Embrasse-moi. 2 【オンブラセモア 私にキスをして。】





 
 甘いと思っていたマカロンは思いのほか、ローの味覚にあっていた。
 ローのためだけに用意されたのは、甘みを抑えたカカオと抹茶とコーヒー味。それは数個だけで、仲間たちの口には届けていない。味見としては一つずつ食べたが。
 皆が食堂でマカロンに群がる中、ローはを担いでその足を自室へと向けた。
「もう! 逃げませんからおろしてくださいっ」
 その言葉にローは口元を緩め、船長室のドアに鍵をかけてからベッドへおろした。
 おろした彼女の体へ覆い被さり唇を重ね、触れるだけの口づけを幾度となく繰り返す。
「ん、……」
 ローが舌先での唇を撫でれば、無意識に開かれる唇。
「ん……ん、ん」
 舌先を絡めれば、彼女の指がローの服にかかった。縋りつくその指をはずさせて自分の指で絡めとり、息継ぎを忘れるほど執拗なキスをする。
 ぎゅ、との指に力が入ったことがわかると、ゆっくりと唇をはなした。
 熱い息をこぼす彼女の唇に触れるだけのキスをすると、潤んだ瞳がローを見上げた。
「そんな顔するな」
「どんな顔、ですか?」
 自分ではわからないと困惑して問うと、ローが苦く笑った。
「自分でわかってないのか」
 再度、軽く触れるだけの口づけをしたローは、赤くなったの目元にちらりと視線を向けた。
「俺を愛してくれているとわかる、女の顔だ」
「あ、あい……っ!」
 恥ずかしいのだろう、は身体中を真っ赤に染めた。
「あぁ、いいな。嬉しいってわかる顔だ。そうやって隠さずにいてくれ」
「オレが隠したところですぐ見つけるくせに」
「医者に隠し事するなんざ、患者のすることじゃねぇ」
 それにな、とローは言葉を続けながら、の指に絡めていた自分のそれをほどくと、その指で彼女の服を剥いでいく。
「たとえお前が嫌だと言っても、俺はお前を手放したりしない」
「んっ、……どっちが、甘い、ん、ですか……っ」

 もっと甘いものをもらう予定だしな。

 この部屋に連れてこられる前に、ローがに向けて言った台詞だ。
「そりゃ、お前に決まってる」
 キスと言葉だけで、期待に煽られた体が熱をもっていた。
 下着まで剥がされたの蜜壷に刺青のある長い指が触れたが、くるりと襞を撫でただけで、その指がはなれていく。
 疼いているその場所から離れていくのを感じて、はどうして、と不安顔だ。
「俺にどうして欲しい?」
 指は胸の頂を緩やかに撫で、もうひとつは熱い舌で舐めた。
「あっ……ん、んっ」

 ぴくん、と体を震わせたは、熱い息を吐きながらローに縋り付く。
 ぴちゃ…と濡れた音を響かせて痛いほど張り詰めた頂を舐められ、体を震わせて啼いた。
「ぁ、……っ、あ、ん、んっ」
「このままでいいのか?」
「な、に……?」
 このまま胸だけを弄られて、決定打に欠ける刺激で耐えられるはずがない。そんな風に感じる身体にしたのも、彼の前で『女』になるようにしたのもローだ。
「前にも言っただろう?」

