「どらン猫小鉄」〜いかれ鬼畜どもの、皆殺しのブルース〜


「じゃりン子チエ」マンガ好きの方なら、このマンガの内容は知らずともタイトルを知らないというかたはほとんどいないでしょう。このマンガに出てくる名脇役、猫の小鉄を主人公にしたのがこの「どらン猫小鉄」です。初めてこのマンガ自体を読んだのは多分中学生か高校生くらいだったと思うんですが、その時はたいした感慨もなく、そのまま古本屋に売ったか引越しのどさくさで行方不明になったかで(^^;)手元を離れてしまっていました。が、ここ最近急にまた「チエ」にはまってしまい、それと並行してこの作品も読みたくなって古本屋で探して再会しました。で、この年になって読んでみると・・・
か、かっこいいやんか、小鉄!!惚れたわ!!理想のタイプだわ!!いや、最近マンガになかなかいい男(顔だけでなく中身も)が見つからないと思っていたとこなんで・・・心身ともの強さと、他人への恩を忘れない思いやり、軽々しい正義感に燃えたりはせず、飄々としているのにやるべきとききっちりとかたをつける男気。小鉄を「チエ」における、ただのマスコットキャラだと思っている方は、この作品を見たら正直衝撃をくらうと思います。それくらい壮絶で、残酷で、狂っていて、それでも笑わせてくれる、かっこいい作品なのですわ。この「どらン猫」の前には、小鉄の生い立ちが描かれている番外編(小鉄は生まれたばかりで目が開いたとき、ダンボールに乗せられて川の上を流れていたのだそう。泣かせてくれますわ。小鉄の親は人間の飼い猫だったんでしょう)番外編も入ってて、お話に入りやすくなっています。以降ははっきりいって内容のねたばれになるので「ねたばれはいやよん」という方はすっとばしちゃってくださいませね。

●ストーリー

 主人公の小鉄(ただしこの時はまだ名無しだったので「彼」と書きます)のチエちゃんの家に来る前の若かりし頃、彼は日本中を放浪する気ままな流れ旅を送っていた。いつものようにトラックに飛び乗り、長いこと揺られて辿り着いたのは九州のとある町。トラックの運転が荒かった腹いせにぱくったソーセージ(これが後の伏線となります)のダンボールとともに、その町に降り立った彼が見たのは、寂れた、かつ殺気に満ち溢れたゴーストタウン。そこにいるのはヤクザな猫ばかり。ヤクザにちょっかいをかけられかけた彼を、とあるオヤジが助ける。この町はかつて「猫町銀座」という、閉鎖になった炭鉱の町あとにできた猫だけのユートピアがあったが、大阪からやってきたヤクザ組が賭博場を作り、それに対抗して地元の九州のヤクザ組がまた賭博場を作り、ついには縄張り争いが絶えなくなり、「三途の猫町」という不吉な名前で呼ばれるようになってしまった。人間が廃坑のなかに残した膨大な数のダイナマイトであまりに猫が死ぬのでお互いの組の団体戦は昼の正午から一時までというルールができており、ちょうどその時間に居合わせた彼は好奇心から、電信柱の上で文字通り高見の見物を決め込む。そこにやってきたのがモヒカン頭の親分を頭にした大阪ヤクザ組、その親分の息子を人質にとった九州ヤクザ組。人質と引き換えに出した条件はお互いに使いすぎてそれぞれ10本づつ残ったダイナマイト。答えを出す前に期限の1時となり、ひとまずその場は相方何事もなく解散。このヤクザ組をからかって楽しんでやろうという無謀な冒険心を起こした彼は、九州ヤクザ組の親分に自分を売り込みに行くという名目で会いにいく。親分は野球の西鉄ライオンズの狂信的なファンで、帽子に見立てて自分の耳を切り落とし、額に西鉄のマークの焼き鏝を押したいかれっぷり。小鉄はその西鉄親分にオヤジから仕入れた西鉄話で取り入る。名を尋ねられた彼は、その日がたまたま雷の夜だったので気まぐれに「雷蔵」と名乗る(これから彼をこう呼びます)。雷蔵を気に入った西鉄親分は欲しいものは何かと尋ねると、雷蔵は血時計として吊り下げられているモヒカン親分の息子が欲しいと言う。雷蔵は腰に隠し巻いていたダイナマイト(実は泥を塗ったソーセージ)を楯に条件を迫る。駆けつけたモヒカン親分のもとに息子を連れ帰ったのもつかの間、九州組がダイナマイトを使って夜襲をかける。大騒動のなか、雷蔵が鉢合わせした、西鉄親分のように耳のない二人の猫は――――実は家出していた西鉄親分の息子だった。そのうちの一人、異様に殺気をみなぎらせた猫(兄のカズヒサ)のブーメランで気絶させられた雷蔵は息子ともども拉致られ、手玉にとられたことを怒り狂った西鉄親分らの手で激しい拷問を受ける。ボロボロにされながらも、ダイナマイトの隠し場所を詰問する親分に、ソーセージダイナマイトのねたをばらす雷蔵。弟のフトシ(典型的な怪力だけタイプ)のかけた風車回しの技で屋根を突き抜けて吹っ飛んでいく雷蔵。一方、ダイナマイトで死亡した大阪組の死体を片付けていたオヤジと、その傍らにいる棺桶屋の勘公。彼はあまりに死体が増えるので棺桶作りに追われ、あげく自分の頭に釘を打ち込んで発狂していた。そこに消えた雷蔵を探して西鉄親分らが駆けつける。死体の山に雷蔵が隠れているとにらんだ彼らは火をつける。その遠くでかなづちを振り下ろす勘公――――しかし、火をつけても雷蔵は出てはこなかった。あきらめた九州組が引き上げる。と、同時に勘公が倒れる。実はそれが雷蔵だった。オヤジに連れられて雷蔵は秘密の隠れ場にひとまず傷を治すため身を隠す。雷蔵は、世話になったオヤジへの恩返しのため、本気で三途の猫町を潰してやるという決心を固める。カズヒサのブーメランへの対処のため、自分もブーメランのテクニックを身に付けようと、雷蔵はオヤジにブーメランの型を取ってきてくれと頼む。その方法として、フトシを若親分とおだてつつ自分用のブーメランを作ってやるとオヤジがもちかける。まんまとブーメランの型を手に入れ、同じブーメランを作った雷蔵はテクニックの習得に励む。一方、モヒカン親分を含む数少ない生き残りの大阪組は、残りのダイナマイトで九州組に奇襲をかけようと計画していた。また、オヤジもブーメランのペテンがばれ、西鉄親分らから拷問をくらっていた。そこに大阪組がダイナマイトで奇襲をかける。多くの九州組の猫が爆死し、大阪組の喜びもつかの間、カズヒサのブーメランで気絶させられる。雷蔵はというと、予備のためモヒカン親分が残していったダイナマイトを持って町へ向かうその途中で、カズヒサに雷蔵の居場所を尋ねられてあげく頭の釘をもろに打ち込まれ、結果正気に戻った勘公から事の顛末と、カズヒサが死んだ猫の死体を吊るし、その首が一番早く腐って落ちるか賭ける「てるてる坊主賭博」を行っていると聞かされ、激怒した雷蔵は敢然と乗り込んでいく。そして、ついにカズヒサとの最後の勝負が始まる・・・。

