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忘却の船に流れは光/田中啓文

2003年発表 ハヤカワSFシリーズ Jコレクション(早川書房)

 “世界”の真の姿は、壁に囲まれた都市と見せかけた宇宙船ではないかと思っていました。このネタは私の知る限り二つの先例(ネタバレなしの感想で触れた山田正紀のある作品と、もう一つ)があるのですが、本書ではそのネタがダミーとして使われ、“都市に見せかけた宇宙船”に見せかけたタイムマシンという真相になっています。明らかに、先例を踏まえた上でそこにひねりを加えた、実に見事なものといえるでしょう。

 “世界”がタイムマシンだったことで、きれいに時の円環が形作られているのも見事です。やや強引とはいえ、作者お得意のダジャレが絡んでいるところもよくできています。難をいえば、先に発表された作品((以下伏せ字)「脳光速 サイモン・ライト二世号、最後の航海」(ここまで))で類似のネタが使われているのが残念ではありますが……。

 ブルーとヘーゲルが同一人物だったというのは、かなり無理があると思います。少なくとも、教会で生活するブルーにとって、ヘーゲルとして活動する機会はないでしょう。特殊な脳構造というネタは面白いと思いますが、やはり釈然としない部分が残ります。

2003.11.15読了

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