麦わら海賊団と初遭遇と、厄日? | |
「おぉーーーい!!」(ルフィ) 「――……」(ゾロ) 「おい、ルフィ! 何やってんだよ!!」(ウソップ) 「はぁ……」(ナミ) 「フフフ」(ロビン) 「あ! あの船!」(チョッパー) 「ナミさぁ~ん! ロビンちゅぁ~ん!」(サンジ) 「ありゃあ、トラ男の船じゃネェか」(フランキー) 「ヨホホホホ!」(ブルック) 「――……」(ロー) 「あ! あれ!」(ベポ) 「ん? あぁ」(ペンギン) 「麦わらの船だ!」(シャチ) 来た方向は違えど、行先は同じ島のようだ。 船を港へとめると、ルフィが駆け出しこちらへ来ようとしているところを、オレンジ色の髪の女性が、それを拳でとめていた。 「こえー……」 は思わず呟く。 「あの船の船長は”麦わら屋”だが……」 「あー……全部言わなくてもワカリマス」 は両肩をすくめた。 「お前の紹介がてら、会うか」 麦わら海賊団の船へ来たローとは、キッチンへと案内された。はローに言われて、眼鏡をかけてきている。 椅子に座るよう言われて腰を下ろす。金髪の男がコックなのだろう、煙草の煙をハートにしながら、クルーの女性2人に紅茶を出した。 ――客より先かよ。 は胸中で突っ込む。 「トラ男くん、新しい仲間が増えたのね」 ――トラ男?! は驚きの表情のまま、隣に座るローを見やる。言われた本人は無表情のままだ。 「言っても無駄だ。……諦めた」 「そうですか」 そんな会話をしていると、コーヒーが目の前に置かれた。 「ありがとうございます」 とりあえず猫を被っておくか、とは昔を思い出しながら礼を言う。 ローは受け取ったコーヒーを何も言わずに飲んでいる。 それを横目で見やってから、ミルクだけ入れて口に含む。 ――美味い……。キャプテンは知ってるから、何も言わずに飲んでたんだな。 座った麦わら海賊団と、ローとに飲み物がいきわたったのを確認して、オレンジ色の髪の女性が口を開く。 「とりあえず、貴方に簡単な自己紹介をしておくわ」 喋るとボロが出そうだから、は頷くだけにとどめた。 麦わら海賊団の人数は、総勢9名。少数精鋭ということだ。 「次は、貴方の番ね」 「・です。ハートの海賊団に入って半年です」 「まだ日が浅いのね」 「えぇ。コック兼戦闘員……というところですか? キャプテン」 「あぁ」 「コックと言っても、そちらの方に比べるとヒヨコにも見えないぐらいの腕前ですが」 コックの修行をつんできたサンジの腕前とは雲泥の差だろう。だが、それでもコックという職業が好きだ。 「おまえの料理、食ってみてぇな!」 「黒足屋の料理で十分満足だろう」 言いながらへちらりと視線を向けると、表情には出ていないが『作りたくない』と思っているのがわかった。 ――珍しいな……食いたいと言われて嫌がるなんて。 は頼まれると嫌とは言わない。 ――それに、随分と……必要以上に自分を偽っているな。 はじめて会ったときのことを思い出し、ローは少しだけ瞳をやわらげる。 「今日は顔を合わせるために来ただけだ。……」 は呼ばれて席を立つと、小さく会釈した。 「行くぞ」 ローは何度もこの船に来ているため勝手がわかっているのだろう、を促し船へ帰っていった。 残された麦わら海賊団の面々は、様々な表情をしている。 「ロビン、どう思う?」 「間違いないでしょうね」 「やっぱり」 「なにがやっぱりなんだ?」 ルフィの言葉に、ナミはテーブルにあった新聞の束から、一枚の手配書を取り出した。 「これよ」 ゾロはそれを見やり、やはりと思う。 【・ 『ONLY ALIVE』 5000万ベリー】 「『ONLY ALIVE』じゃねぇか。……なんでだ?」 知らない人間からすれば、その疑問は当たり前だろう。 「何か理由がある……ということかしらね」 「あいつは左目がほとんど見えていねぇな」 「ゾロ?」 