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家蝿とカナリア/H.マクロイ

Cue for Murder/H.McCloy

1942年発表 深町眞理子訳 創元推理文庫168-04(東京創元社)

 この作品では、邦題にもなっている“家蝿”と“カナリア”が重要な手がかりとなっているわけですが、どちらも犯人に直結してしまう性質のものであるというのが問題です。つまり、手がかりに隠された意味、すなわち糖尿病、そして強いられた監禁状態からの解放という解答を見抜いてしまえば、それが指し示す人物はただ一人しかいません。しかも、これらの手がかりは完全に独立しているため、どちらか片方からでも犯人が特定できてしまうというのも物足りないところです。

 これらの手がかりに関して、作者は読者の疑惑をロッドに向けようとしているようですが(第5章)、このミスディレクションはあまりにも露骨すぎるため、決して成功しているとはいえません。むしろ、ダミーの解決の力不足により、かえって真相が見破りやすくなっているようにさえ感じられます。

 また、前記のように手がかりが犯人に直結しているため、ロジックの欠如という問題も生じています。つまり、ロジックによる解決ではなく単なる知識に基づいたものであるがゆえに、解決場面が本格ミステリとしての面白味に欠けるものになってしまっています。もちろん、ラストの犯人の存在感は圧倒的ですが、やはり本格ミステリとしてはさほど優れた作品とはいえないのではないでしょうか。

2002.12.13読了

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