みか様3000hitゲットに捧げるお話です

彼方の星





それは彼方の星。
遠く輝き、手には入らない。
遠くにあるからこそ、想い続ける・・・。



「・・・でもね、アンジェリーク。一人の方と特に親しくするのはどうかしら? あなたは女王候補なんですからそれを忘れないようにね」
そう、これは‥‥教訓。
『元』女王候補として譲れない教訓。
ねぇ、陛下。私達と同じ気持ちをあの子達には、味あわせたくないわ。



・・・目の前を銀の風がふきすぎてゆく。
”俺に構うな”と言い捨てて。
そうは出来ない危うさを滲ませて。
あの日々を引きずっている同じ者として、そうは出来ない自分がいる。



二つの気掛かり。
それは異なった心配。
それは、どちらもあの日の私のようで。



投げ付けられた言葉。
選ばなければならなかった結末。
それは、今でも私の中に消えない痛みとなって残ってる。



澄んだ夜風が部屋の中に穏やかに満ちてゆく。
その何処かの甘い花の匂いを含んだ風は、ディアに胸の奥の甘く、それでいてまだ激しい痛みを覚える何かを思い出させた。
そして、一つの面影も。



ディアは、そっと立ち上がると飾り棚へと近付いた。
そこには、忘れられない物がある。



私に残されたのは、これと合わせてただ二つ。
一つは、小さなオルゴール。
そしてもう一つは‥‥‥あの人の名前。


あれからどのくらいの月日がたったのかしら?

下界ではどのくらいの時間が過ぎたのかしら?




あの日‥‥最後の日。
あの人は、私の部屋を訪ねた。



それまでは、わからなかった。
ううん。
わかろうとはしなかった。
いつまでも一緒にいられると思っていたから。
あの人の言葉のまま、未来を信じていたから。



急速に衰えた鋼のサクリア。
それは、鋼の守護聖の交代を意味してて。
考える時間も与えてくれず、決断の日は来た。



扉が破れんばかりに叩かれる。
その勢いに少し怯えながら、開けるとそこにいたのは憔悴したあの人。
私の顔を見ると怖い位の視線で見詰めた。



『一緒に来てくれ』



‥‥‥想いは今も駆け巡る。
あの日、頷けなかった私。
泣き出したい思いを必死に堪えて、それでも『ついて行けない』と言った。
愛してなかった訳じゃない。
その証拠に。
今でも夢の中であなたの影を追い掛け、見失う。
それでも。



あの人の最後の言葉。
『‥‥君に俺の名前をおいてゆく』
最後のプレゼントだと暗い眼で言った。




「・・・・」
そっと呟くその名前。
今でも口にすると胸が痛む。でも、その痛みは私に与えられるべき罰。



”ディア‥‥‥”
その時、何処からかディアを呼ぶ声が聞こえた。
微かな・・・本当に微かな名を呼ぶ声。ともすれば夜風にまぎれる程。
「!」
でも、それは・・・忘れられない声。
聞き違えるはずもない声色。



身体が動いてた、考える間もなく。
声の聞こえたベランダへ。
もどかしい気持ちで窓を開け、補佐官らしからぬ動作で飛び出す。
その先には。


白くぼやけた人影。
”ディア・・・”
影は、また名を呼んだ。



「・・・・・!」
口からついて出る愛しい名前。
”・・・まだとっといてくれたんだな、その名前”
どこか優しげな空気が震える。
「あなたが私に残してくれたものですもの」
”それは君のものだ。‥‥誰にもあれ以来呼ばせなかった‥‥もちろん、自分でも”
「呼ばせ『なかった』?」
さり気なく使われる過去形。



「待って。どうしてあなたはここにいるの?」
だが、影はそれには答えず。
”どうしても君に言いたい事があった。‥‥‥伝えなくてはならないことが”
悲しげな視線を感じる。その先の言葉は。



”君は俺を恨んでくれて構わない”



「!? なんで? なんでそんな事を言うの?!」
自分を責めこそすれ、彼を‥‥前・鋼の守護聖を恨む気持ちなど毛頭ない。それは、あの時から変わらぬ気持ちで。



”わかっていたんだ、俺は”
続けられる言葉。
”君が陛下を選ぶ事は、最初からわかっていたんだ。わかっていながら、それでも聞いた”
「どうして? 何がわかっていたと言うの?」



既にディアには相手に尋ねる事しか出来なかった。それ程、彼の言う事は理解不能だったのだ。
”君が彼女を置いて行けない事はわかってた。君は何処かで陛下に負い目を感じてた‥‥それは、俺が原因だったが。
わかってて‥‥それでも、俺は君に言った。『ついてきてくれ』と”
もうディアは、その言葉を聞くしかなかった。彼の言ってる事はわからない、でも。
その二度ときけないと思ってた愛しい声をせめて聞き逃さまいと。



