もう一人のおとうさん




「へ〜、そんな事があったんだ」
ここは、聖地。麗らかに陽光が降り注ぎ、あいもかわらず平和そのものです。
公園のカフェテラスでは、緑、鋼、夢の守護聖が、それぞれ好みの飲み物を前に談笑してました。
その話題は、この間、ゼフェル様の主星への出張の件。
「ああ。でも、おっもしろかったぜ〜! あの無骨そのもののおっさんが息子の一言で右往左往するんだぜ。 まったく、ここに居た時にゃ想像も出来なかったぜ」
「でもあの頃のアンジェリークに対する態度見てればわかるじゃない」
テーブルの上に指を広げマニュキアの塗具合をみていたオリヴィエ様がちゃちゃをいれる。
「愛・・・ってことかな?」
「うっわ〜、やめろよ、そんな言葉。きくと寒気がする」
大袈裟に身震いするゼフェル様。

「でもさ、僕、とうさん大好きだったな。大きな農場で一杯動物飼ってたから、すっごく忙しかったのによく遊んでもらった」
ふと、昔の事を思い出す。
「俺は親父のこと、そんな好きって訳じゃなかった。訳も聞かず、すぐげんこが飛んでくるような奴だったからな。けど、そんけーはしてたな」
「わたしも嫌いじゃなかったな・・・」
「きっと、ジュニアはゼフェルのおかげで、正しいヴィクトールさんをしることが出来たんだね♪」
にっこり笑って素直に誉めるマルセル様にゼフェル様は赤くなった顔をみせまいとそっぽを向きました。

そんな二人の様子をくすくす笑いながら見ていたオリヴィエ様がふと、
「そういえば、今日はもう一人の父を見ないね」
「もう一人の父?・・・って、ああ、オスカー様か」
「また聖地抜け出して、外界へいってんじゃねーの」
「ばかだね。昔ならいざしらず、今のあいつが外に行く理由がどこにあるのさ」
そりゃそうです。
自分の妻と娘にめろきゅ〜。 目に入れても痛くない程、可愛がっているオスカー様です。
「わたし達に邪魔されない為とかいって、家族旅行とかなら考えられるけど、アンジェのほうは見かけたし・・・」
う〜む、と考え込む守護聖さまに、歌うような可愛い声が聞こえました。
「わ〜い。 まっるせっるさま〜、ぜっふぇっるさま〜、おっりhぃえさま〜♪」
「あ、アン・ディアナ」
噂をすればなんとやら。
オスカー様の愛娘・アン・ディアナが公園で手を振っています。
「幼稚園の帰り?」
「うん」
「こっちおいでよ。ケーキ、御馳走するよ!」
「はぁ〜い♪」
金紅色の髪をなびかせて駈けてくる様子は、まるで天使。
・・・守護聖さまたちは自覚してませんが、皆さん、この天使にめろめろ。なんです。
ゼフェル様は寝る間も惜しんでアン・ディアナが喜びそうなおもちゃをつくりますし、マルセル様はお菓子をつくって御馳走したり、あの表にあまり出ることのないクラヴィス様さえもアン・ディアナが誘えば二つ返事でどこへの散歩もつきあってくれるのです。(目立つこと、このうえないのですが・・・)

「わ〜い、どれにしようかな♪」
今日も可愛いアン・ディアナ。三人の顔も綻んでいます。
「お夕飯、はいるくらいにしとくんだよ。でないと、わたし達がママに怒られるんだからね」
「は〜い」
あれもおいしそう、これもいいな、となかなか決められない天使にふとさっきの疑問が再噴しました。
だっていつも送り迎えしているオスカー様が居ないんですもの。
「ねぇ、アン・ディアナ。パパは?」
「パパ、おうち」

なぜか、オスカー様の名前が出た途端、天使は不機嫌になったようです。
「なんだ? どうかしたのか」
「ううん、なんでもない」
ますます変です。夕食などに呼ばれるといつも母と娘の間でオスカー様をとりっこする様子がみられて、皆の嫉妬を(笑)買ってるのですが、今日の様子はそれとは全然違います。
「ねぇ、アン・ディアナ・・・パパの事、好き?」
急にマルセル様が聞きました。だって、ねぇ・・・。
その答えは。

「パパなんて大っ嫌いっっっ!!!」

でした。
「なに? どうしたんだ?」
「どうして?」
「よかったらわたしに話して御覧?」
・・・そう、普段だったら絶対でない台詞。守護聖さまたちのほうが慌ててしまいます。
大好きなケーキとココアが目の前に来て、それを食べつつ、天使は話しはじめました。
「パパったら、幼稚園のおとこのこのおともだち、み〜んな集めて『うちのおじょうちゃんと仲良くしたいやつは、まず俺に話を通してからにしろ』とか言ったのよ。普段、みんなとなかよくしなさいなんて言ってて、そういうこと裏でやってるんだもん」
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「はは・・・」
「・・・おっさんの親ばかも相当だな・・・」
「オスカー様って・・・」
う〜ん、言葉もありません。
「で、きのうそのこと言ったら、『パパはアンがあんまり可愛いから心配なんだ』って」
それは、よくわかります(笑)
「とうとう『守護聖の奴らにもあまり近付くんじゃない』っていいだすんだよ」
「それは、ひどい」
「あんまりだ!」
・・・・こらこら、私情はいってませんか?
「とうとうママも怒っちゃって、たいへんだったんだから」
「アンジェが・・・」
「怒った・・・?」
「『守護聖の方々はオスカー様とは違いますっ!』って」
あむあむ、ごっくん。
何時の間にか二つ目のケーキが消えてました。
『・・・で?』
あ、はもった。
「どうして、今日、パパお家にいるのかな?」
聞きたいような聞くのが怖いような。
「それでママと二人でいっちゃった」
「・・・なんて?」
『パパなんて』
『オスカー様なんて』

『だいっきらいです!』って」

その後、慌てて(おもしろがって)オスカー様邸に向かった三人は、ショックのあまり熱を出して寝込んでるオスカー様を発見しましたとさ。


おしまい♪





あとがき

『蛇に足』で蛇足・・・これはほとんどトカゲと化してますね・・・。
なんでしょう、これは? 『ある夕方』のつづきみたいですね。
ああ、読んで後悔されたかた、多数出現ですね。オスカー様のようにお熱を出さないよう、お気をつけください。
ちなみにゼフェル様の出番が多いのは、単なるひいき(笑)です。



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