映画の音声

 

 映画が誕生してしばらくは、フィルムには音声を記録・再生するシステムは含まれていなかった。いわゆる“サイレント映画”の時代である。
 しかし映画に音をつけたいという思いは当初からあり、かのエジソンも自作の蓄音機をフィルムと同期させようと試みたり、上映の際に語り手が付いたり楽団が演奏したりと様々な手法がとられてきた。
 そして1920年代半ば、いよいよ光学式録音・再生システムが確立し、フィルムに焼き付けられ、映画に音がつけられたのである。


光学式・磁気記録式サウンドトラック
 

 光学式は、1906年にスウェーデンのスベン・ベルグルントが発明。1920年代に映画に用いられ、以後の映画音声方式の主流となる。
 光学式にも濃淡式と可変面積式の二種類がある。前者は初期に用いられていた方式で、縞模様の濃淡によって音声データを記述する方式である。後者は波形の模様によって音声データを記述する方式である。現在ではフィルムの現像などの行程における有利さから、全て後者のエリアタイプが用いられている。

 磁気記録式は、第二次大戦中にドイツが開発したテープレコーダー技術を元にしており、フィルムに磁性体を塗布して記録する方式である。光学式に比べ音響特性などでは優位であるが、フィルムの量産には向かず、シネマスコープ方式のパースペクタ・ステレオや70mm方式の6チャンネル・サウンドトラックなどで用いられる程度である。


モノラルからステレオ、マルチチャンネル音響へ
 

 1940年、アメリカのベル・テレフォン研究所とディズニーが協同開発したのが、史上初の光学式マルチチャンネル・システム、“ファンタ・サウンド”である。名称はシステムが採用された作品の「ファンタジア」からとられている。この方式は、フィルムが映像とサウンドトラックで別々にあり、上映の際に同期させるというものだった。

 本格的なステレオ、ハイファイ時代の到来は、1950年代になる。テレビジョンの普及に対抗するべく推し進められた大画面化と同時に開発されていった。

 1953年、20世紀FOX社が開発した「シネマスコープ」方式。これは磁気記録による4チャンネル方式、「パースペクタ・ステレオ」も採用されていた。チャンネル構成は、スクリーン側の左、センター、右と、リアの3−1方式である。しかし極めて初期の大作などで採用されたのみで、その後は光学式による標準のサウンドトラックが主流となった。

 1955年、トッドAO方式による70mm映画が製作される。これは磁気記録による6チャンネル・サウンドが初めから標準規格として採用されていた。スクリーン側の左、センター、右にウーハーが2つ、リアの5−1方式である。リアチャンネルは基本的にモノラルだが、ステレオにチャンネル構成を変更したスプリット方式もある。
 なお、70mmには光学式のサウンドトラックは設けられていない。

 撮影段階から70mm方式をとる作品は極めて少数だが、独自の6チャンネル超立体音響は郡を抜いて素晴らしく、サウンドマスターは6チャンネル、あるいはそれ以上のマルチチャンネル方式で製作される作品も少なくない。


サラウンドの定着
 

 1970年、「時計じかけのオレンジ」で映画作品として初めてドルビー・ノイズ・リダクション・システムが採用される。これにより、磁気記録式にも迫る良好な音質が光学式サウンドトラックで得られるようになった。

 そして1975年、マトリクス方式を用いた立体音響規格の一つ、ドルビーステレオが提唱される。
 初期のドルビーステレオ作品で成功したものと言えば、1977年公開の「スター・ウォーズ」と「未知との遭遇」が挙げられる。
 以降、急速に作品数も対応劇場も増加していき、映画音響の主流となる。

 1980年代初頭、「THXシステム」の提唱。
 従来の劇場の音響設備の悪さに悩まされていたジョージ・ルーカスが、製作者が意図した通りのサラウンド効果が得られるように、使用する機器や劇場の音響特性、果ては建築資材に至るまでの厳密な規格を設けたもの。
 これにより、劇場における高品位再生の指針が定まり、また音響製作者もより効果のあるサウンドデザインが出来るようになった。


最新のデジタルサウンド方式
 

 1980年代、音楽業界では既に録音からセル・メディアに至るまでデジタル行程が確立されていた。しかし映画に関しては、録音や編集はデジタルながら、上映は未だに光学式、磁気記録式いずれもアナログ方式のままだった。
 1990年に入って、ようやくデジタル上映方式が確立される。

 まずドルビー研究所がドルビーデジタルを提唱。
 音声は単にデジタル化されただけではなく、最大6チャンネルの音声を約15分の1に圧縮したAC−3高効率符号化信号で収録される。データはフィルムの送り穴の間、パーフォレーションの部分に収録してある。
 チャンネル構成は、スクリーン側が左、センター、右で、リアも左と右のステレオ、加えてサブウーハーの合計6チャンネルとなる。
 初採用作品は、1992年公開の「バットマン リターンズ」。

 続いてdts社がdts方式を提唱。
 dtsとは「Digital Theater System」の略で、チャンネル構成はドルビーデジタルと同様最大6チャンネル。データはCD−ROMに収録されており、フィルムのタイムコードに同期して再生される。音声データの圧縮率が約1/4と低く取られ、非圧縮のリニアPCMに迫る高音質がウリとされている。
 初採用作品は1993年公開の「ジュラシック・パーク」。

 そしてソニーがSDDS方式を提唱。
 SDDSは「Sony Dynamic Digital Sound」の略で、チャンネル構成は上述二方式と同様の5.1チャンネルから、スクリーン側に2チャンネル追加した8チャンネルまである。音声はMDと同様のATRAC方式で約1/4に圧縮され、フィルムの送り穴の更に外側に収録される。両側それぞれに4チャンネルずつ、各二組で記録されており、デジタル音声でのバックアップが確保されていることになる。
 初採用作品は1993年公開の「ラスト・アクション・ヒーロー」。
 

図 サウンドトラック概略

 なお、図でも明らかに三つのデジタル方式は共存可能であり、いずれもバックアップとして従来の光学式サウンドトラックが用意されている。

 1999年公開の「スター・ウォーズ エピソード1」。
 本作に投入された怒濤の技術は既に周知のとおりだが、また本作は新方式のデジタルサウンド採用の第一作目でもあった。
 ドルビーデジタル・サラウンドEXとdts−ES。
 いずれも、従来の6チャンネルに、リアセンターを加えた7チャンネル構成になる。リアセンター成分は独立して記録されているわけではなく、マトリクス処理によりリア左右に振り分けられているので、従来のドルビーデジタル、dts方式でそのまま記録できる。また従来の6チャンネルとしても再生可能である。
 劇場では既に側面から背面まで複数のスピーカーが設けられており、僅かな回路の変更だけで背面のスピーカーをリアセンターとして使用し、容易に対応が果たせる。