●狂気と残酷さと、笑いと、そしてすがすがしさと。

 いや、なんでこんなに細かくあらすじ書いたかっていうと、「じゃりン子チエ」が元やから凄まじいっていってもたかが知れとるやろーっていう先入観を無くして欲しかったからなんです(^^;)とにかく登場人物のほとんどがいかれてるっていう;;しかも自分がいかれているっていう自覚がないまま、残酷なことをやってのけてるってとこがまた恐いです;;いかれてるからこそ残酷なことをそうは思わなくなってるのならもっと怖いけど・・・このなかでまともな神経の持ち主っていったら小鉄(雷蔵)とオヤジと、あと最後で正気に戻る勘公くらい。モヒカンの息子は双方に翻弄されてるだけなのでいかれてるっていうのはかわいそうですが。でも、ただ殺伐としてるだけじゃなくて、随所随所で入れられるギャグと、あと何よりもキャラが猫だっていうのが、陰惨な雰囲気をやわらげていると思います。なんせ九州の猫のしゃべり言葉が、関西弁の語尾に「どってん、ばってん」をつけたものだし(笑)ってそんなの気にするのも忘れさせるくらい、息つく間もなく次々とテンポよくかつスリリングに進んでいくストーリーは最高です。雷蔵のかっこよさも格別ですが、カズヒサのいかれ鬼畜っぷりもまた凄いです(実はそういうのけして嫌いではなくて・・・いやむしろ好きかも;;)「てるてる坊主賭博」なんか、いかに猫とはいえうげえ〜って感じだし;;最後、その吊るされた猫たちの見張りをまかされた下っ端ヤクザが、自分の属する組とはいえあまりの残酷さに、逃げ出したいけどそうしたら自分も吊るされるから、結局運命をともにするしかないと言うシーン(実際味方側で逃げた猫は吊るされた)は、救いようのない暗さ、どうしようもない行き場のなさでうぐっときてしまいます。それでもその総てを突き抜けて、光るのは雷蔵=小鉄の強さと優しさと男気。正直、こういうひとがいたら後を追っかけていきそうな自分が(^^;)あっ、そーいえばこの作品一人も女性(猫)が出てこないんだ;;でも、彼は「オレは一人でいたいんや」ってさっさとほっていかれちゃうんだろうなあ。それでもいいや。そんなとこもかっこいいから(もう、だめっすねあたし;;)


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