それは一年に一度の日。
皆、アンの家に集まって大騒ぎをするの。
昔、パパがお家に一人で住んでいた時は、宮殿の広間でパーティーしたそうなんだけど。
パパがママと結婚してから、それはこの家に移ったんですって。
きっとパパがママを一人占めしようとしてたから、皆がそれを『そし』しようとしてたのね。
パパは二週間前に、大きな樅の木をゼフェル様やランディ様に手伝わせてお家の居間に立てるのよ。
そして皆で飾り付けをするの。
もちろんてっぺんのお星様はアンがつけるの。
『みんながいつまでも仲良く楽しくいられますように』って今年も去年と同じ事を言いながら。
一週間前にアンがカードを書くの。
幼稚園で習った事とルヴァ様に教わった事を一生懸命思い出して書くのよ。
綴りを間違えるとそっとパパが直してくれているけど、それは皆にはないしょ。
ママの香水をこっそり借りて、そっと振り掛けておくの。
開けた時に皆が”ほわっ”てするようにね。
ママは、三日くらい前から一生懸命なの。
キッチンのあちこちで、ぶくぶくぱちぱち。色んなものが良い匂いをたてているの。
『アン、今はあまりママに寄らないでね。危ないからね』って言いながら、ママが走り回る。
それを見つつ、パパと二人でこっそり笑うの。
どう見てもママが一番危なっかしいね、って。
樅の木の下にプレゼントの箱が少しづつ集まっていく。
赤や緑やピンクのリボンを纏わせて。
それと同時に。
わくわくした気持ちが胸一杯に沸き立ってくるの。
寒い風や灰色の雲も決して嫌な顔をするものじゃなくて、『これから来る楽しい出来事の予感ですよ』っていうルヴァ様の笑顔が見える気がする。
そして、その日。
最初はマルセル様。
両手一杯にお花を抱えて、にっこり笑って立っているの。
その後ろには、やっぱり両手一杯にお酒の瓶を抱えたゼフェル様とランディ様。
『アン・ディアナ、御招待ありがとう』
そういってマルセル様達は、アンの頬にキスしてくれた。
でも、キスをくれないゼフェル様は、唇を尖らせてる。かと思うと、アンの口の中に何かを放り込んだの。
とてもびっくりしたけど、それはとても甘い苺のキャンディー。
『‥いいクリスマスだな』
それだけだけど、とても嬉しくて、三人を居間に連れてゆく。
次は、ジュリアス様。
タキシードがとても似合うと思うわ。
ジュリアス様は、まるで大人のレディにするみたいにアンの手にキスをしてくれたの。
次はオリヴィエ様。
いつもより三倍はキラキラしてくる‥‥と思ってたんだけど、今日は燕脂のタキシードだけ。ネックレスも指輪もしていないの。
でも耳に凄く小さな、でもキラキラとても良く光る石があって、それがとてもオリヴィエ様に似合っていた。
そう、言ったら、
『あんた、男を見る目があるね』って笑って、アンの頭をくしゃくしゃって撫でてくれた。
次はルヴァ様。
格好はいつもとあまり変わらない。でもこれがルヴァ様って言えばルヴァ様。
『あ〜、アン・ディアナ。今日はお招きありがとうございます。とても楽しみにしていたんですよ』
にっこり笑う姿は、何故かとても安心出来て。
『アンは赤ちゃんの時、どんなに泣いていてもルヴァ様に抱かれると直ぐに寝ちゃったのよ』ってママの言葉を何故か思い出してしまった。
最後はリュミエール様とクラヴィス様。
とっても静かに入っていらしたから、ちょっとお出迎えが遅れてしまったの。
でも二人ともちっとも怒った顔はなさらないの。
『こんばんは、アン・ディアナ。よい夜ですね』
っていつもの通り、クラヴィス様の分もリュミエール様が挨拶したの。
でも、ね。アンは見たのよ。
クラヴィス様がアンを見て、少し‥‥すこーし微笑んだところ。
テーブルの上はいつもよりもっと凄い御馳走で。
ジュリアス様の乾杯の言葉から、パーティーは始まったの。
すごくすごく楽しいパーティー。
ママが必死に作った料理はとても美味しかったし、アンがクリームを塗るところを手伝ったケーキは、その事を言うとあっという間になくなっちゃったし。
マルセル様が持ってきたお酒もとっても一杯あったのに、あっという間になくなって、パパの”ひぞう”のお酒をゼフェル様が見つけだして、争奪戦が始まったり。
パーティーも大分経って、ふと気が付くとルヴァ様がいなかった。
かと思うと、とってもとってもルヴァ様に似たサンタさんがお家の二階から降りてきて、皆にプレゼントを配ってくれたの。
アンに手渡されたのは、童話の本。
サンタさんってば、姿がルヴァ様に似ているだけでなく、考える事もルヴァ様に似ているのね。
こんな楽しい時間。
でも、何時の間にかアンは眠ってしまったみたい。
気付くと、アンのベットに寝ていたの。窓から見えるお空は真っ暗で、随分夜中みたい。
‥‥そうだ!
その時、思い付いたの。
サンタさんに会おうって。
毎年毎年、アンの枕元にプレゼントをおいてくれるサンタさん。
こんな夜なら、きっともうお家に来ているはず。
アンは、ベットから抜け出したの。
サンタさんならきっと暖炉のある居間にいるはず。いつもならミルクとクッキーを置いておくのだけど、ママ、アンの代わりに置いてくれたかなぁ?
サンタさんをびっくりさせないように、そぉっとそぉっと階段を降りていく。
そしてやっぱりそぉっとそぉっと居間までの廊下を歩いて行くの。
でね、居間のドアの隙間から、居間の中を覗いてみたの。
居間の中、何が見えたと思う?
それはね‥‥間違いなくサンタさん。
赤い帽子に白い縁取り、真っ白なモコモコお髭にやっぱり赤いお洋服。
‥‥でね‥‥でね。
‥‥びっくりしないでね。
そのサンタさんに、ママがキスをしたの!
何故かパパみたいな綺麗な赤い髪の毛のサンタさんにママは嬉しそうにキスをしたのよ。
次に気付くとアンは、やっぱりベットの中だったの。
あれって夢だったのかな?
‥‥でもね、ちゃんと枕元の靴下の中には、アンが頼んだプレゼントが入っていたの。
サンタさんは、来てくれたのには間違いないの。
そのプレゼントをもって、パジャマのまま、階段を駆け降りるの。
その先に待っているのは、大好きなパパとママの腕の中。