2-2 遠坂先生の魔術講座(新弟子検査編)

「きりーつ、れーい」
 日直のやる気の無い声と共に一日の授業は全て終わり、士郎はぐっと伸びをした。
「さて、今日はどうしようかな・・・」
 呟き、今日の行動方針を模索する。衛宮士郎の放課後といえば普段なら、

1.生徒会の手伝いをしよう
2.アルバイトに行こう

 といった感じの二択なのだが、何しろ今は家に放っておくと何をしでかすかわからない連中が大量に生息しているし、行方のわからない残りのサーヴァントについて他の魔術師に聞きに行くのもよさそうだ。そうなると、今日の選択肢は・・・

1.セイバー達の様子を見にさっさと帰る
2.凛に弄ばれにとっとと行く
3.桜まつり

 といったところか。
「ここはひとつ3―――」
 士郎がしばし考え込んでからそう呟きマウスを握った瞬間だった。
「衛宮殿、衛宮殿。しばし待たれよ」
 通りすがりの後藤君が肩をぽんっと叩く。どうやら昨晩見ていたのはわかりやすい時代劇だったようだ。
「なに? 後はクリックするだけなんだけど」
「横文字は良くわからんでござるが、その前に廊下を見た方が良いと思うでござるよ? では、拙者はこれで・・・」
 さかさかと去っていく背を見送り士郎は廊下のほうへ視線を投げる。そこに。
「・・・何やってんだ?あいつ」
 腕を組み、口をへの字にした遠坂凛が立っていた。その風格はまさに侠客立ちとも呼べる堂々たるものだが、本職が見れば「切れてねぇ」と文句を言うかもしれない。
「なああれ、遠坂さんだよな」
「ああ。でも機嫌悪そうだぜ?珍しい・・・っていうかはじめて見たよ俺」
「おい、声かけてみようか?」
「やめとけよ。身分が違うって」
 口々に言いながら去っていくクラスメートをぼうっと眺めながら士郎は放課後の選択肢が決定したのを感じていた。
 凛が何をしているのかはわからないが、今現在に限って言えば聖杯戦争に関わっているという共通項のおかげで合法的に声をかけられるのだ。このチャンスを逃がす手は無いだろう。
「・・・よし」
 あっちは遠坂凛でこっちは所詮衛宮士郎に過ぎない。分不相応だがまあ、声をかけた程度で抹殺されるわけでも・・・わけでも・・・無いと思いたい。昨日のことを考えるとやや自信が無いが。
 そそくさと机の中身をカバンにおしこんで準備完了。躊躇っててもしょうがないので早足で廊下に出ると凛はむっ・・・とこちらに目を向けてきた。
「何やってんだ? 遠坂」
「・・・待ってたのよ。あなたを。しかも10分近く」
 早く気づけよおい、とその目が告げている。どうやら自分で思っていたよりも大分長く考えこんでいたようだ。
「えっと、なんか用か?」
「・・・帰るわよ」
 はぁとため息をついて凛は首を振った。
「別に用とかじゃなくてただ一緒に帰ろうと思っただけなんだけど、そういうのじゃ駄目なわけ?」
「え?」
 予想外の台詞に戸惑う士郎にふん、とそっぽを向き、そのまま歩き出す。
「あ、ちょ、待って。いい、いいに決まってるだろ」
 否応無く注目を引きながら士郎はその背を追いかけた。三歩で追いつきスピードをあわせる。
「・・・・・・」
 ちらりと横目でこちらを眺めて凛は表情を緩めた。何かおもしろいことでも見つけたのか、どことなく上機嫌になったような気がする。
「いや、遠坂が俺を訪ねてくるなんてこと想像もしてなかったからさ」
「なんで? わたしってそんなに引きこもってそうに見えるの?」
「いや、そういう意味じゃなくて」
 自分が学園のアイドルという希少価値の高い立場に居るという事実を完璧に無視した台詞に士郎は苦笑するしかなかった。
 まあ、自分が更に希少価値の高い立場に居るという事実にまったく気付いてないのでお互い様ではあるのだが。


