寒い日の贈り物(V×A)





日射しがその強さをだんだん弱くしていく頃。

聖地山は、冬を迎えました。

その寒さは、日一日と厳しくなり、ある日とうとう白いものがちらつきはじめました。





「うぅうっ、寒い・・・」

お山の中で一匹の獅子があまりの寒さに身を震わしました。

そぉっと住処の洞くつから顔を覗かせます。

「寒いと思ったら、雪か・・・・」

獅子は赤銅色のたてがみをぶるるっと揺らします。





獅子の名はヴィクトール。この山でも並ぶものない勇士です。勇壮な姿ながら心優しく、弱い小動物などからも慕われてます。

でも、そんな勇者も冬の寒さだけは堪える様です。

「あぁ・・・本当に寒い・・・どうにかしないと・・・」

震えながら寝床にある草を身に寄せます。だけど、しみいるような寒さは弱まりません。

「弱ったな・・・」

ふと、外を見る眼に友人の姿が眼に止まりました。

山猫のセイランです。こんな雪の中をいつもと同じように青藍色の毛並みを揺らしてそぞろ歩いてました。

「おい、セイラン!」

「ん? なんだ、ヴィクトールじゃないか。どうしたんだい? 蹲ったりして」

つんと鼻を上げながら近寄ってきます。

「お前、寒くないのか?」

「寒いかって? 寒いに決まってるよ。でも、それでこんな素晴らしい景色を見逃したくないからね」

体に薄くつもった雪がセイランの色を一層際立たせます。

「で、何の用?」

「悪いが側に来てくれないか?」

「え?」

蒼い瞳が訝しげに光ります。

「君にそういう趣味があったとは」

「違う! 寒すぎて凍えそうなんだ。少し何とかしたい。頼む、ちょっとでいいんだ」

ヴィクトールは一生懸命頼みました。

「・・・しょうがないな」

セイランは一つ肩をすくめるとヴィクトールの側に寄り添いました。

彼の毛皮は、確かに暖かかったです・・・が。

「すまん・・・なんか暖まらないんだが」

ヴィクトールの大きな体には、セイランの体は小さすぎた様です。

「悪いな。もう行ってくれていい」

「・・・役にたてなくて、すまないね」

彼は一つ頭を下げると、また雪の中に出てゆきました。





雪はまだ積もってゆきます。

寒さはますますヴィクトールを追い詰めてゆきます。身を縮めても縮めてもそれから逃れられません。

そんな中に一つ影が見えました。それはどんどん近付いてきます。

「・・・どうしたんです? ヴィクトール?」

それは白馬のエルンストでした。

「お前こそ・・・寒くないのか?」

「寒いと言えば寒いですが・・・それほどではありません」

ヴィクトールは改めてエルンストを見ました。その体は大きく自分と同じくらいです。

今度こそは、とおもったヴィクトールはエルンストに頼みました。

「悪いがエルンスト。寒くて仕方がないんだ。少しでいいから側に居てくれないか?」

「私はこれからこの雪のデータを取りに行かなければならないのです」

「少しでいいんだ」

ヴィクトールは何度も頼み込みました。

とうとうそれに根負けした彼は、

「わかりました。それではあなたが暖まるまで」

と傍らに座ってくれました。

さっきより、暖かい面積は増えました・・・けれど。

「足留めしてすまなかったな。もういいよ」

やっぱりヴィクトールが満足するような暖かさは得られませんでした。

「お役にたてなかった事を心苦しく思います」

エルンストも頭を少し下げると去ってゆきました。





雪は、かなり積もりました。それでも飽きる事なく降り続いています。

ヴィクトールの寒さは極限に近付いてました。今まで、こんなに寒かった事はありません。

歯の根はとうに合わなくなり、身を強ばらせるばかりです。

そんな中。

「ヴィクトール様、ヴィクトール様」

小さな可愛い声がしました。

彼は、寒さに霞む眼を入り口に向けました。

そこには、小さな茶色の野兎がちょこんとすわっていました。

「アンジェリーク・・・」

そのふわふわ毛皮の茶色いうさぎは、ヴィクトール様がとても可愛いがってる存在のアンジェリークでした。

「どうしたんですか?」

いつもと違うヴィクトールの様子にアンジェリークは、首をかしげて尋ねました。

「いや・・・ただ寒いだけだ・・・」

それだけの言葉を言うのもやっとです。

「寒いんですか!」

びっくりしたように言うと彼女は側にやってきました。

「ああ・・・」

「可哀想・・・ヴィクトール様」

そう言うとアンジェリークは、ぴったりとヴィクトール様に寄り添いました。

「あ、無駄だぞ・・・誰も暖かく・・・」

と、その時、ヴィクトールは今まで感じた事がなかったほど暖まってく自分を感じ、とても驚きました。

そしてそれが自分の体のほんの数十分の一しかないアンジェリークによってもたらされた事も。

「私はとても小さいけれど、少しでもヴィクトール様が暖まりますように・・・」

そう言ってすりよって来てくれる彼女は、それだけで心からあったかくなるようなそんな存在で。

ヴィクトールは、そんなアンジェリークをそっと前足で包み込みました。

「ありがとう、アンジェリーク・・・」





洞くつの外は、まだ雪が降っていてとても寒いです。

でも、ヴィクトールは、今はその寒さに感謝してました。

その寒さが傍らの暖かさを更に実感させてくれます。

そう、それが・・・愛しいものの暖かさを実感する、それが冬の寒さの贈り物です。





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