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赤い霧/P.アルテLe brouillard rouge/P.Halter |
1988年発表 平岡 敦訳 ハヤカワ・ミステリ1759(早川書房) |
まず10年前の事件では、“密室”への侵入とそこからの脱出はともに陳腐なものですが、手品の最中であるため途中で“あらため”が行われているところが面白いと思います。また、手品そのままのトリックなのでタネ本が致命的な手がかりとなってしまうところにも納得です。 一方、現在の事件(ブラックフォード村でもロンドンでも)の消失トリックは、いずれも面白味を欠いているといわざるを得ません。ただし、手記の最後に記されているように、リードが真実を告白しているとは限りませんし、コーラの“消失”などはそもそもリード自身の証言のみによって裏付けられているにすぎないので、真相は“霧”の中ともいえます。 序盤から再三怪しげなフラッシュバックを起こしていたり、かつて医学を学んだことに言及されたりすることもあって、リードが切り裂きジャックだということは見え見えになっていますし、切り裂きジャックの正体が警察関係者だというアイデアも目新しいものではないので、結末もミステリとしては力不足の感があります。 ただ、ともに幼い頃殺人を犯したリードとコーラが惹かれ合いながら、最終的には互いの転落の引き金になってしまったという、悲劇的な結末が強く印象に残ります。 余談ですが、リードの残した原稿は、メルヴィン警視からツイスト博士の手に渡ったようで、『死が招く』の冒頭でそのことに言及されています。 2006.02.22読了 |
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