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暗殺心/都筑道夫

1983年発表 『銀河盗賊ビリイ・アレグロ/暗殺心』創元SF文庫733-03/(徳間文庫103-7(徳間書店))

 お読みになった方はお分かりのように、本書には――「第六殺」に登場する魔導師・霊夢{レム}を除いて――刺客の名前にダブルミーニングでその特技を隠しておくという趣向が用意されています。「あとがき」などを先に読むと趣向がわかってしまうとはいえ、人名としては最も不自然な一月{ヒトツキ}を最初のエピソードに持ってきてあるのは、趣向を知らずに読む読者へのヒントの意図もあるのかもしれません*

 趣向の例外となっている魔導師・霊夢は、“一章だけ、はじめから、特技をしめしておいて、それをトリックにつかった”(徳間ノベルス版「あとがき」より)もので、二つの命を持つという特殊能力を中盤で明かした上で、それを他人に預けるという反則気味(苦笑)のトリックを用意してあるのが面白いところです。

 その他、真晝に憑依した一月の体の所在を推理した上での火責め、黒神の巫女の“黒髪の術”を無効化する投網、密かに水月{スイゲツ}と手を組んで裏の裏の裏をかいた武余王殺し、味方を欺くことで敵を欺いた馬{ムマ}への対抗策、花冷{ハナビエ}の華麗な術のからくりとその性別を見抜いた眼力など、刺客たちとの戦いはそれぞれによくできています。

 その中で、個人的にベストだと思うのは不可思議{フカシギ}との戦いで、“不可思議=不可視技”という語呂合せが見事ですし、鹿毛里がそれを見抜いた手がかりにも説得力があります。何より、雨の降る中庭へ誘い出すことでその所在を感知するという巧妙な作戦が、“雨のなかに、凹みが出来ます”(合本496頁)という真晝の愉快な(?)台詞と相まって、強く印象に残ります。

 最後の夢迦国での物語では、早い段階から陽炎{カゲロウ}なる剣客の名前が出てきますが、それらしき人物として登場する我馬{ガマ}が真晝に敵対する様子がない……と思っていると、いきなり鹿毛里に“影牢{カゲロウ}の秘術”を仕掛けてくる、ひねり具合が面白いところです。我馬が陽炎その人ではなく弟子であるところもひねってありますが、そこで真晝の昔なじみというつながりを作ってあるのも巧妙。

 見事に夢迦王への復讐を遂げた後、王女である真晝には王位継承の問題が降りかかってくるところですが、再登場した馬の大活躍によって物語を納まるべきところへうまく納めてあるのがお見事。

*: 真晝が殺人犯に仕立てられていることで、“操り”系の能力であることは明らかではありますが。

2000.07.25再読了
2014.08.02再読了 (2014.08.23改稿)

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