『好きな人がいるんです』


血が、でた、気がした。


日の曜日の公園。周りは結構にぎわっている。隣には誘ってくれたアンジェリーク。
目の前には、あいつの黄色いリボンが踊ってる。
話す事は試験の事が多かったが、それでもそれなりに普通の話もしていた。
ふと。
この間、ランディ様と一緒にトレーニングをした話になった。
「やはり、毎日鍛えられてる方は違うな。俺のメニューもそれなりなんだが、直ぐについてこられてな」
「そうなんですか」
にこにこと話を聞いてくれるアンジェリーク。何故だかその笑顔が嬉しくて、いつまでも話していたい気になった。
「・・・そういえばランディ様は随分お前の事を気にしていたぞ。いつも一生懸命で頑張る姿がいいって。そう言って照れたように笑ったけ。
どうだ、アンジェリーク。ランディ様のようなお方をどう思う?」
それは、本当に何気なく話した一言だった。
「え・・・? どう・・・って?」
少し口籠るあいつがいた。
「結構いい方だと思うぞ」
「ええ。とても優しい方だと思います」
この時、俺は何の答えを求めていたのだろう? 今でも分からない。
ただ、その前にランディ様からアンジェリークに対する恋心を聞かされて、それでこの年若い守護聖に何か役に立ってあげたいと思っていたのは確かだった。
「よかったら今度日の曜日にでも会ってさしあげたらどうだ?」
「ええ・・・」
妙に口籠るアンジェリーク。顔は心持ち俯いて。
「・・・ヴィクトール様が、そうおっしゃるんでしたら」
「そうか・・・あ、でもお前は女王候補なんだからな。その事を忘れるなよ」
最後の一言は完全に余計だ。それはわかっていたが・・・何故か言葉が滑り落ちた。
だが、その一言が起爆剤だった。
アンジェリークは、キッと俺を見つめ、
「わかってます。私は女王候補生です。でも・・・でも・・・」
最初の勢いは何処へやら。段々と尻つぼみになってゆく声、威勢。
「女王候補は、人を好きになっちゃいけないんですか?」
何時の間にか潤んだような瞳。



「好きな人がいます」



それからあいつと何処でどう別れたのか、よく覚えてない。
あいつに・・・あの俺の可愛い生徒のアンジェリークに好きな奴がいる。
それは紛れもない事実なのに・・・何処かで認めたくない自分がいた。
変な話だ。さっきまでランディ様との仲を取り持とうと思っていた筈なのに、すでにそんな事はどうでもよくなっている。



闇の中に、灯りがともる。



小さく、赤く。



今まで気付こうとしなかった灯りが。



赤く、熱く。



闇の中で、ここだけが赤い。



これは何だろう?
答えはわからない・・・いや。


多分。
ほんとはわかるのを避けてるだけかもしれない。


わかってしまえば、俺の可愛い生徒のアンジェリークがいなくなってしまう。
それが怖かった。






あれから月日が経った。
アンジェリークは、順調に星の数を伸ばし、あと少しで新宇宙の女王になる。
それをとても喜ばしいことと思う教官の俺がいる反面、心の闇に点った小さな灯を今も大事にしている俺がいる。
アンジェリークとは、あの日以来二人っきりで会う事を避けた。
彼女が女王になるのならば、誠心誠意協力しよう。そんな気持ちが、会えば崩れる事が分かりきっていたから。


何故、気持ちが崩れる?
その答えは、まだわからないままにしてある。


そして。


とうとうその日が来た。


アンジェリークの星が新宇宙を埋め尽くし、アルフォンシアが完全体になった日。
あいつが新宇宙の女王になった日。


その夜。
俺は、ずっと手を付けてなかった酒を飲んだ。
それこそ浴びる程。
どうして、こんなに心が乱れるのか、まだ分からない”フリ”をしている俺がいた。
何時の間にか涙が出る程に・・・。


そして、やっと。


・・・ああ、そうか・・・俺は、アンジェリークを愛していたのか・・・。


あの何時もにこにこ優しい笑みを浮かべる、泣き虫でそのくせ、芯の強いあいつを。


今頃わかっても遅い。それに、わざと分からない”フリ”をしていた。


「ははっ・・・・ははは・・・」
もう、これは笑うしかないだろう?
そのまま、俺は酔えない酒を、朝まで飲んだ。






朝日の白い光が眼を突き刺すように窓から入る。
とりあえず窓を開け、酒臭さを追い出し、その根源は冷たいシャワーを浴びる。
頭は、はっきりしている。
今日はあいつが新宇宙に旅立つ日。
折角だから笑顔で送ってやらねばな。


タオルでガシガシ頭を拭いてると、突然チャイムがなった。
こんなに早く誰だろう?
取りあえず、服を手早く着ると、ドアを開けた。
そして、俺は開けたまま、莫迦のように惚けてつったった。
その扉の向こうには。



アンジェリーク。



あいつが顔をべしゃべしゃにして立っていた。
「レ、レイ・・・チェルが・・・後悔・・・し、しない・・ように・・・って・・」
しゃくりあげながら言う言葉。その間も瞳からは涙が溢れて。


思わず、抱き締めてた。
「アンジェリーク・・・本当にアンジェリークなんだな?」
「は、はい・・・ヴィクトール様」


ああ、なんて俺は莫迦なんだろう?
何で離れられる? 何故見送れる?
答えは全てそこにあるのに。



闇の中に一つ、ともった小さな灯。



それは今、心すべてを照らしてる。



<fin>




あとがきらしきもの


今、やっとスランプ(みたいなもの)から抜け出しつつある今日この頃。
少し自分に暗示をかけたりして(笑)
さて。
はじめてヴィク様側から書いてみました。
流那がお話書く上での欠点は、感情に流されるところです・・・(^^;)
そんなところも含めて読んで頂けると嬉しいかも?
ところで、『あとがき』ってあった方がいいのかしら?



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