<幕前 舞台裏>
薄暗い舞台裏を見渡して恭一郎はむぅと唸った。
「で?なんなんだよこんなとこ呼び出して」
「うむ。そろそろ夏だよな?」
それに答えるのは目つきの悪い小説家だ。
「まぁ夏よね。そっちでは」
「私たちはまだ2月だけどね」
美樹と葵が顔を見合わせる。
「というわけで、ほい」
「むむ?」
「なんです?これは?」
小説家の差し出した箱を眺めて不審気な顔をするエレンと愛里の横でみーさんはポンと手を打った。
「夏、箱、舞台裏。ということは」
「ことは?」
恭一郎に聞き返されてみーさんはがくがくと首を振る。
「つけひげ」
「何故?いや、あまり遠くないかもしれないが・・・これはだな、くじ箱だ。中に今回の君たちの命運を決めるくじが入っている」
言いながら小説家はくじ箱を揺らした。がさがさと音がする。
「というわけで、今回のだぶへぶEXは夏を乗り切る企画もの・・・ごったまぜシンデレラだ!」
「・・・なにそれ?」
美樹の言葉はその場にいた全員が同じ思いだったらしく全部で十数本にのぼる視線が小説家に集まる。
「ようするに、君たちでシンデレラをやってもらう。ただし、配役はこのくじ引きで決めるよ。それも、男女混合で」
「!?ちょっとまて!なんか今はじっこに豪龍院が居たぞ!あれがシンデレラだったらどうするんだ!」
「・・・さあ、くじ引きを始めるよー」
「おい、答えろ!」
「あ、ちなみにこの抽選は実際に行いました。つまりホントに配役はランダムです」
「誰に言ってんだ!おい!俺はやだぞ女役は!」
「・・・恭一郎の女装・・・」
「誰だ今の嬉しそうな声は!」
「愛里さん」
「ば、馬鹿者!言ってない!私は言ってないぞ!」
<第一幕:シンデレラの家>
今ではないとき、ここではない場所。
あるところに一人の少女が・・・幸いなことにちゃんと少女が住んでいました。
少女は母親を早く亡くしてしまい、父親と再婚した継母とその意地悪な娘にいじめられていました。
「ほーっほっほっ!廊下が汚れてるわよっ!掃除なさいっ!」
なんだか妙にはまっている継母(天野美樹)に呼ばれて少女はあわてて雑巾とバケツを持って現れました。
「おーい、洗濯まだー?」
「わ、わた、わたしの、部屋も掃除しといてね・・・」
意地悪な姉二人(山野四季&稲島貴人)に頷いてパタパタと少女は駆け回ります。毎日毎日朝から晩まで働かされて、粗末な服からポニーテールの髪まで灰にまみれて。
そうやって日々をすごすうちに自然と少女の本名は忘れられ、彼女はこう呼ばれるようになりました。
灰かぶり・・・シンデレラ(中村愛里)、と。
繰り返しますが、本当にくじびきの結果による配役ですので念のため。
それはともかく、ある日シンデレラは継母に呼び出されました。
「なんですか?お母様」
「ほーっほっほっほ!今宵はお城で王子様のお相手を探すパーティのよ!」
ちょい役があたってしまった美樹・・・もとい、継母はなかばやけっぱちです。
「わ、私も連れてってくれるのですか?」
「ダーメダーメ!あんたは留守番よ!」
「えっと、早くドレスの用意をしてく・・・してくれるかしら?」
顔を輝かせたシンデレラに意地悪な姉たちが厳しい現実をつきつけます。結構ノリノリの姉その1に対してその2は動きがぎこちないようです。
「はいお姉さま、ただいま」
ため息をひとつついてシンデレラはてきぱきと用意を始めました。
「ため息なんかついてんじゃなーいわよ!あたしなんてここ以外に見せ場もないのよ!ほーっほっほっほ」
「あたしなんてもっと影薄いしね!ほーっほっほ!」
継母と意地の悪い姉がなんだかよく似たしぐさでやけっぱちの高笑いをあげます。
「・・・ひょっとして、僕にとってこれはナイスポジション?」
もう一人の意地悪な姉がふと呟きましたが、ドレス姿の君は・・・
「それにしてもジマー(作者注:稲島の意)、スカート似合ってるね」
「ほんとほんと!引っ張っちゃえ!」
よく言っても、おもちゃです。
「それではいーってくるざます!」
「夕飯はいらないよー!掃除と洗濯しっかりねー!」