 嫉妬と奇異の視線を一身に浴びながら学園を出る。しばらく無言で歩いていた凛は周囲の生徒達がまばらになってきたのを確認して口を開いた。
「衛宮君。今更なんだけど確認していいかしら?」
「ん?何を」
 凛はうんと頷いて真面目な表情で士郎の目を見つめる。
「本当は最初の日に確認しておくべきだったんだけど・・・あなた、どんな魔術師なの?」
「む・・・」
 口ごもる。確かに教えておかなければならないだろうが、ちょっと躊躇。
 何しろ彼に使えるのはたった二種類の魔術のみ、しかも片方は意味が無いから使うなとと師から教えられたので今では気晴らし程度にしか使わないものなのだ。実質、極めて初級の一つだけが衛宮士郎の魔術と言うことになる。
「・・・強化。それしか使えない」
 しかし、思い切って告白したその台詞に凛はむーっと半眼になった。
「遠坂?」
 問われ、そのまま目を閉じそっぽを向いて僅かに唇を尖らせる。
「まあ、そうよね。用心深いのはいいことだし、こっちの情報を開示してないから魔術師としての等価交換の原則にも反するし」
「え? ・・・ぅえ!? い、いや、別に誤魔化してるとか隠してるとかじゃなくて」
「・・・いいのよ。それくらい用心深い方が一応チームを組んでる身としては心強いし」
 凛はうんと頷き、思わず最後に付け加えてしまった。
「ちょっと、思い上がってただけ。反省しなくちゃ・・・」
 言ってからしまったと顔をしかめる。こんな場で本音を語るとはなんたる未熟。魔術師としても、女としても。
「待った! 違うんだ遠坂。隠し事なんかする気は無い! 俺は遠坂を全面的に信用しているぞ。この二日間、遠坂は無茶こそ言ってもいつも意見自体は正しかったし」
「う・・・ありがと」
 照れている自分を感じながら気を取り直し追及を続ける。
「ともかく! 使えるのが強化だけってのは嘘でしょ? 最低限、治癒は出来る筈じゃない」
「? なんでさ」
 心底不思議そうな顔で言われて凛は逆に戸惑った。
「あのねえ・・・昨日、一昨日とエクスカリバー喰らって平気な顔してるのは誰? まあ見た感じあれの本体って斬撃そのものだから実際に当ってるのは余波の熱と衝撃なわけだけど、それだって強化程度で防げるものじゃないわよ? 自動回復(リカバリー)とかしたんでしょ?」
「む・・・でも昨日は遠坂も一緒に吹っ飛ばされてたじゃないか。平気でその後動いてなかったか?」
 サーヴァント達と桜も一緒に。
「わたしは自力で防御壁つくったもの。そうね、先に教えておくと遠坂は流動の魔術を使うわ。得意なのは宝石に魔術を込めて限定礼装を作ることで、昨日使ったのもそれ。ちなみに個人としての属性はアベレージワン」
「アベレージワン・・・五大属性統一?」
 一般的な魔術師は自然界をつかさどる元素のうちどれかを自らの属性として持つものなのだが、稀に特殊な素質を持つ魔術師というのが存在するのだ。『影』『光』『生命』などなどいった元素とは関係ないものを方向性として持つ彼らは極めればその道限定でだが他の追随を許さない才能を誇る。
 そしてその中でも更に特殊なのが凛の持つ『元素統合属性』。世界を構成する要素全てに対して等しく対応する素質。全てを制する一である素質。故に、アベレージ・ワン。
「そ。桜はサーヴァント達が守ってたみたいだから無傷でもおかしくないけど・・・二日にわたって衛宮君はノーガードで受けていた。それなのに吹っ飛ばされてしばらくしたら普通に立ってくるってのは異常よ。どんな仕組みなわけ?」
「・・・う〜ん、正直なところ・・・俺にもよくわからないんだよな」
 数秒悩み、士郎は正直にそう答えた。凛は『?』と目を丸くして首をかしげる。
「いや、ほんとに俺がまともに使えるのは強化だけなんだ。しかも成功率は低いし吹っ飛ばされるときにはそれも使ってない。でも光熱波の直撃受けて無傷なのも不思議だし」
「セイバーが手加減でもしてるのかしらね・・・でも、そういう器用なことが出来る宝具ではなさそうなんだけど。あれは・・・」
 唇に指を当てて考え込んでいた凛はしばらくして首を横に振る。
「駄目ね。今度本人にも聞いてみるわ。それよりも重要なのは、衛宮君が強化しか使えないって事の方」
「? ・・・重要か? それって」
 邪心無く聞き返してくるのにはぁとため息。