「あの眼鏡で隠されてはいるがな。それに、トラ男はアイツの左側に座った」 「あぁ、なるほど。左が見えなきゃ死角になるなー」 ゾロの言葉に、ウソップが納得する。 「手合わせしてみてぇなァ」 ゾロがニヤリと笑う。今日のは愛刀である閃雷を持ってはいなかったが、右手に豆ができていたのを見たようだ。 「あの手はそうとう闘っている手だ。戦闘員ってぇのも頷ける」 「トラ男が見込んだ男だ、強いだろうなァ」 フランキーの言葉に、チョッパーは顔をあげた。 ――そうか、みんなはわからないんだ。 椅子から飛び降りると、チョッパーはキッチンから出ていく。後ろからブルックに呼ばれたが、無視して駆け出す。 「ん? キャプテン、あれ……」 後ろからの気配に振り返ると、麦わら海賊団の船医が走ってきていた。 「あァ……気付いたんだろう、おまえの正体に」 「あー……そういうことですか」 どうします? とに視線で問われて、おまえの好きにしろ、とローも視線で返す。 「ちょっと行ってきます」 2つの海賊団の船の間で、は彼を待った。 「えっと」 「とりあえず、どちらからも見える位置でいましょう。声までは聞こえないでしょうから」 「わかった」 チョッパーは質問をしようか悩んでいるようだ。 「聞きたいことはわかります。……うちにも白クマがいますから」 は猫を被ることをやめることなくチョッパーに言って、腰を落とした。 「内緒にしててもらえますか? ……迷惑をかけるとは思いますが」 「ゾロやロビンは気付いているかも」 「気付いている方は別にそのままでいいんです。――僕には敵が多いですから、少ないにこしたことはない……それだけです。それに、この左目が見えていないのも気付いているでしょう?」 頷くチョッパーに、やはりと思う。 「それについても、気にしないでください。ほとんど見えていないのは事実ですから」 心優しいチョッパーには、大丈夫だとしっかり言っておいたほうがいいのだろうとは判断する。 「病気ではないんです、だから治らない。でもね、ちゃんと医者であるキャプテンがいますから、大丈夫ですよ」 はチョッパーの目に自分の視線を合わせる。 「僕は大丈夫です。それにね、偽る僕でもかまわないと言ってくれてる。……自分に何かできることがあるかもしれないと頑張ることはいいことですが、心を許しすぎるのはダメです」 はチョッパーの手を取って、少しだけ笑う。 「もし皆さんに僕のことを聞かれたら、こう言っていたと答えてください」 『僕は大きな虎の子を飼っています。その虎を飼いならすことができるのは、やはり虎でなければ駄目なんですよ』 つまり、トラファルガー・ローでなければならないということだ。 「なるほどな」 ゾロはニヤリと嬉しそうに笑う。 「トラ男を頷かせることができれば、秘密は明かされるということか」 サンジの言葉に、ウソップが「そういうことか!」と手を打った。 「トラ男の仲間は俺たちの仲間だ!!」 「いや、ちげーだろ!!!」 ルフィの言葉に、ゾロとサンジとウソップの声がリンクする。 「知られたくないわけじゃないと思うんだ」 チョッパーは真剣な表情だ。 「優しいですね」 ブルックの言葉に、チョッパーは彼を見上げて「にも言われたよ」と言った。 「そうか。アイツにも伝わってるってことだな」 フランキーは言って、手に持っていたコーラを飲み干す。 「あの子はとてもトラ男くんのことを慕っているのね」 「ロビン?」 慕う、の言葉にナミが反応する。 「彼はトラ男くんをとても信頼している。トラ男くんもまた、彼の信頼を得るために努力をしているってことだと思うの」 「あの見えない左目も関係しているのかもな」 ゾロはキッチンの窓から見える、ハートの海賊団の船を見やった。 