「えっと、留守番よろしく・・・」
それぞれ好き勝手なことを言って三人は馬車に乗り込みました。きらびやかなドレスに身を包みにぎやかに去っていく三人をシンデレラは薄汚れた服のまま見送ります。
「はぁ・・・掃除でもしよう・・・」
呟いてシンデレラが屋敷に戻ろうとした瞬間でした。
「待たれい!そこな少女!」
高い声とともに白煙が巻き起こりました。
「な、何?」
驚いて後ずさるシンデレラの前に煙の中から人影が現れます。
「よくぞ聞いた!私こそは魔法使い(エレン・M・マクライト)!恭一郎様より授かりし千の魔法でそなたを可憐にドレスアップする者なり!」
よりにもよって、一番魔法使いらしくない魔法使いです。まとったローブを内側から突き上げる凶暴なボディーラインが妙に目を引きます。
「はぁ・・・魔法使いですか」
あきれるシンデレラに魔法使いは無闇に自信たっぷりな態度で胸を張ります。
「私にはわかる!そなたは舞踏会に行きたいのだな!?」
「え・・・ええ。まあ、そうなんだけど」
もじもじとするシンデレラに魔法使いはうむうむと頷きました。
「そして、王子様役が恭一郎様だったらいーなーとか思っているに相違あるまい!」
「ええ・・・ち、違う!私は別にそういう職権乱用的なことは・・・!」
真っ赤になって反論するシンデレラの言葉を魔法使いはまったく聞いていません。
「かつて、とある人は言った!『若さ、若さってなんだ!?振り向かないことさ〜』と!」
類義語に、『認めたくないものだな・・・若さゆえの過ちというやつを』もある。
「今がチャンスな人々の支援が我々魔法使いの任務!ああ、殿!エレンは・・・エレンはやります!やって見せます!」
「ま、まぁいいか・・・それで、私を舞踏会に連れてってくれるの?でも、ドレスもないしお城まで歩いてたら終わっちゃうし・・・」
暴走し続ける魔法使いに冷や汗をかきながら根が真面目なシンデレラは一生懸命話を進めます。健気です。
「うむ!それは問題ない!ここに取り出したるはかぼちゃやらネズミやら」
ふところから取り出したそれらをシンデレラの足元に放り出して魔法使いは一歩下がります。
「えっと・・・これでどうしろと?」
「心配めされるな。この魔法の杖を一振りすれば・・・」
どう見たって、木刀です。
「ちょ、ちょっとまて・・・何故大上段に構える?」
「魔法だからだ!殿直伝、神楽坂無双流!」
叫びざま魔法使いは木刀・・・もとい、杖を豪快に打ち下ろしました。
「びびでばびでぶー!」
「っ!」
落雷の如き剣閃をさらに上回る動きでシンデレラは魔法の杖を白羽取りに受け止めました。鋭い視線が交差し・・・
ぼわん。
ここだけファンシーな音を立てて白煙が舞い上がりました。
煙がおさまると、豪華なドレスに身を包んだ美女が現れます。恋をするとなんとやら、最近可愛さに磨きがかかっているシンデレラその人です。
魔法使いの振り下ろした杖を白羽取りしている勇壮な風景に変わりはないのですが。
「こ、これは!」
自分の格好を見下ろして驚愕するシンデレラにふっとニヒルな笑いを浮かべ、魔法使いは剣を・・・じゃなくて杖を納めます。
「そなただけではないぞ。ほれ!」
いつの間にか、魔法使いの隣に豪華な馬車が現れています。カボチャ型という奇天烈なデザインはこの際置いとくとして。
「スタッフも手配済みだ。使ってやるとよい」
魔法使いの声に合わせて馬車の陰から馬数頭を連れて少女が現れました。
「さあ、早くお乗りなさい。舞踏会はもう始まっていますよ」
ネズミ耳の御者(四井紀香)の言葉に馬たちがいななきます。
「これで・・・これで舞踏会に出れるのだな!」
喜ぶシンデレラに魔法使いは重々しく頷きました。
「うむ。だが一つだけ守られよ。この魔法は12時になると自動的に消滅する。なにせこれはシンデレラだからな!」
「12時!?あと3時間・・・」
驚くシンデレラに魔法使いはぴっと指を立てます。
「よいか、兵は神速を尊ぶのだ。迅速に目標を確認後、すみやかに奪取せよ」
