ネタバレ感想 : 未読の方はお戻り下さい
黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.76 > 島

島/ボアロー/ナルスジャック

Delirium/P.Boileau & T.Narcejac

1969年発表 山根和郎訳 ハヤカワ・ミステリ1137(早川書房)
「譫妄」
 シャルモンがサン・ティエリの財布などを持ち去って保管しておいた時点で、最終的にそれが決め手となることは予想できると思います。つまり、シモンに罪を着せようというシャルモンの努力が無に帰すことになるのは見え見えなのですが、謎として残るのがシモンの行動です。サン・ティエリの死体を隠すことが大きなリスクを伴うことは明らか(そのためにシャルモンに罪を着せられそうになるのですから)である一方で、サン・ティエリが死んだことをいつまでも隠し通せるはずもなく、そのメリットはあまりないように思えます。
 それに対して、最後に明らかになる真相は見事です。より正確にいえば、遺産相続に関わる死亡順序の問題という、ミステリにおいては比較的ポピュラーなネタを、シャルモンの視点を通すことで隠蔽しているところが巧妙です。シャルモンにとってはシモンとの“勝負”こそが重要であり、読者もそれに引きずられてしまう部分があるのは間違いないでしょう。
 シャルモンに容疑が向いたのは予期せぬ副産物とはいえ、シモンによる死体の効果的な登場も見逃せません。非常にユニークなクライム・ストーリーといえるのではないでしょうか。

「島」
 “全員が嘘つき”という真相が見え見え(状況から考えて、それしかないでしょう)なのが残念。また、人物入れ代わりも効果的ではないと思います。
 「譫妄」とカップリングされていることが、あるいは少なくとも「譫妄」の後に収録されていることが、この作品の不幸といえるかもしれません。なぜならば、具体的な手段こそ違え、財産目当てにある人物の死を隠すという点で両作品が共通しているからです。そして、先に収録されている「譫妄」がなかなかよくできているだけに、この作品はどこか二番煎じの感を拭えないのです。

2003.11.18読了

黄金の羊毛亭 > 掲載順リスト作家別索引 > ミステリ&SF感想vol.76 > 島