”君の心に残る為、俺はわざと君の心に傷をつけたんだ”



続く言葉は、まったく考えられないこと。
「心に傷……?」
”ああ……俺の存在を君に刻み付ける為に、わかってる癖に・・・君がそれをずっと思い悩む事をわかっててあえてそれをした。そして、逃げた。
・・・君は俺を憎んでくれて構わない・・・”





「‥‥酷い‥‥」
一言洩れたその言葉に、影は傷付いたように歪んだ。
でも。
そうじゃない。



・・・酷い人・・・
自分ばかり悪者になって、私の気持ちなんて判ろうとはしてくれない。





『好きよ。』





何回も、何十回も‥‥ううん、何万回言ったって足りない。
もし、あなたが私を気づかって、黙っていなくなったりしたら、私はきっとあなたを恨んだわ。
でも、そうはしなかった。あの時の焦り、怒り、全てを私にぶつけてくれた。



確かに私は、陛下を置いてはいけなかった。
でも。
あなたを愛した事だけは、私の喜びでもあり、今までの支えでもあったのよ。
だからあなたを恨む事は、自分への裏切りだわ。あの時の‥‥ううん、今の想いにも嘘はないから。



ディアは、涙が滲んだ瞳で彼を見詰めた。想いを伝える為に。
「あなたは私を恨んでくれていいわ。あなたをずっと私の想いで縛ってしまったんですもの。
でも、一つだけ‥‥私がこれからもずっとこの『名前』を大事にする事だけは許して下さい」
”ディア・・・”



揺れる影が薄くなってきた気がする。
風に夜明けの光が混じりはじめた。
”ああ‥‥夜が明ける”
東の空がほんのり光を纏いはじめた気配がする。
”‥‥やっと、これでいける”
「あなた?」
こちらを振り返る白い影がほのかな朝日に一瞬薄れて、男性の姿が見える。それは、微笑んでいて。
”あとの心残りは、あいつだけだ。全てをぶつけてしまった。厚かましい願いだとは思うが、あいつの心がこれ以上歪まないよう‥‥‥頼んでいってもいいか?”
「ええ‥‥ルヴァがよく面倒を見てくださってます」
”そうか‥‥なら安心かな?”



本当は行かせたくなかった。
でも、この時ディアは気付いていた。聖地に容易く入れるのは、貴い魂だけな事が。
あれから、地上では長い時間が過ぎた事が。



日の光は容赦なく、朝が迫ってくる事を告げる。
”‥‥一つだけ願ってもいいか‥‥‥?”
伺うように、そっと呟かれる言葉。
”触れても‥‥いいか‥‥?”
それには答えず、そっと眼を閉じる。
暖かく、でもほんのり冷たいような不思議な感じが頬に触れる。
そして‥‥唇にも。
まるで朝靄のように、それは少し表面を濡らし、すり抜けた。
耳もとに一つ、言葉を残して。



眼を開けた時には、もう何処にも何もなかった。
あの時間は、幻であったかのように。
でも。
耳に今も残る言葉だけが、真実を伝えていて。
それは、新たな呪縛。





”昔も、今も‥‥これからも、ディアだけを愛してる‥‥”





西の空には、まだ星が残っていて、そこだけは夜を思わせる。
でも。
確実に日はのぼり、朝が来る。



全ては、彼方の星。


あの日の想いも、涙も、怒りも。


全てがキラキラ煌めく彼方の星。


もうきっと手には入らないとは、思うけど。


それでも手に入らない事を恨む事はしない。


残された、たった一つだけの輝く星、心に輝かせるから。



金の星、銀の星。
巡り合えた二つ星。



私達の悲しみは繰り返させたくない。
でも。
この喜びは、伝えてあげたい。
人を愛する喜びを。



別の彼方の星。
その輝きは、私には見通せないけれど。
もしかしたらそれは手に落ちてくるものかも知れないけど。



でも。
私は 手に入らなかった星を、誇らしく見上げるでしょう。
そして、これからその星々を見上げるかもしれない全ての女王候補に胸を張って言うでしょう。
『後悔だけは決してしないで』と。
私は、この結末を後悔などはしてはいないのだから。



女王候補生と守護聖の恋を応援などは出来ないけれど。
それでも。



全ての人の上に輝く彼方の星に。
どうぞ私達のような輝きが訪れますように。



どうぞ全ての人が、幸せでありますように。




<fin>



あとがき?


と、言う訳で。
みか様3000番getの進呈品です。いや〜、リクエストを受けた時はまいりました(^^;
『ディア様×前・鋼の守護聖』なんてあまりないとおもふ・・・(汗)
おまけに名前は判らないし・・・でも、流那はチャレンジャー(笑)
如何かでしたでしょうか? 少しでも皆様が楽しんで頂けたらいいのですが。



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