「なんか違う・・・まあ、いいのだが」
シンデレラはうさんくさそうに魔法使いを睨んでから気を取り直して馬車に乗り込みました。
「・・・ガラスの靴って、むちゃくちゃ歩きにくい・・・冷たいし・・・」
呟くシンデレラを乗せカボチャの馬車は動き出します。
目指すはお城。舞踏会会場へ。
<第2幕:お城の舞踏会>
「ふむ。エレガントでよいことだな」
貴賓席から舞踏会を見下ろして王様(綾小路薫)は優雅にグラスを傾けました。
「そう思わないかい?わが妻よ」
「そ、そうだね。あはは・・・」
王妃様(神楽坂葵)は乾いた笑い声を上げます。王様の妻なわけなのですが、王様のことが苦手なのです。
「それで、どうかな王子よ。よい女性にめぐり合えたかい?」
声をかけられて、傍らに立っていた王子は王妃様をぎゅっと抱きしめました。
「・・・たしかによい女性なのだが、彼女は君の母親という設定だ。それはさすがにまずいのではないかな」
「えと、そういう問題でもないような・・・」
王様と王妃様の言葉に王子様は残念そうな顔で頷きます。
もうおわかりですね。王子様(御伽凪観衣奈)は、ちょっと変な人だったのです。
「まあ、あれであるな。ワシ等にはあまり関係のない話ではある」
お城の中の喧騒をよそに、門番(豪龍院醍醐)は相棒に話しかけました。是非とも女装させたいキャラだったのですが、実に地味な配役です。
「そうっすね校長。でもまあ、肉体労働系のボク達にはこれがいいとこっすよ」
もう一人の門番(神戸由紀)は軽く伸びをして外の闇を眺めました。
「おや、なんか猛スピードで馬車が来るっすよ?」
「うむ。制限時速を30kmはオーバーしておる。免停じゃな」
二人が見守る中、闇を引き裂いてオレンジ色の馬車が城門へと突進してきます。
「止めてぇぇぇぇっ!」
御者の悲痛な叫びとともに。
「あー、暴走っすね」
「うむ。暴走である」
門番たちはやけに落ち着いた声で呟き、ぐいっと腕まくりをしました。ゆっくりと暴走馬車の進路に立ちふさがります。
「ひ、轢きますよ!?止まりませんよ!?」
間近に迫った御者にニヤリと笑い二人は・・・
「絶っ好ぅ調ぉうっ!」
「大漁っす!」
それぞれの叫び声とともに馬車に体当たりをかけました。
ズドンッ!
人体のたてる音にしては無闇に重い音が響き渡ります。
「・・・・・・」
惨劇を想像して思わず両手で目をふさいでいた御者は、しばらくしてからゆっくりと手をはずしました。
「うそ」
そこに、馬車をがっちりと受け止めた門番達が居ます。轢かれるどころか、むしろ馬車を押し返して。
「結構重かったっすね」
「うむ。よい鍛錬であった」
完全に停車した馬車から手を離し、門番‘Sは何事もなかったかのように笑います。
「・・・あの」
度肝を抜かれている御者に門番はぽんと手を打ちました。
「駐車場は門を入ってすぐの十字路を右っすよ」
「はぁ」
四井紀香が六合学園になれるには、まだまだ時間がかかりそうです。
「・・・あまりいい娘、いない」
群がる貴族の令嬢たちをすいすいとすり抜けながら王子様はぼそぼそと呟きました。背後でよけられた令嬢がばたばたと転んでも目にもくれません。
「あぁ、王子様〜」
「そんなところもすてきぃ」
ついでに言うと、元から美少年顔の王子様は男装すると浮世離れした雰囲気とあいまってかなり魅力的だったりもします。
「ん?」
そんな王子様が、ふと足を止めました。
「くっ・・・まけるな愛里・・・なんのこれしき・・・」
馬車にでも酔ったのか少しふらつきながら会場へ入ってきた少女を見つけたのです。
「おお」
王子様はぽんと手を打ちました。配役はお互いに知らされていないので、初顔合わせです。
「これはこれで」
なにか不穏な発言を残して王子様は少女・・・言わずと知れたシンデレラに歩み寄ります。
「そこのお嬢さん」
「は・・・」
返事しようとしたシンデレラは硬直しました。
「私と踊る。よい」
意外な配役に引きつっているシンデレラの手を引っ張り王子様は舞踏会場の中心に進みます。
「おお・・・美しい」
