魔術と詠唱

 

 『魔術は身につけるものじゃなくて、その身に刻むもの』 〜空の境界

 空の境界、そしてFateにおいて多く登場する『魔術師』。彼らは呪文を詠唱する事で魔術回路を動かし、様々な現象を引き起こします。
 詠唱と言ってもルーン魔術はルーンを対象に刻む事で発動しますし、ガンドに至っては指差すだけで発動します。魔眼の発動が一工程の詠唱として扱われているように魔術的効果は純粋に『呪文』を『発声する』ことで発動されるとは限らないのですが、それでも基本的に作中の現代に属するスタンダードな魔術師は呪文を唱えて魔術を発動しているのが現状です。
 さて、掲示板で話が出たのですがFateの本編においてキャスターが地上へと景気よく乱れ撃ちしていた光弾を目撃した士郎はそれを「一発一発が通常の詠唱で一分、高速詠唱を使っても三十秒はかかる大魔術だ」と評しています。
 そもそも切嗣以外の魔術師を見たことが無い士郎の見立てが正確であるかは微妙なところではありますが、以前に切嗣が大魔術を使うところを見たらしいのでその時の経験からの測定か、もしくは瞬間契約(テンカウント)が必要とも言ってるのでそちらに要する時間が1分ほどなのかもしれません。
 ともあれ、このやりとりで『普通の詠唱』『高速詠唱』そしてキャスターの使った『高速神言』が、
普通 < 高速 < 神言 の順に速いという事が提示されているわけですが、この○○詠唱シリーズ、以前にもう一つが提示されていたりします。
 それが蒼崎青子先生の使う『短縮詠唱』、正確に言えば、『ノタリコンによる短縮詠唱』です。
 実際に青子先生が魔術を使うのは「魔法使いの夜」が未発表の現在メルブラしかなく、そのメルブラは格ゲーということで参考にするには適していません。まあ、雰囲気程度でしょうか(技名とか興味深いのですが)
 とはいえ、ノタリコン自体は現実に存在する技術であり短縮詠唱がどのようなものかは推測可能です。そこで、各種詠唱がどのように違うのかを例をあげて提示してみたいと思います。ちなみに、呪文はわかりやすさ重視で日本語表記とします。内容や手法も適当なので、こんな感じのイメージ、程度にお考えください。


1.通常の詠唱

「アグリッパの血の元にコルネリウス・アルバが命ず。疾く影は消えよ、己が不視の手段をもって。そも闇ならば忘却せよ、己が不触の常識にたちかえれ。汝、我に問うことはあたわじ。貴き血の元に我が解答は明白なり! この手には光在り。なればこの手こそが全てと知れ。我を存かすは万物の理なり。以て全ての前に我が意は通ず、汝。ここに敗北は必定なり!」

 呪文は自分への語りかけであり、『俺は出来るぜ!』『俺は回路を制御してこんな事をしようとしているぜ!』という事が認識できれば事足ります。あくまでも、回路が魔術を行使するのであって呪文はその起動手段に過ぎないのですから。
 そういうわけで上の呪文は火炎を放つ魔術の呪文なのですが内容は気分を高揚させることに特化しており、「炎を放つ」という要素は含まれていません。ですが、これは呪文を考えた術者にとっては「炎を放つ時の呪文」であり、これを口にすることで意識を研ぎ澄ませ、回路はその魔術を行使する為に動きだすわけです。


2.効率のいい詠唱(with高速詠唱?)

「影は消えよ己が不視の手段をもって。闇ならば忘却せよ。己が不触の常識にたちかえれ。問うことはあたわじ。我が解答は明白なり!この手には光。この手こそが全てと知れ。我を存かすは万物の理。全ての前に、汝。ここに敗北は必定なり!」

 上記の通り、呪文は本人にとって意味が通じればそれで事足ります。あくまで主体は本人の意志による制御と回路なのであり、言葉自体はさして重要ではありませんので
 なので、この例は意味が失われず自分が盛り上がれる範囲で無駄な文章を省くことによって詠唱を短縮したケースです。
 発動までのスピードはずいぶん短縮できましたが、空の境界で実際に使用された際は、これの英文を2秒で詠唱していたようですので更にプラスアルファの技術があると思われます。ものすごい早口とか。


