薬指の出番はもう少し後で





 
、それ片付けたら医務室に来い」
 ――医務室?
 首を傾げた
「返事は?」
「……リョウカイです」
 ローはの返事を確認して、医務室へ歩いていく。
「オレ、怪我とかしてないけど……。目薬の処方もまだ先だし」
 流しにある食器を洗いながら、彼女は首を傾げて考えてみるが、結局答えは出なかった。










 仕事を片付けたは、言われたとおりに医務室へやってきた。ノックをすると、中からローの声で入室許可が下りる。
 そろりと扉を開けると、ローは机の上に何かのパッケージを2つと氷嚢(ひょうのう)を準備していた。
「この椅子に座れ」
 指さされた丸椅子に腰をおろすと、疑問符を浮かべたまま、はローの指を見る。その手に持たれていたパッケージの中身は白い器材。
 ローの手に氷嚢が持たれ、の手にそれが渡される。疑問符を浮かべた彼女の、氷嚢を持たせた手を耳へあてる。
「しばらくそうしてろ。離すなよ」
 右耳へ氷嚢をあてたまま、は言われたとおり離さずにいる。ローへと視線を向ければ、白い器材のパッケージをあけ、中身を確認している。
「何するんです?」
 右耳へあてた氷嚢をの手から取ったローは、今度は左耳にあてた。
「そのまま持ってろ」
 言われたとおりに持っていると、彼は白い器材をの右耳にあてた。
「え? ナニ!?」
 思わずびっくりするに、ローは「動くな」と言って、器材を右の耳たぶを挟んで、何も言わずにボタンを押した。
「わっ!?」
 右の耳たぶからじくじくと鈍い痛みがやってきて、は戸惑う。
 ローはが驚いているうちに、左耳も同じようにしてしまう。
「キャプテン!?」
 もともと痛みに強いからか、遠くの方で鈍い痛みがあるものの、我慢できないほどではない。
 呼ばれたローは、を立たせて壁にある鏡へ彼女を連れて行き、見るように言った。
「あ……! ピアス!?」
 先の鋭く尖ったピアスで穴を開け、しばらくはそれをしたままにするという。
「とりあえずは両方に1つずつな。それが落ち着いたらまた開ける」
「え!? まだ開けるんですか?」
「そこには俺と同じヤツをつけてもらう」
 ――俺のモノだという証をな。
 ローは机に置いてあった木箱をに渡す。開けるように言われて、言われたとおりに開くと、そこにはローと同じ飾りのないゴールドのリングピアスと、海賊団のマークを彫ったピアス。どちらもゴールド主体で、ホストの部分がプラチナ加工されている。
「それをつけるのは、ピアスホールが安定してからだ」
 ペンギンが、ローの用事で寄った街だと言っていたのを思い出す。
「もしかして、前の島の……?」
 ローは目線でだけで肯定し、の手にあった木箱を、また元にあった場所へと戻した。
 ピアスの穴をあけると一方的に言われた時は、何を勝手にと思ったが、こうやって穴を開けてみると、少し楽しく感じられた。
 ローがに差し出して見せたピアスは彼とお揃いで、それがまた彼女の心を高揚させる。
 ――オレばっかりもらって、何か返したいけど……。
 残念ながら、ローの誕生日はまだ数か月先で、国民的イベントであるバレンタインやホワイトデーも終わってしまっている。名目があったら便乗できるが、そうもいかない。
 うれしいと笑顔を見せたの顔が、少しだけ困った表情をした。すぐに戻ってしまったが、ローはそれを見逃さない。
「ウチの船員(クルー)は体の一部に刺青をいれてる。……ベポは例外だがな。それは、その刺青のかわりだ」
「刺青のかわり?」
 刺青は消えることがない――その場所を欠損しない限りは。裏切ることがないと、信頼関係を築いている証拠なのだろうか。では、自分はそれにあてはまらないのか。
 の考えていることに気付いているのか、ローは彼女の左手を取り、その薬指を自らの指でなぞる。
「おまえの刺青をする場所も決めている。……だが、もう少し後だ」
 はローの答えを求めるように視線を向けるが、彼は薄く笑うだけだ。
 手に持っていたの左手の薬指に、笑みを浮かべた唇で掠めるようなキスをして。
「キャプテン……っ」
「5回目だ、
 喉の奥で笑ったローは、彼女の耳元へ唇を寄せて。
「楽しみだな?」
 わざと艶を乗せて囁き、手を離す。
 2人きりのときに、ローの名前を呼ばずに『キャプテン』と呼んだ場合にペナルティを科すとは言われている。それを5回重ねると、ペナルティとしてローの言うことを聞くことになっている。
「拒否権は?」
「あるわけないだろう」
「……ですよね」
 ――なんだか、自分のせいで話がずれた気がするが、ローを信じてみることにする。


『おまえの刺青をする場所も決めている。……だが、もう少し後だ』
 言われて撫でられたのは、左の薬指。
 ――ん?


 は気付いた瞬間に頬を真っ赤に染め――次第に恥ずかしさが徐々に全身へ浸透すると、首筋や耳まで真っ赤になった。
 その様子を見て、ローが満足そうに笑う。
「その指の出番はもう少し後だ。……浮気せずに待ってろよ?」










【薬指の出番はもう少し後で 完】










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2017.05.31