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銀河盗賊ビリイ・アレグロ/都筑道夫

1981年発表 『銀河盗賊ビリイ・アレグロ/暗殺心』創元SF文庫733-03(東京創元社)/(集英社文庫89-1(集英社))
「双頭の毒蛇」
 ないものを“盗ませる”ことで、手元の夜光珠を堂々と表に出そうという軍務卿の企みはよくできています。しかしそれを逆手に取って、夜光珠の所在を明かすことで“盗みが成功した”と見せかけるビリイの作戦がお見事。ダイジャのテレパシーによって、ほとんど何もせずに仕事を済ませてしまうのも面白いところです。

「アンドロイド&ロイド」
 ビリイを騙して自社製アンドロイドの評判を高めようとする、ザカリイ・ロイドの企み……がメインではなく、娘のユーサピア、さらにはザカリイ自身までがアンドロイド(ザカリイはサイボーグ?)だったという真相が意表を突いています*1。冒頭、依頼の際に現れたザカリイは映像にすぎず、ダイジャをもってしても“ほとんど思考は読みとれない”(合本55頁)ために、真相がうまく隠されているところが巧妙です。

「覆面条例」
 中盤まで読者の興味は市長が本物か否かに絞られているわけですが、偽者にすり替わったのは市長の息子という、予想外の標的を狙った企みが非常によくできています*2。しかも、入れ替わりをずっと覆面で隠していたと見せかけて、覆面を外す時にすり替わって堂々と“本物の顔”を見せるというトリックが、非常に秀逸です。

「野獣協定」
 宝石の隠し場所のヒントはやや不足気味のような気もしないでもないですが、宙に浮いていて、場所が変わり、目の前にある――とくれば、ロボット給仕のヴォルフそれ自体が隠し場所というビリイの推理も妥当なところでしょうか。
 結局は宝石も偽物で、一篇全体が“テスト”で終わる結末はなかなか豪快ですが、ビリイが依頼を受けずに立ち去るのがまたすごいところ。最後に「顔のない道化師」で回収されているとはいえ、何とも大胆です。

「メイド・イン・ジャパン」
 芝居の稽古に重ねて、“盗賊ビリイ・アレグロ主演のノンフィクション・ドラマ”を製作しようというタン・ゴルの企みも面白いところですが、それを見抜いたビリイの反撃が鮮やか。ル・トンガの肚を探るために一度タン・ゴルに変装したことが伏線になっているものの、いよいよ反撃に出るところでは準備(合本228頁)とぼかして書いてあるために、盗みに入った場面が叙述トリック的な効果をあげているのが秀逸です。

「顔のない道化師」
 個人的にはやはり前半が微妙で、“長すぎる前フリ”にすぎないのも拍子抜けですが、幻覚めいた発端の入り方や本題の前の“テスト”など、都筑道夫の作品でしばしば(というほどでもないかもしれませんが)見かける“手口”なのが残念なところ。特に“テスト”については、「アンドロイド&ロイド」の発端にもありますし、「野獣協定」などは丸ごと全体がそうだった*3わけで、一冊の中で何度も繰り返されるのは少々閉口です。
 しかしそれでも、最後に強引に人類創世につなげてしまう豪腕と、そのオチの破壊力は圧巻。当初からの構想だったのかどうかはわかりませんが、ダイジャが“蛇”であることで、オチが一層効果的になっているのも見事です。

*1: もっとも、この真相そのものは、後に作者の別の作品((以下伏せ字)「赤い闘牛士」(〈未来警察殺人課〉)(ここまで))で“使い回されて”いるため、そちらを先に読んでいると面白味に欠けるきらいがあります。
*2: この標的のずらし方は、エラリイ・クイーン編『ミニ・ミステリ傑作選』(創元推理文庫)に収録されている一篇を思い起こさせます。
*3: さらにいえば、その「野獣協定」でビリイはヴィゴット・シュルギの“テスト”にすでに合格しているのですから、ビュルマを介して再び“テスト”をするのは不合理ではないかと思えるのですが……。

2001.04.26再読了
2014.07.29再読了 (2014.08.23改稿)

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