- 「エッシャー世界」
- 超現実的なエッシャー建築物を、こちらの世界で成立可能な形に改変することで、“エッシャー世界”で存在できなくしてしまうというアイデアが、非常に面白いと思います。
ミステリで色盲(色覚障害)ネタが使われる場合、色を(十分には)判別できないという弱点として描かれることがほとんどなので、本書の扱い方は新鮮に感じられます。私自身も色覚障害(赤緑色弱)ですが、やはり色の明暗に関しては普通の人よりも敏感なようです。
- 「シュレーディンガーDOOR」
- ハートマンになりすますことによる間接的なアリバイトリックがユニークです。
しかし、“シュレーディンガーの猫”はパラレルワールド(“多世界解釈”でしたか?)とは無関係だったと思うのですが……さてどうだったか。
- 「見えない人、宇佐見風」
- 作中作の声のトリックはJ.D.カー(C.ディクスン)の(以下伏せ字)「奇蹟を解く男」(『パリから来た紳士』収録)(ここまで)そのままですが、拘置所の中まで追ってくるという状況は工夫されていると思います。
“犬”と“ワイン樽”にはすっかり騙されてしまいました。宇佐見博士の今までが今までだけに、非常に効果的です。
- 「ゴーレムの檻」
- 外に出ることではなく、外に出たと(ノーマンに)思わせることが目的だったというのが面白いところです。
- 「太陽殿のイシス」
- トレーシングペーパーをすりガラスに見せかけるというトリックは面白いと思いますが、やはり電球につながる配線がかなり目立ちそうです。本文でも“賭”と表現されていますが、かなり分の悪い賭ではないかと思います。位置関係が今ひとつわかりにくいので、何ともいえないところもありますが……。
後半部分の、停電を利用したトリックは秀逸です。また、全体が太陽神ラーの神話に重ね合わされているところもよくできています。
ラストは一転してショッキングなものになっていますが、こうなると、宇佐見博士が「シュレーディンガーDOOR」のラストをどうやって切り抜けたのかも気になるところです。
2005.04.20読了 |