4-2 食卓百景(3)
「いやあ、朝から眼福眼福」
「・・・親父くさいわよランサー」
朝食の席で満足げに笑うランサーに凛はジト目になった。目玉焼きの付け合せのボテトをフォークで刺して口に運びつつ横に目を向ける。
「・・・・・・」
隣に座っているのはいつも通り士郎だ。ギシギシとぎこちない動きで牛乳パックに手を伸ばし。
「・・・あ」
「あ・・・」
ちょうど同時に手を伸ばしていたセイバーの手と軽く交差して二人して素早く引き戻す。
「せ、セイバー。先使いなよ」
「いえ、シ、シロウこそ先に・・・」
ごにょごにょ言い合う二人に食卓全体が緊張感のある空気で満たされた。
「・・・先輩、セイバーさんと何かあったんですか?」
笑顔。非の打ち所の無い微笑みで桜が問う。今朝から金属製のものに交換した箸が手の中でミシミシ言ってなければもっといい。
「ふふふ、桜さま。無粋なことを言ってはなりませんよ? お二人とも若いのですから毎日でも、いえ・・・朝昼晩と三回くらいは余裕でしょうし」
「佐々木さん!何のこと言ってるんですか!」
「鍛錬ですが? 旦那様。ふふ、何か違うものでも想像しましたか?」
口元に手を当てて笑う佐々木に士郎はややぐったりとして視線をそらした。我関せずとばかりに黙々とトーストを食べているアーチャー、膝にあんりとまゆを乗せてその世話をしつつ3つ目の目玉焼きを食べているバーサーカーを通過してその隣でマグカップを抱え込むようにして黙り込んでいる少女に目を向ける。
「メディアちゃん、食べないの?」
「う・・・」
少女の前に供された目玉焼きもポテトもベーコンも半分に切ったトーストも全く手をつけられていない。手にしたマグカップのホットミルクもほとんど減っていないようだ。
「お腹、減ってないのですか?」
佐々木に問われ、キャスターはびくっと震えてからブンブンと首を振った。
「べ、別にびっくりなんかしてないもん!」
「はい?」
噛み合わない答えに佐々木ははんなりと首をかしげる。
「びっくり、ですか?」
「し、してないもん! たくさん人がいたってへいきだもん! 喋ることがみつからないんじゃなくて喋らないだけだもん」
グレイブディガー。それは墓穴掘り。
「そっか。召還されてからは林の中に隠れてたって言ってたっけ。そりゃいきなりこんな賑やかだったらびっくりするよな」
「うふふ・・・じゃあ、わたくしとお話してくれますか? メディアさま」
穏やかな笑みに、キャスターは数秒間マグカップの中の白い水面を見ていたが。
「・・・うん!」
こっくりと、元気よく頷いた。
「では、メディアさまは直刃と乱刃、どちらの焼きの方が好みですか?」
「いきなりマニアックすぎるぞ・・・」
アーチャーはボソリとつっこんでコーヒーを喉に流し込んだ。
とりあえず、今朝は何事もなし。平和平和・・・