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開けっぱなしの密室/岡嶋二人

1984年発表 講談社文庫 お35-4(講談社)

 一部の作品のみ。

「罠の中の七面鳥」
 宮本から自分を殺すためのアリバイ工作を依頼されてしまうという、花子の陥った窮地が興味深く感じられます。何せ、アリバイ工作の根幹である二人一役が、花子自身の一人二役と完全にバッティングしてしまうのですから。そこをどのように回避するのかと思いきや、アリバイ工作を実行する前に宮本が先手を打つという意表を突いた展開。そして、結局は七面鳥の肉が決め手となってしまうという結末の皮肉が何ともいえません。

「危険がレモンパイ」
 それぞれの思惑で二重三重に重なり合った事件の様相が面白いと思います。
 ただ、脅迫状から始まる後半の展開は今ひとつ。真相を暴くためには目撃者を用意するしかないのはわかりますが、陳腐に感じられてしまうのは否めないところです。

「火をつけて、気をつけて」
 頻繁に起こる誤配を逆手にとって、あえて自分を放火魔と名指しする手紙を隣人(真の放火魔)に読ませるという、何ともひねくれた計画が強烈です。セルロイドのフィルムが危険なことは知っていたので、小林まで死んでしまったところも予想通りでしたが、“小村正孝殿”で始まる弁護士からの手紙(222〜223頁)では死ぬほど驚かされました。どこか間の抜けた、そして皮肉な結末も秀逸。

「開けっぱなしの密室」
 真相は“秘密の抜け穴”ということで、密室トリックとしては邪道というべきかもしれませんが、それを逆手に取った“開けっぱなしの密室”というアイデアが非常によくできています。ちなみに、扱い方はまったく違いますがW.ブルテン(以下伏せ字)「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」(ここまで)を連想しました。
 落ちていた名刺を手がかりにドアが開閉された時刻を特定し、少しずつ真相に迫っていく悦子の素人離れした手際には苦笑を禁じ得ませんが、そのプロセスはよくできていると思います。
 “ここの、天井板が、最近外された形跡があります”“ほこりを擦り取った跡は、ついてますが……”(278頁)という伏線のさりげなさが秀逸です。貫井が隠したと思われる強請のネタを探す場面であって、しかも直後に床下から貫井の死体が発見されていることで、巧妙に読者の注意がそらされているところが見逃せません。

2006.08.05再読了

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