 ――欲しいなら求めろ。――

 他人の顔色を気にしたり他人の思考を読み取るのが嫌で、彼女はずっと偽ってきた。人とある一定の距離をとり、表情と言葉をなくすことで自分のテリトリーを守ってきた。それを越えてきたのはシャンクスとローだけだ。そして、欲しいものは欲しいと声を出していいと――求めてもいいと言ったのはローただ1人。
「体は素直だな」
 彼が与える緩やかな刺激だけで、の蜜が溢れてくるのを視界に入れて、ローは喉の奥で笑う。
「もうだめ…っ、……だめっ」
「嫌なら嫌だって言え」
「ヤじゃない、けど……っ……だめ、っ、あぁっ」
 胸を食むローの唇に、は熱く息を吐く。無意識に閉じていた目を開けると、彼は彼女と視線を合わせながら胸のふくらみに吸い付いた。
「…っ、あ……っ」
 痛みと同時に走った愉悦。赤く咲いた花のように色づいたそこへ舌を這わせると、ローは体を起こしての唇をふさいだ。
「んっ……、ん、ん」
 とろりとした蜜が体の奥から出ていくのがわかる。
 唇を合わせるだけで感じる熱は、相手がローでなければ感じることはできないだろう。こんなにも自分の奥深くまで入り込んだ彼を、大切にしたいと思う。
 求めることができず、諦めるしかなかったの生活を一転させたローは、彼女に欲しいと声にだしてほしいと願う。
「声を出せ、欲しいと言え。お前が欲しいものを与えてやる」
 唇をはなしたローはそう言い、膨らみの先を撫でる動きを止めずにの瞳を覗き込んだ。
 ローは嘘をついたりしない。自分が望んだものを与えてくれる。
 大切な、ただ一人の、自分の主人。
 今まで、女であることを嬉しいと思ったことはない。生物学上も男であったならどれだけいいか、そう思う日々だった。それを、性別などどうでもいいと、自分の思うままでいいと言ってくれたロー。
 彼の与える刺激に、は瞳を潤ませる。甘く蕩けるような瞳と同じように、ローを受け入れる体も解けていくのが自分でもわかった。
「……可愛いな。全部が潤んで、甘そうだ」
 熱い息で言われて、思考も解けていく。
 はローの下肢へと指をのばして、ジーンズの上から主張をはじめたそれをそっと撫でた。
 これを自分の中に挿れてほしいと思う。
 思考の定まらないなかでそんなことを思った記憶はあるが、こんなに早いうちから思ったことははじめてだ。それを不思議に思いながらも、触れることをやめようとは思えなかった。
 ぴくりと震えたそれに、嬉しいと思う。
「お前な……」
 呆れたような声がローから聞こえて、触らない方が良かったのかと手を引っ込めれば、勢いよく体を起こしたローは、その勢いのままの服を剥ぎ取ってしまう。ついでとばかりに彼も同様に脱ぎ捨て、覆いかぶさってくる。
「もう一度、触ってくれ」
「嫌だったんじゃ……?」
「嫌だったらこんなになってねぇ」
 こんなに、と言いながらローはの手を自身へと導く。昂ったそれは触れた瞬間にぴくりと震えて、気持ち良さに彼は目を細めた。
「気持ちいい……?」
「あぁ、すげぇイイ」
 そっと手のひらで包めばひくりと震えて、ゆっくりと上下に撫でれば、ローの喉が期待を含んだ息を吐いた。
「そのままゆっくりな」
「ん」
 小さく頷いて、は言われたとおりに撫でる。それに再度短い息を吐いたローは、彼女の唇を塞ぐ。舌を何度も絡ませながら、片手で胸のふくらみを撫でてからの片足を持ち上げた。
「ん、んんっ……っ、ん………ぁ、んっ」
 持ち上げ膝をたてられ、広げた足の間へと指を滑らせた。既に潤っているそこを指でなぞり、痛みなど感じないだろうほど濡れた感触に、うっすらと口角をあげる。少し力を入れただけでするりと指が入り込んだのに気付いて、の目元が赤く染まった。
 恥ずかしいと体中を赤く染める彼女が愛おしい。
 蜜を絡めて指を入れれば、はローの口づけから逃れて熱い息を吐き、くるりと指の腹で内壁を撫でれば嬌声が漏れた。啼き声が恥ずかしいと唇を噛む仕草にすら欲望を掻き立てられて、更に深くを指で犯す。
「あぁっ……!」
「逃げるな」
「……っ、ん! ……ぁ、あ……っ」
 無意識に逃げようとするの体を引き寄せ、更に指を増やす。
「手が止まってるぞ」
「あっ……あぁっ! んっ……も、むり……っ」
「じゃあ、そのまま握ってるだけでいい。……できるか?」
「ん」
 こくりと小さく頷いたの指を自身へと絡ませて、ローは増やした指をゆっくりと出し入れする。は下肢から送られる刺激に耐えるのと、ローに言われたとおりにするのが精一杯だ。
「んっ、あぁ……っ! あ、だめ! んんっ、あ……っ……!」
「気持ちいいからダメなんだろう?」
 わかっているなら聞かないでほしいと思うが、言葉にするとて口を開けば、出るのは熱い息と甘い自分の啼き声。恥ずかしいと唇を噛んでもすぐに塞がれて、手で塞いでも指を絡めてはずされる。
「今夜は潰すぞ」
「あ、あぁっ……な、に……?」
「俺との約束事を破った罰だ」
「え……? あぁっ、あ、ん……ふ、ぁあ!」
 ロー自身を握らせていたの指をはずして自分の指を絡ませ、もう片方の手で立てさせていた足を抱える。自身をの体内にゆっくりと押し込みながら、彼は言葉を続ける。
「島にいるときは仕事をしない、それがこの船のルールだ」
「出航直前でも、だめ?」
「何かひとつでも許可したら、ルールの意味がねぇだろ」
「ごめん……なさい」
 快感とは別の意味で潤み出した目を、は慌てて閉じた。ここで泣いては駄目だと、自分に言い聞かせる。どこかで自分は甘えていたのだろう。
 ぎゅっと目を閉じれば、その瞼の上から、触れるだけのキスが落ちた。
「反省はそこまでだ。……バレンタインの時は海の上だったから、材料がなくて作れなかったんだろう? それをお前が気にしてたのもわかっている。だから今日は気づいてない振りして止めなかった」
 戸惑いに揺れる開いた瞳はまだ潤んでいて、その目尻にローはキスをした。
「それに船の上じゃ、朝早くから仕込みをするのをわかってて、立てなくなるまで抱き潰すなんて出来ないからな」
 ――と、いうことは……それだけするってこと?
 は思わず、怒られたことも忘れて胸中で呟く。
「今日は泣いてもやめねぇから覚悟しろよ」
 ローは彼女の体内に埋めた自身を、ゆっくりと引いた。





