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禁涙境事件/上遠野浩平

2005年発表 講談社ノベルス(講談社)

「希望街の殺人」について
 死体移動トリックについては、疑問がいくつかあります。
 まず、死体を部屋に運び込む間に血液が凝固ないし乾燥してしまい、不自然な状態になってしまうのではないかと思います。が、これは一概にはいえないかもしれません。
 次に、二人分の死体を一度に運ぶことになるわけですから、実行犯が一人(しかも女性)ではかなり厳しいのではないでしょうか。現場から娼館までの路上では荷車などを使うことができるかもしれませんが、それにしても積み下ろしは大変な作業ですし、室内へは人手で運び込まなければならないでしょう。
 そしてもう一つ、シーツに使われていることから防塵カバーは吸水性があると思われるのですが、もしそうならば、死体を運んでいる途中で血液が外側に染み出して見とがめられてしまう可能性が高くなります。防塵カバーを分厚く巻きつけて血液が染み出すのを防ぐという手もあるかもしれませんが、荷物が余計に重くかさばるものになってしまいます。
 これらの疑問については、もう少しの補足説明である程度何とかなる類のものだと思うのですが……。


 三つの事件(正確には「幸運街の惨劇」は違いますが)、さらにはエルウィンド・リーチ殺害事件までが、“禁涙境”という(文字通り)舞台につながっていくところは、非常に面白いと思います。事件の裏にイーヴ・ハーヴの存在があることは見え見えですが、それでもその動機は、一種異様なインパクトを残しています。


 ところで、“食通の戦地調停士”(16頁)とは誰のことなのでしょうか?

2005.01.15読了

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