2-4 少女幻視。
「がぅ?」
バーサーカーはふと呟いた。リュードージなる目的地まで、後は階段を昇るだけという場所で。
「どうした? バーサーカー」
「オンナノコ・・・?」
狂戦士というクラス故か、彼女は言語機能が不自由な状態だ。考えた事の一割も伝えられないまま、バーサーカーはすっと手を上げる。
「イタ、フシゼン」
言いながら指差したのは山並みに広がる林。冬の早い日は落ち、あたりはすっかり暗闇に包まれている。その黒い木々の中に、だれかが居たような気がしたのだ。それも、小さな女の子が。
「・・・確かに、この時間にちっちゃい子が山歩きってのもおかしいけど」
きょろきょろと士郎は辺りを見渡している。魔力を通して強化した視力で観察するが、人影らしきものはない。
「みんな、どう? なんか見えるか?」
「がぅ」
満足に喋れない自分の言葉にも真剣に応じてくれることに感謝しながらバーサーカー自身も改めて辺りを見渡してみた。
「・・・・・・」
少女。
かつて、彼女にはマスターが居た。そういう記憶がある。ぼんやりと、だが。
あるいは他のどこかへ召喚された際の記憶の混濁かもしれず、ただの思い違いの可能性もある。
だが、あの時。教会前の広場で何故か召喚された時からずっと、白い髪の少女のことが記憶を引っかいてやまないのだ。寂しがってはいないだろうか? ちゃんとご飯は食べているだろうか? お付きの二人に辛く当っていたりはしないだろうか? そんな細々としたことが心配でならない。
「ん・・・見えないな。ごめん」
しばしみんなして辺りを見回した後、士郎はそう言った。
「コチラコソ」
バーサーカーはがぅと頭を下げて少女のイメージを心の隅にしまった。今はその少女と似た匂いのする、目の前の少年をこそ重視しよう。
「よし、じゃあ登ろっか」
士郎の声を合図に一同はいそいそと石段を登り始めた。
「・・・そういえば」
長い階段の途中で呟いたのはギルガメッシュだった。
「地球へ(テラへ)、というアニメがあってな」
「あぁ、あったね。うん。俺も見たことあるよ」
士郎の相槌にセイバーは不思議そうに首を傾げる。
「? ・・・それがどうかしたのですか?ギルガメッシュ」
ギルガメッシュは数十秒間悩んだ。自覚している。寒かったのは自覚しているのだが今更無かったことにするなど英雄王の誇りが許さない。
「む・・・じゃから、寺へ・・・」
「――――――――――――ふぅ」
セイバーさんは、物凄く失望した顔で息をついた。どうやら駄洒落はお気に召さなかった模様。
「・・・く」
ギルガメッシュはそのリアクションにふんっとそっぽを向いた。それっきり、全員黙々と階段を昇っていく。
「・・・がぅ」
その頭をバーサーカーはぽふっと撫でた。背が低めのギルガメッシュと並ぶとまるっきり大人と子供だったりする。
「む・・・ぐ、愚弄するのか貴様!」
「がぅ」
いえ、そういうわけでもないのですが。と手をパタパタさせるバーサーカーに口をへの字にしたギルガメッシュは足を早める。とりあえず元気にはなったようだ。
「・・・さんきゅ、バーサーカー。フォローご苦労様」
士郎の賛辞にバーサーカーはポッと顔を赤らめた。小さな照れ笑いにたいそう癒される。
「何をしておる雑種ども! 早く行くぞ!」
「がぅ」
山門まで辿り着いたギルガメッシュの声に士郎達は足を早めて階段を登りきり。
瞬間・・・十以上にも昇る黒い影が一斉にバーサーカーに襲い掛かった・・・!