「やっぱ副主将は着せ替えがいちばんですね!」
各所から沸き起こる歓声の中、ようやくショックから立ち直ったシンデレラは王子様と向かい合いました。
「まぁ、しょうがないか。くじ引きだし・・・」
呟きながら優雅に一礼します。
「うん。わりとそんなかんじ」
王子も意外に優雅な動きで一礼してシンデレラの手をとりました。
おりしも音楽は新しい曲に入ったところ。二人は緩やかなワルツにのりゆっくりと踊り始めました。
以前の劇で味を占めちょっとダンスを練習してみたりしているシンデレラと戦場のたしなみとやらでもともと心得のある王子のダンスは予想に反してなかなかさまになっています。
案外ノリノリのまま、くるくるくるくると踊っているうちに時間は飛ぶように過ぎていきました。
「む、時間は?」
ふと気づいてシンデレラが柱時計を見上げると、二本の針はすでに頂上付近でひとつになろうとしているところです。
「ま、まずい・・・王子様、すいませんが用を思い出しまして・・・」
「駄目、今夜は帰さないよべいベー」
無表情に言われてシンデレラは絶句しました。なんだか本気で言ってそうなところが怖すぎます。
「あ、でも、その・・・ほら、他の人とも踊って差し上げなくては不公平ですし」
「問題なし。侍従、寝室の準備を」
危険です。物語的にも倫理的にもいろいろと危険域突入ですが王子様は止まりません。
「さあ、れつごー」
「いえ、ですから」
「衛兵、囲む」
王子様の号令とともにわらわらと衛兵があらわれてシンデレラを取り囲みます。危うしシンデレラ。このまま貞操を奪われてしまうのでしょうか?
「奪われてたまるか!」
一声叫んでからシンデレラは覚悟完了しました。
「王子、ご機嫌麗しゅう!」
「確保っ!」
飛燕の如く身を翻したシンデレラに王子様の号令で衛兵たちが襲い掛かります。ですが。
「脇が甘いっ!」
手近な衛兵の腰から鞘ごとサーベルを引き抜き、シンデレラは宙に舞いました。スカートをなびかして衛兵たちを次々に打ち倒していきます。
「動きにくいっ!」
そう言って履いていたガラス製のハイヒールをその場に捨ててシンデレラは疾走します。こうなってはエキストラの衛兵程度で捕らえられるものではありません。
「まるで・・・白い流星・・・」
衛兵達はあきらめて呟きました。スピード型の剣士であるところのシンデレラはその健脚を生かしてみるみるうちに遠ざかっていきます。
「ふっ・・・残念だったね王子よ。まぁ、少々エレガントさに欠ける手段だったからしょうがないといえるだろうね」
ぼーっと立ち尽くしている王子の肩をたたいて王様は優雅に言いました。
「あ、でも彼女が履いていた靴がここに残ってるよ」
王妃様がシナリオどおりに靴を拾い上げましたが、何故か王子様は首を振ります。
「大丈夫。それは、確認用」
「確認?」
問い返す王妃様にうなずき、王子はポケットから携帯電話のようなものを取り出しました。大きめの画面の中でピコンピコンと光点が瞬いています。
「発信機つけた」
確認しておきますが、この話はシンデレラです。
「え、えっと・・・ずいぶんと・・・ハイテクなんだね・・・」
「ぶい」
ほめていません。
「ふっ・・・なかなかにエレガントな手並みだね王子よ。それでは明日、朝一番で使いの者を出すとしようか」
「うん。捕獲」
「いや、あの・・・」
王妃様はつっこみを入れようとしてあきらめました。なにしろ、人の話を聞いていないことでは人後に落ちないのがふたりですから。
その代わりに、王妃様はあたりを見渡して首を傾げます。
「そういえば、恭ちゃんはどうしたんだろ?」
<第3幕 シンデレラの家>
翌日。
「はぁ、うまくいかないものだな・・・」
シンデレラは深々とため息をつきながら雑巾を絞りました。
なんとか無事にお城からは帰ってこれたものの、元通りのつらい日常が彼女を待っているのです。
「でも、あの王子様と結婚すると私の神経が持たない気もするし」
