寒い日の贈り物(O×A)






日射しがその強さをだんだん弱くしていく頃。

聖地山は、冬を迎えました。

その寒さは、日一日と厳しくなり、ある日とうとう白いものがちらつきはじめました。




「うぅうっ、寒い・・・」

お山の中で一匹の狼があまりの寒さに身を震わしました。

そぉっと住処の洞くつから顔を覗かせます。

「寒いと思ったら、雪か・・・・」

狼は炎色の毛並みをぶるるっと揺らします。




狼の名はオスカー。その姿は凛々しく、山中の女性達の眼を釘付けにするほどの端麗な容姿にいざと言う時の勇気も合わせ持つ、山でも有数の勇者です。

でも、そんな勇者も冬の寒さだけは堪える様です。

「あぁ・・・本当に寒い・・・どうにかしないと・・・」

震えながら寝床にある草を身に寄せます。だけど、しみいるような寒さは弱まりません。

「弱ったな・・・」

ふと、外を見る眼に友人の姿が眼に止まりました。

鳳凰のオリヴィエです。こんな雪の中をいつもと同じように豪奢な羽をを揺らしてそぞろ歩いてました。

「おい、オリヴィエ!」

「ん〜、なぁに? オスカーじゃない? どうしたの、そんなところに蹲って?」

金色のくちばしをつんっとあげて近寄って来ます。

「お前、寒くないのか?」

「寒いかって? 寒いに決まってんじゃない、冬だもの。でも、それがまたいいんじゃない。冬にしか出来ないお洒落も楽しめる事だし」

そう言うと冬用らしいふわふわしたきらびやかな羽をふわりと広げました。

「で、何の用?」

「悪いが側に来てくれないか?」

「え?」

暗青色が訝しげに光ります。

「何? とうとう女だけじゃ飽き足らず趣味変えた?」

「ちっが〜うっ! 寒すぎて凍えそうなんだ。少し何とかしたい。頼む、ちょっとでいいんだ」

オスカーは一生懸命頼みました。

「・・・しょうがないね」

オリヴィエは一つ肩をすくめるとオスカーの側に寄り添いました。

彼の羽根は、確かに暖かかったです・・・が。

「すまん・・・なんか暖まらないんだが」

オスカーの大きな体には、オリヴィエの体は小さすぎた様です。

「悪いな。もう行ってくれていい」

「・・・役にたてなくて、すまなかったね」

彼は一つ頭を下げると、また雪の中に出てゆきました。




雪はまだ積もってゆきます。

寒さはますますオスカーを追い詰めてゆきます。身を縮めても縮めてもそれから逃れられません。

そんな中に一つ影が見えました。それはどんどん近付いてきます。

「・・・どうしたんです? オスカー?」

それは白い体に水色のたてがみを揺らせるユニコーンのリュミエールでした。

「お前こそ・・・寒くないのか?」

「寒いと言えば寒いですが・・・それほどではありません」

オスカーは改めてリュミエールを見ました。その体は大きく自分と同じくらいです。

今度こそは、とおもったオスカーはリュミエールに頼みました。

「悪いがリュミエール。寒くて仕方がないんだ。少しでいいから側に居てくれないか?」

「私が、ですか?」

少々嫌そうな顔をします。あまりこの二人は仲が良くないのです。処女にしか懐かないユニコーンと『女性総ての恋人』と豪語する狼と気が合うはずもありませんが。

しかし、今オスカーは常にない寒さに襲われてます。好悪の感情などにかかわらずってる場合ではありません。

「少しでいいんだ」

オスカーは何度も頼み込みました。

とうとうそれに根負けした彼は、

「わかりました。それではあなたが暖まるまで」

と傍らに座ってくれました。

さっきより、暖かい面積は増えました・・・けれど。

「足留めしてすまなかったな。もういいよ」

やっぱりオスカーが満足するような暖かさは得られませんでした。

「お役にたてず、申し訳ありません」

リュミエールも頭を少し下げると去ってゆきました。




雪は、かなり積もりました。それでも飽きる事なく降り続いています。

オスカーの寒さは極限に近付いてました。今まで、こんなに寒かった事はありません。

歯の根はとうに合わなくなり、身を強ばらせるばかりです。

そんな中。

「オスカー様、オスカー様」

小さな可愛い声がしました。

彼は、寒さに霞む眼を入り口に向けました。

そこには、小さな真っ白の兎がちょこんとすわっていました。

「アンジェリーク・・・」

そのふわふわ毛皮の白いうさぎは、オスカー様がとても可愛いがってる存在のアンジェリークでした。

「どうしたんですか?」

いつもと違うオスカーの様子にアンジェリークは、首をかしげて尋ねました。

「いや・・・ただ寒いだけだ・・・」

それだけの言葉を言うのもやっとです。

「寒いんですか!」

びっくりしたように言うと彼女は側にやってきました。

「ああ・・・」

「可哀想・・・オスカー様」

そう言うとアンジェリークは、ぴったりとオスカー様に寄り添いました。

「あ、無駄だぞ・・・誰も暖かく・・・」

と、その時、オスカーは今まで感じた事がなかったほど暖まってく自分を感じ、とても驚きました。

そしてそれが自分の体のほんの数十分の一しかないアンジェリークによってもたらされた事も。

「私はとても小さいけれど、少しでもオスカー様が暖まりますように・・・」

そう言ってすりよって来てくれる彼女は、それだけで心からあったかくなるようなそんな存在で。

オスカーは、そんなアンジェリークをそっと前足で包み込みました。

「ありがとう、アンジェリーク・・・」




洞くつの外は、まだ雪が降っていてとても寒いです。

でも、オスカーは、今はその寒さに感謝してました。

その寒さが傍らの暖かさを更に実感させてくれます。

そう、それが・・・愛しいものの暖かさを実感する、それが冬の寒さの贈り物です。

<fin>





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