「重要に決まってるでしょ? つまり、戦力としてはほぼ人数外ってことなんだから」
「む。そりゃあ強いとは言えないけど・・・」
「人数外なの!いい?サーヴァントっていうのは生きてるうちからその道を極めた英雄だった奴が世界のバックアップを受けて更に強化された存在なのよ? 衛宮君が鍛えているのは見ればわかる。殴り合っても相当強いってのもね。でも、例えばセイバーやランサーと近接戦闘して勝てる?」
 思い出すのは昨日の晩。ギルガメッシュの打ち出す短刀・・・それも一つ一つが強力な魔力を宿す宝具をことごとく回避し、打ち落として見せた槍の英雄。そして記憶の奥、見惚れるほどの剣技を閃かせる剣の英雄。
「いや、無理だな。どう考えても」
「でしょ? 私達魔術師はサーヴァントのバックアップをするのが仕事なの。そりゃあ接近戦で不意打ちするのもいいけどそれは敵マスターを攻撃するときに限定よ。強化の魔術じゃ自分の身を守るぐらいしかできないわ。相手がサーヴァントだったらそれすらも無駄と考えた方がいいわね」
 しばし沈黙。ただただひたすらに足を動かし、家路を進む。
「・・・ショックだった?」
 数分して、凛はそう言って士郎の顔を覗き込んだ。
「ん? いや、力不足はもとから知ってることだし。なんとかするよ。今だけじゃなく、これからも戦っていくつもりなんだから」
 やや不安なまま目にしたその表情は決意。届かなくても、報われなくとも手を伸ばす揺ぎ無い意志。あの日、赤い校庭で見た眩しいもの。
「そっか」
「そうだよ」
 短く言い合って二人は目を前に向けた。見えてきたのは衛宮邸。二人の帰るべき場所。
「・・・それじゃあ、鍛えるしかないわね。よかったらだけど、わたしが教えようか? 魔術」
「!?」
 その言葉に士郎は目を丸くした。想像もしていなかったような、そうあるのが自然なような気持ちを抱えて。
「い、いいのか? 俺、ほんとに未熟だぞ?」
「わかってるわよ。でもしょうがないじゃない。バーサーカーはああいう人だったからいいとしてこれから先に敵対するサーヴァントが居るかもしれないわけだし」
 そこまでは建前。
「それに・・・わたしさ、努力してるのにそれが報われないのって、嫌いなのよ」
 士郎は、もっと報われていい。
 その支払ったものの大きさに値する成果を得ていいはずなのだ。そう感じるのが本音。
 どこから来るのかわからない、赤い丘のイメージと共に感じるもどかしさ。
「報われないってわけじゃないけどな。俺の才能と努力が足りないだけで。でも、教えてもらえると助かるよ。親父が死んでからこっち新しいことは何も学べてないから」
「? ・・・なに? 衛宮君の師匠ってなにも資料残してくれなかったの?」
「ああ。もともと親父は俺に魔術を教える気は無かったみたいだから。そういうわけで俺は衛宮士郎だけど衛宮の魔術はこれっぽっちもついでないんだ」
 言いながら玄関をくぐった士郎にふむと頷き、ふと凛は脚を止めた。
「どうした? 遠坂」
「衛宮・・・士郎」
 ぽそりと呟き、ふむふむ頷く。どことなく、顔が赤い。
「? なにさ」
「士郎」
「ん?」
「士郎」
「士郎だけど?」
「士郎」
「それがどうした?」
 延々と呼びつづけるあくまさんに士郎は首を傾げるが。
「・・・なんでもない」
 凛は赤い顔のままぷぃっとそっぽを向いて靴を脱ぎちらかして家にあがった。
(―――もう違和感無いわけね。・・・名前で呼んでも)
 くすぐったいような、つまらないような。
「・・・なんなんだか」
 乙女ハート発動中の紅い背中に首をかしげて士郎も家に上がり、自分と凛の靴をきっちり踵をそろえて置きなおす。
「・・・細かいわね」
「・・・女の子なんだし、もう少し気をつけたほうがいいんじゃないか?」
 むぅと唸る凛と共に士郎は歩き出す。
「そうだ。弟子入りの話だけど、なんにしろ実力を測るとこからはじめないといけないし、後で道具とか取ってくるわ」
「ん。夕飯は?」
「ステーキで」
「無理」
 そして、他愛の無い話をしながら居間へ入った二人じゃ。
「おかえり。邪魔してるぞ娘と義理息子候補」
 ―――そろってカバンを取り落とした。
「土産がある。後で見ておくといい」
 居間のテーブルに座り――何故か似合わない正座で―――湯飲みを傾けていた神父はそう言いながらバサッと本の束をテーブルに載せた。

