ある夕方


聖地のなかを毎日同じ時間に同じような音が駆け抜けてゆく。
そんな日がはじまり、すでにもう一ヶ月。
その平日朝八時と昼三時に起こる音を目安に目を覚ますものや、お茶の時間にするものも出る程、それは正確だったのです。
 ----と、そう言えばもう三時ですね。現場を見に行きましょう。

 

う〜ん、遠くからあの音が・・・・って、あれ?
いつもと違います。いつもは軽やかに聞こえるあの音・・・そう、馬の蹄の音が今日はトボトボと聞こえます。何かあったんでしょうか?

そう、朝八時と昼三時の怪音とは、送り迎えの馬の音だったのです。

炎の守護聖オスカー様と女王補佐官アンジェリークの間に待望の姫が生まれて早4年。
姫は『アン・ディアナ』と名付けられ、すくすくと育っていました。(名前はアンジェリークの要望で前女王と補佐官からとったようです)
その子がこの春から幼稚園にはいり、それこそ娘を目に入れても痛くない程溺愛しているパパは心配の余り、炎の守護聖オスカー様御自慢の馬でのご登園とあいなった訳です。

 

ところが。
今日はいつもと違います。
ちいさな女の子が頭を振り上げずんずんと歩いてる後ろを、馬を引き我らがオスカー様が歩いていきます。その姿はまるで姫君につかえる馬番のよう。こころなしか馬の目にも哀れみの色が見える気がします。
「おい・・・アン」
「ついてこないでっ!」
う〜ん、どうやら姫は御立腹のよう。そのまま、宮殿へと足を進めていきます。

「ママっ!!」
バタンとドアが開いたかと思うと、突然受けた衝撃に女王補佐官殿はたたらを踏みました。
「ど、どうしたの。アン・ディアナ?」
スカート越しにに振り向くとしがみつく愛娘が見えました。
「聞いてよ! ママ」
頭を振り上げた拍子に金赤色の髪が乱れます。その青すぎる空色の眼は幼いながらも怒りに燃えてます。それはまるで小さな炎のようでした。
場違いながら『やっぱりあの人の娘ね』なんて思う母がいました。

「はいはい、どうしたの?」
幼い娘に視線を合わす為、しゃがむ。
「パパったら、ひどいんだよ。折角夏休みにジュニアちゃんが別荘に誘ってくれたのに、勝手にむす・・ぬす・・」
「『ぬすみぎき』」
「そう『ぬすみぎき』して勝手に断わっちゃたんだよっっ!」
「違うっ! 盗み聞きじゃない。たまたま聞こえただけだ」
「あら、あなた」
またドアが乱暴に開き、オスカーがはいってきた。
「あ。またぬすみぎきだ」
「ちがうだろ」
「おまけに迎えに来てたジュニアちゃんのパパにまで・・・」
「あら、ヴィクトールさんが迎えに来てたの」
 これは旦那に向けた言葉。
「ああ」
「『お前の息子の『きょおいく』はどうなってるんだ。女性を誘うなんて十年はやい』って」
「まあ、そんな事まで?」
「おい、まてよ・・・」
取りなそうと伸ばされたその手を娘は振払った。
「パパなんて、大っ嫌いっっ!!」

「・・・ま、まあまあ、アン・ディアナ。大丈夫よ。あとでママがジュニアちゃんのママに電話しておいてあげるから」
「ママも大変ね。パパの『しりぬぐい』なんて」
どこでこんな言葉覚えてくるのかしら、と思いつつアンジェは娘と一緒に部屋を出ました。

あとに残ったのは、オスカー様の姿をした真っ白い灰だけ・・・。

強さを司る守護聖様も愛妻と愛娘には勝てません。
そうして今日と言う日は過ぎていきました(笑)



(おまけ)
「なにが『お前の教育はどうなってる』だ!」
ヴィクトール様は、不機嫌です。なぜって・・・それは。

ひさしぶりにジュニアを迎えにいったのに、その先でばったり、オスカー様。
溺愛ぶりはきいていましたが、まさか守護聖さまがお出迎えまでしてるとは思いも寄りませんでした。
その先での、失礼な言葉。

「自分の今までの行動を考えればそんな事を言えた義理か!」
車を運転しながらぶつぶつ言うお父さんを息子がつっつきました。
「なんだ?」
とりあえず厳つくなってた顔をなんとか戻し、愛息に向けます。
焦茶色の父譲りの癖っ毛に琥珀の瞳の息子は真面目な顔をして父親に告げました。
「父様、ぼく14才になったらアンちゃんにけっこん申し込もうと思うんだけど」
「なにっ?!」
「だって、”10年早い”んでしょ? だったら10年たったらいいんだよね」
・・・なんて純粋なんでしょ。お父さんはその純粋さにホロリとなってしまいました。

でも。

『よし、今日のことはもう一度、電話をして確認をとってやるぞ。音声も録音して、それで・・・』
・・・どうやら、今日の事を10年越しの嫌がらせにするみたいです。(笑)


おしまい


あとがき


これは某サイトで素晴らしい暑中見舞いを頂いて、そのお返しにと、ない頭を必死に振り絞って書いたものです。
今、読み返しても酷いもんだ(涙)
勝手にオリキャラも出してるし、これはオリジナルにいくのが正解かも。
でも個人的にはとっても好きな設定です(笑)



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