停泊している島から見える範囲に、無人島が一つある。そこにハートの海賊団と麦わら海賊団が揃って上陸した。 「何でこんなことに……」 は深い深いため息をつく。 「あっちは嬉しそうだぞ?」 揶揄うようなシャチの言葉に、は憂さ晴らしに殴ってやろうかと思う。 船から降りたすぐのところで立ち止まり、麦わら海賊団の船から降りてきたロロノア・ゾロを視線に入れながら、はローへ向かって言った。 「キャプテンだったらわかってると思いますけど、勝てませんよ?」 「わかっている。条件も出した」 ロロノア・ゾロはと手合わせがしたいと言ってきた。それをハンデ付きならばと了承したのだ。 「それでも無理だと思いますけどね」 「無理だろうな」 無理だと思ってるなら何で……と彼女は眉間に皺を寄せた。それに対して、向こうに立つゾロは上機嫌に口元を緩めている。 「キャプテン、許可をください」 「いいだろう」 ツナギを脱いだは、ジーンズにパーカーという格好だ。 「うわ、懐かしい!」 「だな!」 「まだ持ってたのか!」 ハートの海賊団の船員たちが、の恰好を見て懐かしがる。 「せっかく買ってもらったのに、斬られるの承知で着れないだろ?」 「その喋りでいくのかー?」 「まぁな。喋りに気を使って、傷でもついたらオオゴトだから」 言いながら、隣に立つローを見上げるとニヤリと笑われ、かけていた眼鏡を取られた。 「なら、コレもいらねぇな」 「そうだね。……キャプテンが了承したんだから、傷つくっても文句言わないよな?」 ローは「傷をつくったら俺が治してやる」と、更に笑みを深くした。 ――この顔は絶対に腹黒なこと考えてる……。 はできるだけ傷を少なくするべく、気合を入れた。 「あんまり傷つくるとキャプテンが怒るんで、手加減してくれよ」 の、ガラリと変わった口調に、ゾロが面白そうに笑みを浮かべた。 「それが素か」 「みんなして、素になった途端に嬉しがるのは何でだろうな」 右手に柄を持ち、鞘から刀身を引き抜く。その鞘は、一瞬にして手から消え、ローの手に移る。 「対峙しただけで、あんたの方が強いのなんてわかりきってるだろ? 何でそんなに手合わせしたいんだ」 「5000万ベリーがどんなものか、と思ってな」 「金額は戦闘能力に比例しない。……どれだけ危険人物と捉えられるか、だからな。残念ながら、オレは戦闘能力であの金額になったわけじゃねぇよ」 言いながら、は鞘から抜いたゾロの刀身に視線を向ける。 「剣は1本、武装色の覇気は使わない、だったな。それでもおまえは俺に並べねぇ」 「だからさっき言っただろ。……こっちは必死にならざるを得ない」 はゾロを見据えながら、瞳を細める。意識を集中させる。 久しぶりに使うことになる、見聞色の覇気。それを使わなければ、きっと腕の1本ぐらい簡単に斬り落とされてしまうだろう。 ゾロの気配が動く。突き出してきた剣の切っ先を寸でのところでかわす。 「見聞色の覇気か」 「覇気使いにはバレるか。……こうでもしないと、オレは傷だらけになるからな」 決着は数分でついた。当然、ロロノア・ゾロの勝ちだ。 「手加減しろって言ったはずなんだけど」 とりあえず、大きな怪我はしていない。切り傷などはたくさんあるが、まあ、許してくれる範囲だろうとは思うが、それでも文句を言っておく。 「手加減したぞ、これでも。……体力の差がありすぎだ」 数分で決着をつける、ということが手加減なのだろうか。 「これでも体力はあるほうだぞ?」 「ナミやロビンに比べりゃ、そうだろうな」 の言葉に、ゾロが肩をすくめた。 ぽん、との頭の上に手が置かれ見上げれば、ローの手がそこにあった。その手は無言での腕を引っ張り、座り込んでいたその体を立たせた。 立ったの全身をざっくりと眺めたローは、右手にあったの愛刀『閃雷』を鞘に納めて渡す。 