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証拠が問題/J.アンダースン

Additional Evidence/J.Anderson

1988年発表 藤村裕美訳 創元推理文庫228-04(東京創元社)

 この作品で最もユニークなのは、当初から完全に容疑の外にある犯人が、他人の無実を証明するために証拠を捏造していくという構図でしょう。自分の容疑を晴らすためではなく夫のために、しかも捜査の流れに乗ってリアルタイムで次々と証拠を作り出していく展開は、なかなか例を見ないものだと思います。

 この構図を成立させるために、第1章冒頭に仕掛けられたさりげない叙述トリックも見逃せません。“リンダ・マシューズが死に遭遇した同じ八月の月曜の晩(中略)モダンな一戸建ての居間で、アリソン・グラントが座って手帳に目を通していた”(11頁)と、たったこれだけで、いかにもリンダが殺されたその時にアリソンが自宅にいたように印象づけています。と同時に、大胆に“手帳”(アドレス帳)の所在に触れているところも秀逸です。さらにいえば、アリソン自身による細かなトリック(タレコミの電話など)も効果的に機能していると思います(アドレス帳に添えた手紙の綴り間違いが、邦訳ではわかりにくいのが残念ですが)

 しかしながら、スティーヴンの浮気に気づけば強い動機が生じること、またスティーヴンの無実をあまりにも強く確信していることなどから、アリソン自身が犯人だという可能性がかなり早い段階で頭に浮かんだので、鮮やかに決まっているとまではいえないのが残念です。また、魅力的に描かれているアリソンが犯人であってほしくないと思っていたこともあって、もう一ひねり加わっていればより満足できたと思うのですが……。

 それにしても、真相を知った時のスティーヴンの態度には釈然としないものがあります。彼の気持ちもわからないではないのですが、もとはといえば自分のまいた種に他なりませんし、そのまま罪を着せられてもおかしくないところを懸命に努力して救ってくれたアリソンに対して、あそこまで逆ギレするのは筋違いでしょう。

2003.07.02読了

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