『ゼ○シィ 〜春の式場大特集〜』
『た○ご倶楽部 〜出産直前に慌てない為に〜』
『K県ラ○ホテルマップ 〜これが勝利の鍵だ〜』

 凛は無言でコートの袖に仕込んであった宝石を取り出しテーブルに叩きつけた。沸騰する光の奔流が紙のカタマリと神の使徒を等しく壁まで吹き飛ばす。
「ふむ、合格」
 すっ飛びながら言峰綺礼は空中で華麗に回転して着地した。嫌な光景である。
「あんた、本当に殺すわよ・・・!?」
「照れなくても良いでは・・・待て、凛。その威力だとこの部屋が吹き飛ぶぞ」
 無表情に言われて凛はぐっと奥歯を噛み締めた。目を閉じ冷静になれ冷静になれと自分に働きかける。こいつの相手をまじめにしても無駄だ。真っ黒な墨汁に一滴ミルクをたらしても白くはならないのだから。こんちくしょう。
「で、言峰・・・なんで俺の家に居るんだよ」
「む」
 まだ慣れていない分呆然とする時間が長かった士郎の言葉に綺礼は軽く眉をしかめる。
「貴様のようなどこの馬の骨ともわからん奴にお義父さんなどと呼ばれる筋合いは無い」
「言ってねぇよ!」
 ゼロセコンドで突っ込む士郎の姿に赤い外套の英霊を少し重ね合わせながら凛はため息をつく。
「綺礼、無駄口を叩かず答えなさい。みんなはどこ? それとあんた、数日は帰らないんじゃなかったの?」
「そうだよ。確か魔術協会と連絡取るとかで」
「・・・それについては私から説明しましょう」
 二人の問いに答えたのは台所から現れた人物だった。スーツに割烹着、三角巾という何かを著しく間違っている服装の女性。中性的でクールな容貌が目を引く。
「えっと、あなたバゼットさん・・・でしたっけ。ランサーさんのマスターの」
 士郎の言葉に頷きバゼットは三角巾を外しながら居間に入ってきた。綺礼の横を通り過ぎる際に二人の間でパンッ・・・という音がしたような気がするし何故か綺礼が無表情に鼻血をたらしたりしているがとりあえず無視。
「サーヴァント達ですがセイバーとランサーは鍛錬だと言って道場に。ギルガメッシュは客間で寝ているようです。奴はよく寝るし寝起きも良くない。正体不明の子供サーヴァント二人も同じく昼寝、バーサーカーは庭で雑草を抜いていましたね。イスカンダルは散歩と称してその辺をさ迷っているしアーチャーに関しては・・・」
 そこで含み笑いをもらしたバゼットに凛はむっと顔をしかめる。
「アーチャーがなによ」
「いや、マメで律儀な子だと思っただけです。彼女はこの頭上、屋根の上から我々を監視しているようですね。弓兵の名の通り遠距離攻撃が可能であることを考えれば、私か綺礼が遠坂さんに危害を与えようとしたら天井ごと射抜いて殺す気なんでしょうね」
 ひとしきり笑ってからバゼットは割烹着を脱いだ。何故だか士郎の心の中に残念な気持ちが広がり、凛から感じた殺気にその考えを慌てて思考の隅へと押し込む。
「そ、それで・・・なんでここに居るかの答えは?」
 問われ、バゼットはああと頷いた。スーツの内ポケットからタバコの箱を取り出し、とんっ振ってそこから一本を振り出し、くわえる。
「ふふ、そんな顔をしないでほしい。灰皿の無いところでは吸わない程度の常識は所有していますから」
「私を灰皿にすることはあるがな」
 淡々と言ってくる綺礼は無視。話が進まない。
「さて、私と綺礼はそれぞれの所属する組織とコンタクトを取ろうとしていた。名乗っていませんでしたが、私は魔術協会の封印指定魔術師の捕獲をやっています。その関係上有事の際の拠点をいくつか知っているのでそこへ向かい車を走らせ―――」