3.ノタリコンによる短縮詠唱

「かおやおとわこわす」
 
 そしてこれが、ノタリコンによる短縮詠唱となります。
 元になる分から各単語の頭文字などを拾って繋ぎ、あたらしい単語にするのが省略法−−−ノタリコン。こうなると呪文は第三者には理解できない文章となりますが、ノタリコンは「省略化」と「復号化」を行う技術ですので、本人を含む「ノタリコンが使える人」にはこれが2と同じ文章とわかります
(注:もちろん筆者はノタリコンを習得してませんので上は適当に略しただけです)
 意味が同じなら効果も同じ。故にこの呪文でも魔術回路は同じ魔術を出力します。その速度がどれほどの物かは、言うまでも無いでしょう。


4.高速神言

「燃えろ」

 そしてキャスターさんの高速神言。1〜3とはそもそも概念からして違い、現代の魔術師がオドなりマナなりを魔術回路で魔力に変換して出力するのに対し、高速神言はマナそのものに命じて効果だけを発生させる魔術です。
 ちなみに、本編中でキャスターが使用していた呪文はアエローとかケライノーなどの魔獣や神さま関連の名詞になっていますので、どんな効果が発生するかの伝達に関しては現代の魔術師と同じく自己暗示なのかもしれません。


5.再起動

「命ずる!」

 一度発動した魔術を再起動する。実例だと、コルネリウス・アルバは2で使用した魔術をこの一言で何度も再起動してみせた。
 これが可能と言う事は、士郎の言うところの高速詠唱30秒の後に連射をする事も可能なのだろうか・・・?
 
 余談だが、士郎の「投影開始」という呪文も、効果に比して短すぎるように思えます。彼の魔術回路が例のアレしか使えないのだとしたら、この呪文はむしろ再起動に属するのかもしれない。
 また、シエル先輩の保有スキルに「簡易復唱戦闘」というのがあるが、これもこのリピートのことかも。


6.宝石魔術

「七番!」
「六番、冬の河!」

 おまけ。Aランク相当の魔術を速射する凛の奥の手で、
 ・発動に要する時間は一工程
 ・端的に発動を命ずるだけで発動
 ・自前の魔力を必要としない
 などの点で高速神言と似た発動プロセスをたどります。
 ちなみに上記の例だと「七番」の方だと宝石を解放しているだけ、「冬の河」を付けてるのは発動方式の指定が入っていると思われます。
 ただし、あくまでも凛が自分の魔術を込めているだけなので凛本人のキャパシティを越える魔術が使えるわけではないこと、それを発動する為の魔力は長い時間かけて地道に宝石へ注ぎ続けなくてはならないことなど、とにもかくにも準備に時間がかかることも追記しておく。


 駆け足で見てきましたが、上記の通りノタリコンの速度のでたらめっぷりは相当のものです。
 シエル=ロアが使用する数紋術なるものがあり、一説には呪文を数字に置き換えて詠唱できるとか・・・信用できるソースがないのでどこかの二次創作の設定かもしれませんがそういうのでも持ち出さない限り普通の魔術師との撃ち合いで負けることはまずないでしょう。それでも高速神言と同じ威力の魔術を放つとなればスピードの面で劣るのは間違いないと思われますが。
 まあ、それ以前に自分の回路を使っていないという点でキャスターには出力の限界が無いという可能性すらあり、フルチャージ状態の柳洞寺にいる限りこれまで出てきたどの魔術師(かの元帥にすら)勝ちが見込めるでしょうから。


ただし、某魔術師小説にこんな台詞があります。


「人を倒すのに、余分な熱と衝撃波を撒き散らす必要はない……これを分かっていないとは、かの死の絶叫もしょせんは凡人だな! 実に泥臭い! 人を倒すには、一瞬電流を流し、神経を麻痺させるだけでも十分なのさ!」 〜牙の塔のコミクロン


 彼はこの後「でも余波を撒き散らした方が外したときフォロー効くでしょ?」と直撃しなかった熱光線の余波で吹き飛ばされたりもするのですが火力が高けりゃいいってもんじゃないことは事実です。ノタリコンも高速神言もあくまでもスキルの一つ。勝敗はそれのみでは決まらないという事を結論にこのページを閉じさせていただきます。