3-3  シャドウ

 時は20分ほど遡る。
「では一緒に歌ってみようっ!」
 イスカンダルは散歩の途中、元気がだだ洩れの声でそう叫んだ。右手を繋いだあんりと左手を繋いだまゆもYeahと元気に叫び返す。
「今日の一曲目! 『大家さんを称える歌』!」

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 大家さんを称える歌 作詞 あなたのイスカ 作曲 らぶりーイスカ

1番
 大家さんはねっ はーれむるーとだほんとはねっ
 だけど小心者だから 結局いまでも一人身だっ
 もったいないねっ 大家さんっ
2番
 大家さんはねっ 不死身のぼでぃだほんとはねっ
 だけどそれをいいことに まいにちふっとばされているんだねっ
 悲しいねっ 大家さんっ

(台詞)
 明けの明星が輝く頃、一つの光が宇宙に帰っていく。 
 それが僕なんだよ・・・ 
                    モロ○シ ダン

3番
 大家さんはねっ ■■■■■が■■■いんだほんとはねっ
 だけど■■ないから どのルートでも■■■されてしまうんだねっ
 ■■だねっ 大家さんっ

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 フルコーラスで歌いきってからあんりとまゆはくいっと首をかしげた。
「イスカ姉ちゃん、3番の歌詞、全然意味がわかんないよ?」
「大人になったらわかるんだねっ!」
「イスカ姉さま? そもそもこの曲のメロディーは某童謡なのでは?」
「大人の事情ってやつなんだねっ! 追及すると怖い人たちにお金を払わなくちゃいけないのさっ」
 言って、イスカンダルはすたっと足を止める。
「到着! 柳洞寺なんだねっ! この階段を登るよっ!」
「うわ、長いよ〜」
「うふふ、あんりちゃんは食べすぎですから〜、これくらいは運動しなくちゃ駄目ですよ〜?」
 まゆにくすくすと笑われあんりはむっと唇を尖らせた。
「なんだよ〜! まゆだって同じだけ食べてるじゃないか〜!」
「あらあら、そうでしたっけ?」
「喧嘩はよくないんだねっ! それと、頑張ったらちゃんとご褒美があるんだねっ」
 イスカンダルの言葉にちびっこズは顔を見合わせる。
「ご褒美ですか〜?」
「何!? 何!?」
 押しくら饅頭のようにつめよってくる二人にイスカンダルはぴんっと人差し指を立ててウィンクしてみせる。
「ここの住職さん、ちっちゃいこが境内で遊んでるとお菓子とジュースをくれるんだねっ! ただし女の子限定!」
「いぇーい! お菓子ー! ろりこーん!」
「わーい、ジュースです〜! ペドフィリアです〜!」
 寺の評判を著しく傷つけそうな歓声と共に二人はペタペタと靴を鳴らして山門に続く階段を駆け上り始めた。微笑ましげな表情でイスカンダルもその後に続く。
 冬とはいえ暖かな日差しの中、三人は笑いながら林の中を駆け上がり。
「・・・!」
 イスカンダルの表情が消えた。同時にだんっ・・・! と強烈な踏み込みんで数段まとめて階段を登り、その中間地点であんりとまゆを両脇にキャッチ。
「わ、何!?」
「なんです〜?」
「ごめん、口閉じて! 舌を噛む!」
 そして着地と同時に再度石段を蹴って後方へと身を投げる。今度は大きく、数十段下の地上へと一気に。

 ゴウッ!

 瞬間。あんり達が居た場所を光の球が抉った。石段の数段分を削り取ったそれは飛来したのとは逆側の林に飲み込まれ数本の木々にもダメージを与えて消滅。
「今の!」
「魔力弾!」
 あんりとまゆが驚きの声をあげる中、イスカンダルは空中でくるりと体を回転させて地面に降り立った。
「・・・今の威力、ちょっと洒落にならないレベルだね。あんりちゃん、まゆちゃん。立って。走れる?」
「う、うん・・・」
「でも今のは一体?」
 問われ見上げた柳洞寺を包む林に魔力の高まりを感じてイスカンダルは息を大きく吸い、吐く。
「誰かは、わからないね」
 制服のポケットから取り出した携帯を頭上から目を離さぬままに操作し、呼び出すのは衛宮家の仲間。綺礼から携帯電話を支給されているランサー。
「・・・くすくす、でも、あれは敵だよね?」
「・・・ええ。そうですね〜、あんりちゃん」
 声にイスカンダルは素早く振り返った。
「駄目! 君達は戦っちゃ駄目!」
「なんで? あれ、敵だよね? 攻撃してきたよ?」
「攻撃してきた奴は、食べちゃっていいんですよ〜?」
 先程までと全く変わらぬ無邪気な表情。その笑顔にイスカンダルはぶんぶんと首を振る。
「戦わなくていいんだよ! 君たちはもう、復讐者なんていうクラスでなくていいんだよ! だって・・・だって! ここにはみんないるんだから! あいつとだってまだ、わかりあえるかもしれないんだから!」
 叫ぶと同時に電話が繋がった。
『ランサーだ。どした?』
「敵襲!」
 まずは一言告げてイスカンダルは不満気にこちらをみあげる二人の背を押した。
「来た! 今はボクの言うことを聞いて!」
 刹那撃ち込まれてきた第二撃に三人は走り出した。背後にちらりと見える全身をローブで包んだ人影に鋭い視線を向けてイスカンダルは携帯電話を握り締める。
「さぁ、たった一人じゃ何もできないことを教えてあげよるよ・・・!」