単語と形・文法をちょっと考える
第2回「男の名詞?女の名詞?」
さて、単語と形・文法の関係について考えるエッセーも2回目。
今回の話題は、名詞と性についてです。
「名詞」とは、ここでは漠然と「人や物などの名前を表す語」としましょう(専門的に考えると、この説明ではまずいのですが、とりあえず)。
タイトルの「男の名詞」「女の名詞」を見て、皆さんは何を想像されましたか?
ここでman, boy, husbandは男の名詞で、woman, girl, wifeは女の名詞だよな・・・と考えた方が多いのではないでしょうか?
それは大正解です。では、フランス語の名詞をちょっと見てみましょう(例によって、イメージしやすい名詞を例に使います)。
フランス語で「月」は女の名詞で、「太陽」は男の名詞です。「りんご」「みかん」は女の名詞で、「レモン」は男の名詞です。
・・・さて、この時点で頭に?がかなり飛び交っているものと思われますがいかがでしょうか。
他にもまだまだたくさん例はありますが、とりあえずここまでにしておきましょう。
つまり今回のエッセーで何を言いたいのかというと、
世界の言語には、このように、名詞それぞれに「男性」「女性」という性の区別がなされるものがある、ということです。
これは、フランス語のほかにドイツ語、イタリア語、スペイン語などヨーロッパ系の言語に備わっている特徴です。
(他の、例えばアジア系、アフリカ系の言語にこのような性の区別があるのかはわかりません)
専門的には、男の名詞のことを「男性名詞」、女の名詞のことを「女性名詞」と呼びますが、
(ちなみにドイツ語には、男性、女性のほかに中性名詞なるものがあります。もちろんオカマのことではありません)
私たちは普段生活をしていれば、男性名詞、女性名詞というのは、まず意識しません。
このような性の区別は、日本語と英語にはなぜかないからです(実はこっちのほうが珍しい)。
もちろん、「太陽」に男性をイメージする人もいないこともないでしょうが、これはあくまで主観的な問題。
フランス語など、名詞にしっかり性を与える言語では、こんな主観的な問題では済まされないのです。
例えばフランス語を勉強するとき、この性の区別をしっかりしないといけません。なぜでしょうか。
それは、ある名詞が男性名詞か女性名詞かによって、文法に大きく影響するからです。
一つは冠詞。英語でいえばa(不特定であることを表す)やthe(特定されていることを表す)がありますが、
フランス語ではそれぞれunやleが表されます。
で、例えば「レモン1個」とフランス語で言いたい場合、un citronと言います(アン・スィトロンと読む)。
ところが、「りんご1個」という場合はune pommeと言います(ユヌ・ポムと読む)。
気づきましたか。冠詞がunからuneに変わってます。
もう一つ。「太陽」はle soleilと言いますが、(ル・ソレイユと読む)、「月」はla luneと言います(ラ・リュヌと読む)。
これも、冠詞がleからlaに変わったことに注意してください。
つまり、unとleは男性名詞について、uneとlaは女性名詞につきます。このような文法上の厳しい区別があるのです。
だから名詞の性の区別はあなどれないのです。
もう一つ、性を区別することが重要だと教えてくれる文法上の区別があります。
形容詞の形が男性名詞、女性名詞によって変わることです。
これの例は一つだけにしましょう。例えば「1個のおいしいレモン」はun bon citronと言いますが(アン・ボン・スィトロンと読む)、
「1個の美味しいりんご」はune bonne pommeと言います(ユヌ・ボンヌ・ポムと読む)。
bon「美味しい」という形容詞が、bonneに変わっていることに注意してください。
フランス語の形容詞は、男性名詞の時と女性名詞の時とで、形が変わります(どう変わるかは、ここでは省略します)。
さて、ここまでみて、フランス語の名詞における性の区別が、文法的に重要な面があることがお分かりいただけたかと思いますが、
もしかしたら皆さんの中に「どんな名詞が女性名詞なの?」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
しかし言っておきます。区別の仕方はまったくわかりません。
言うまでもなく、レモンが男性の何かを象徴するわけでもありません。この点、とてもアトランダムといえます。
ただいえるのは、この性の区別が、フランス人にとっては当たり前に行われているということです。
今日の話は、日本人にとってかなりなじみの薄いものになりましたが、
世界の言語をちょっと見てみると、不思議なこともあるもんだ、と捉えてくれるだけでも結構です。
次回は、英文法をやって必ず聞いたことのあるはずの、主格・所有格・目的格など
「格」って何でしょうか?というのをトピックにします。これも単語と文法に大きく関係します。
(2003年5月10日)