「対する私は、聖堂教会の代行者に会おうとバイクを駆っていたのだが」
 綺礼はぴっと鼻血を指でぬぐって無表情に首を振る。
「結果として、二人して失敗した。それぞれ別の方法で街を出ようとした私達は気づけば二人して教会の中に立っていたのだ」
 思いがけない言葉に凛と士郎は顔を見合わせた。突拍子も無い言葉ではあるが、この場に居るのは全員が全員魔術師だ。結果があればそれを導く原因があることを知っている。
「結界・・・?」
「おそらくは、ですが」
 バゼットはタバコを唇の端にぶら下げて笑った。
「しかも途方も無い規模で、尚且つ精密なものと判断できるでしょう。今のところ境界線がどこにあるのかも感知できないしその性質も不明ですが。少なくともこの街の流通は止まっていないし、人の流れも通常通り。通勤、通学している者たちはいつもどおり電車に乗ってそれぞれの目的地へ向かい、帰ってくる。昨日一日で調べた限りだが誰もおかしな現象にはあっていないそうですね」
「・・・聖杯戦争関係者だけが閉じ込められている、ということかしら。町全体に及ぶ結界なんていったら魔力がどれだけあればいいのかわからないし、わたし達にそれとなく拘束の魔術をかけたっていう方が現実的かも」
 凛の意見にバゼットはふふ、と笑い頷く。
「良い判断です。だが問題もある。君や私、綺礼・・・そこの少年とてその辺りには疎いと聞いているが、仮にも魔術師でしょう? レジストどころか気づかせもしないような魔術を他のマスターも含めた全員にかけられるなら、そんな面倒なことをしなくてもそいつが聖杯戦争の勝者になっているでしょう。この状態で聖杯が手に入るかはともかく、ですが」
 それもそうかと士郎は頷き、首をかしげる。
「じゃあ結局何が何だかわからないけど街からは出れなかった、と」
「その通りだ衛宮士郎。故に、私達はまずその現象の調査と破壊を行うことにした。今日ここへ来たのはそれを伝える為ともう一つ、それの為だ」
 言って綺礼が指差したのは、先程凛が吹き飛ばした結婚雑誌やらなにやらの束。
「・・・あんたね」
「いや、遠坂。見てみろ。無事な奴がある。雑誌じゃないぞ?」
 士郎の言葉に凛は嫌々ながらテーブルの方に視線を向けた。粉々になった紙の残骸にまじり、一枚だけ無事なものがある。書いてあるのは数十行にわたる簡潔な報告。曰く、
『巨大な魔力が柳洞寺近辺で感知。キャスターの可能性あり。調査要』
 まともだ。
「っていうか、最初からそれだけ伝えてくれればいいのに」
「芸が無いだろう」
 凛はとりあえずガンドを綺礼に撃ちこんでから士郎を見た。
「どうしよっか。まだ夕食時まで時間あるし、偵察にいってみる?」
「ん・・・」
 士郎は考え込み、ふと思い出して表情を引き締めた。
「そういえば一成が言ってたな。最近寺の周りに不審な女が居るって」
「ビンゴっぽいわね。行ってみる価値はありそう」
「ふむ。では忠告だ」
 綺礼はふっと視線をそらし呟いた。
「・・・なんだよ」
「物干し竿には気をつけることだ」
 士郎と凛は顔を見合わせる。目で語ること十数秒。
「じゃあ、ちょっと行ってきますバゼットさん」
「さて、アーチャー。降りてきなさい!話は聞いてたでしょ?」
 軽く会釈して二人は居間を出た。
 
 無視は時に、何よりも狂気への対応策となる。

「補足トリビア。切嗣には愛人が居た」
「何を補足してんだよそれは!」
 無視できないから、キ○ガイなのだが。