「まだまだ修行だな」 「いやいや、オレが勝つなんて無理だって。大きな傷つくらないのが精一杯」 ゾロの言葉にが呆れたように返す。 「おまえ、すげぇーな。仲間になれよ!」 ルフィは満面の笑みだ。 「ならねぇよ! ハートの海賊団の船員だぞ、オレは!」 「なら、仕方ねぇ。仲間になりたかったらいつでも言えよ!!」 「だから、ならねぇっつってんだろっ!!」 が握りこぶしを震わせ叫んだ。 「可愛くなったわね」 麦わら海賊団の船『サウザンド・サニー号』の甲板から一部始終を眺めていたロビンは、小さく笑みを浮かべた。 「ロビン、知ってたの?」 「えぇ、随分前にね。……酒場で給仕の仕事をしていたわ。私が知っているのは、曇った瞳と無表情。必要以上に喋ることもなくて……そうね、威嚇していたんだと思うわ。詳しい事情は知らないけれど、人に懐くような感じではなかったのだけれど」 はじめて麦わらの一味と会ったとき、は無表情で、目の表情を隠すように眼鏡をしていた。それを思い出しながら、ナミが言った。 「片鱗は少し、残ってるかもね」 「手配書も書き換えられてしまったから、余計でしょうね」 「書き換えられた?」 ロビンはナミに「内緒にしてもらえる?」と声を小さくする。頷くナミに、彼女は男性陣が周りにいないことを確認してから言った。 「あの子は女の子で、その姿で一度、手配書があがってるわ」 「え!?」 「コックさんが気付かないぐらいに彼女は男の子になっているけれど。ほら、それでも……見えるでしょう?」 ローの手が頭に乗せられ上を向いたときのの表情が、ちょうど2人から見える。 「確かに、そう言われればそうだわ。……ということは」 「そうね、トラ男くんの恋人、ということでしょうね」 「同じようなピアスしてておかしいなとは思ったけど……それで辻褄が合うわ」 そうだ! ナミはいいことを思いついたと笑う。何をしようとしているのか気付いたロビンも、楽しそうに笑みを浮かべた。 「えーっと……なんで?」 「せっかくなんだし、いいじゃない?」 「何が 『せっかく』 で何が 『いいじゃない?』 だよ!? オレの意思は!? 無視なのかよ!!」 「もちろん、ムシ」 「えぇぇぇっ! オレ、やだ。絶対ヤだ。一枚あったらいいよ、それにオレ、ナミみたいに胸ないし!」 「胸、大きくしてもらいなさいよ」 「ええええええっ!! ヤだよ、なんでオレ、こんな目にあってんの? 厄日だ……」 「胸ないけど、綺麗に筋肉がついてるから、綺麗よ?」 「胸ないって言った……」 「あったほうがいいの?」 「いや、一身上の都合により、ないほうがいいけど」 「だったら文句言わないの」 麦わらの一味の男性陣は、ナミによってハートの海賊団の船へと追いやられ――そして、だけが麦わら海賊団の船に、半ば監禁状態になって2時間近くが経っていた。 もうヤだ……。 手に持たされたのは、ナミに渡された数着。中には、見たくもない、着たくもない服が入っている。 「そうとうやられたな?」 「嫌々ながらの戦利品だな、それ」 の顔を見て把握したのだろうシャチとペンギンに、部屋にしばらく籠る、と伝えて消えていく。 後姿を見送りながら、2人はしばし思案顔。 「あれは 『最終兵器』 を投入すべきか……」 「シャチ、あそこに 『最終兵器』 を投入したら、たぶん壊れて何時間も出てこないぞ」 「そうかもなぁ……」 2人が思案顔になっていると、噂の 『最終兵器』 ――もとい、船長であるトラファルガー・ローがの部屋へ消えていくのが見えた。 「「あ……」」 2人の声が綺麗に重なり……そして、ため息。 「ベポに出航は明日以降にするよう、言っとくわ」 シャチの言葉に「頼むわ」とペンギンは頷き、自分は食事を作るべくキッチンへ足を向けた。 【麦わら海賊団と初遭遇と、厄日? 完】 |