自分を励ますようにそう言ってシンデレラはずだだーっと廊下に雑巾をかけます。普通、この手のファンタジー世界では床は石畳なのですがこの世界はやや和風なので木造なのです。
「シンデレラ?シーンデレラっ!」
「はい?お母様?」
雑巾がけを中断してシンデレラは応接間へ向かいました。応接間の扉の前に腕組みをした継母が立っています。
「あの、なんでしょうかお母様?」
「シンデレラ、あんた何をしたの?」
継母の顔が引きつっています。
「ぅえ?」
同時にシンデレラの顔も引きつりました。
「おこらないからしょーじきにいいなさい?」
「いえ、べ、別に抜け出してなんていませんし踊ってもいませんよ?」
沈黙が二人の間に流れます。
「何の話?」
継母に不審気な顔で言われてシンデレラはしまったと口を押さえました。
「まあいいわ。なんだか知らないけどお城から使いの人が来てるのよ。この家に潜伏中の少女を捕らえるよう王子様から命令が出されたとか何とか」
「そ、そこまでするか・・・」
シンデレラは頭を抱えて唸ります。
「ともかく、後はあんただけなのよ。何かしたなら今のうちにゲロっときなさい?」
「べ、別にそういうわけでは」
口ごもるシンデレラの肩を継母はぽんっと叩きました。
「・・・罪を償って、綺麗な体で帰ってくるのよ?」
「いや、その、そんな哀れみに満ちた目で言われても」
ごもごも言っているうちにシンデレラは応接間の中に押し込まれました。ソファーにお城からの使いらしき男が座っています。
「ええと、シンデレラです・・・」
背後でドアが閉まり、シンデレラは覚悟を決めて使いに声をかけました。
「ん?ああ、わざわざわりぃな」
使いの男はそう言って立ち上がり、こちらを振り向きました。
「あ・・・」
シンデレラは思わず呟きます。使いの男は外ハネした髪をしていました。鋭い目つき、筋肉質で引き締まった体。自信に満ちた笑顔。
「王子の命令でな、このガラスの靴が履ける女を・・・どうした?」
手にした靴をぶらぶらさせながら説明していた使いの男(風間恭一郎)は首をかしげました。シンデレラが、なにやら追い詰められた笑顔を浮かべていたのです。
「あの王子と結ばれるエンディングよりは・・・」
「は?」
「報告します」
自室で拳銃の分解掃除をしていた王子のもとに側近がやってきました。
「今朝、件の少女のもとに使者を出したのですが」
「うん」
振り返った王子に側近は言いにくそうに報告書を読み上げます。
「使者を引きずって屋敷を飛び出して行ったそうです」
「・・・しまった」
王子様はむぅと唸りました。
「ようするに、駆け落ちです」
「愛里ちゃん、わりかし大胆」
台詞よりも表情は残念そうでもありません。
「でも、幸せ。それ、よいこと」
結局、王子様も変人なりにいい人なのです。
「・・・まぁ、予想外のエンドだよな」
使者・・・いえ、元使者はそう言って苦笑しました。町を離れ、着の身着のままで二人は街道を歩いています。
「う・・・」
その場のノリでやらかした行為にシンデレラは顔を真っ赤にしてうつむきました。突発的に大胆になって後で恥ずかしがるのはシンデレラの得意技です。
「その・・・怒っているか?無理やりで・・・」
おそるおそるシンデレラに問われて元使者は笑顔で空を仰ぎました。
「いや、これはこれで楽しいじゃねぇか。ほれ」
空を仰いだまま、元使者はすっと背後を指差します。
「え?あ・・・」
振り返ったシンデレラの目に、こちらに駆けてくるお城の銃士達の姿がうつりました。
「なんだか、ロマンチックではないな・・・」
言いながらもシンデレラは嬉しそうな表情で元使者と並んで身構えます。
「ロマンチックよりドラマチックだ。行こうぜ、シンデレラ・・・いや、灰かぶりってのもひどい名だな」
「別に名などなんでもよいのだ。私にとって大事なのは、お前に呼んでもらえるということだから・・・」
恥ずかしげに、でも幸せそうにそう言ってシンデレラは抜刀しました。
運命を文字通り切り開いた彼女に、ハッピーエンドが訪れるかはわかりません。ですがいまはお話をこう結ぶこととします。
めでたしめでたし、と。