 声が響くのが嫌だからと、どうにかして声を殺そうとしていただったが、何度目かの絶頂に、我慢しきれず甘い声で啼いた。もう自分でどんな表情をしているかわかっていないだろう。
 潤んだ目は、荒く息を吐くローを写している。
「まだイケるだろ」
 女性にしては体力があるだが、さすがにこれ以上は無理だと思う。
「無理、もうだめ……っ」
「まだだ。――足りねぇ」
 低い声がの耳を揺らす。
「あぁ…っ! ……、っ、あ!」
「声出せ。……ッ、はぁ…っ」
 熱い息と眉を寄せたその表情に、の体がびくりと反応した。
 ――気持ち、いいんだ……。
 自分の体で感じてくれていることが嬉しくて、彼女は無意識に体内にある彼を締め付ける。
「ッ! 煽るな!」
「煽ってない…っ!」
 ――そんな余裕ない!
 胸中で叫ぶが、口から漏れるのは嬌声ばかり。
「俺とお前のモノでぐちゃぐちゃだな」
 ローは言いつつ体を倒し、の耳に艶の増した声を流し込む。
「今日が危険日じゃねぇのが残念だ」
「え!? あ! あぁ……ッ、んっあぁあ!」
 ――目に見える形で、お前が俺のものだという証が欲しい。
 ローの体に乗る形で抱き起こされたが、奥深く貫かれて啼いた。潤む瞳がローを見下ろし、縋るように首に腕を回した彼女は、そのままローに唇を押し付ける。
 すぐに離された唇を追ってローから口づけ、リップ音を響かせた。
「ロー、もっと……」
 恥ずかしいけれど、舌を絡める濃厚な口づけより、ふわりとした柔らかなキスが欲しい。
 それが表情に出ていたのか、ローは触れるだけのキスを、額に、瞼に、目尻に、頬に。――そして、唇に。
「あぁ……かわいいな……」
 淫靡な色に染まるローの声が、熱い息と共に落ちる。
「こんなグダグダにされちゃったら、ローがいなくなったらどうなるんだろう……」
 ローから落ちる柔らかなキスを受けながら、はぽつりと呟く。
「あのな……、俺がいなくなったら生きていけないようにグダグダにしてやったんだ。――だから、そんなこと気にするな」
 ――他に目移りできねぇくらい、愛してやるよ。
「わかった。……一生ついてくから、覚悟しといて」
「あぁ、お前も覚悟しておくんだな」
 自分の中で主張するローも愛おしいけれど、今は、とろとろに溶かされた甘いキスが欲しい。
 ん、とが唇を尖らせてキスを強請れば、そこに甘いキスが降ってくる。
 とろりと瞳に艶を含ませれば、触れるだけのキスでは我慢できなくなったローの舌がの舌を求めてくる。それに応えながら、彼女は体内にあるローを締め付けながら、腰を揺らした。









2018.03.23