
とりあえずここでは1の意味を、「もつ」の基本的な意味と捉えましょう。辞書の最初に載っている意味、ということで。
まず、2の「身につける」は、1の「手にとる」の意味をちょっと広げたものと考えることができます。
いずれも「身体につける」という点で共通してますが、1の「手にとる」は、その身体の場所が「手」に限定されています。
これに対し2の「ハンカチを二枚もっている」だと、例えばズボンのポケットなら、お尻につけていると(大まかに)捉えられます。
次に3「所有している」に移りましょう。「別荘をもつ」はもはや身体につけることはできませんね。
しかし1と2も、所有する、という意味は共通していると考えることができます。
「ハンカチを持っている」「重たい荷物を持つ」は、いずれも一時的であれ、所有していると考えることができます。
1,2と3の違いは、所有するものが自分で物理的に動かせるか(1,2)動かせないか(3)です。別荘は手でもてませんね。
次に4と5に移りましょう。「重要な役目」も「責任」も、もはや目に見えるものではありません。
しかし、あえて比喩を使うならば、そのような目に見えないものを「所有する」と考えることができます。
6と7も同じく、「目に見えないものを所有する」と考えることができます。「素質」を所有する、「悩み」を所有する、と考えるのです。
このように、1から7までは、何とか共通する意味を見出すことができますが、
8「場などを設ける」になるとちょっと難しくなります。
8の意味は例えば「自民党が民主党との党首会談をもつ」という使い方をします。
これを言い換えると、自民党が主役となり、民主党と党首会談の場を設ける、となります。
このとき、支配権があるのは主役である自民党です。主役が場所や時間を決めたりできるからです。
この「支配権がある」を「自分の支配する領域に入れる」と言い換えてみましょう。
こうすると、今までの1から7の意味と共通させて考えることができます。
つまり「ハンカチをもつ」というのは、自分の持ち物として自分の支配する領域に入れる」となるし、
「別荘をもつ」も自分の支配下におく、と考えられます。
目に見えないものについても、「悩みをもつ」は自分の心の領域に悩みを入れる、なんて考えることができるわけです。
このように、ただ1から8を見ると、バラバラの意味に見えますが、
「自分の支配する領域に入れる」という共通の意味があると考えられるのです。
あとはその「領域に入れるもの」が、目に見えるものだったり、見えないものだったり、動かせるものだったり動かせないものだったり・・・
というように、いわば「もつもの」によって意味がちょっとずつ変わっていくだけなのです。
さて、9ですが、これは1から8と少々質が違います。下の例文を比べましょう。
「缶詰は1年もつ」(9の例文)
「ハンカチを二枚もつ」(1の例文)
これで、2つの「もつ」の違いを見抜けた人は、ことばのセンスがある人か結構勉強している人です。
答えは、上(すなわち9)の「もつ」は自動詞で、下(すなわち1から8)の「もつ」は他動詞だということです。
他動詞は「〜を」を取る動詞で、それをとらないのが自動詞です。
つまり9の「もつ」は「〜を」を取らないのです。
「缶詰を1年もつ」だと、恐らく「缶詰を手にもつ」くらいの意味になり、9の「状態を保つ」の意味にはなりません。
「冷蔵庫に置いて缶詰を1年もたせる」のように、9の「もつ」の他動詞は「もたせる」と、形が変わります。
このように、いわゆる多義語というものは、たくさんあるそれぞれの意味がバラバラに存在するのではなく、
意味同士に何らかのつながりがあって、ちょっとずつ意味が変わっていくものなのです。
このような意味の見方をしている論文は、実はたくさんあるのです。
ただし注意があって、これが適用されない場合があるのです。
例えば英語のbankは「銀行」と「土手」という意味がありますが、この2つはほとんどつながりがありません。
このように、形が同じで、意味のつながりがほとんど見出せないような単語を、同音異義語といいます。
日本語なら、食事で使う「はし(箸)」と、川に架ける「はし(橋)」がそうですね。
こんな感じで、意味がたくさんある単語を見た場合は、
その意味同士に何かつながりがあるんだろうか?と考えながら見てみてください。
次回は、昔と今とで意味が変わる例を見たいと思います。
(2003年8月14日)