〈ハロルド・シェイ・シリーズ〉ディ・キャンプ&プラット |
シリーズ紹介 | ||||||||
このシリーズは、心理学者のハロルド・シェイが、様々な神話や叙事詩の世界で冒険――というよりドタバタ――を繰り広げるというファンタジーです。シェイはありきたりの人生に退屈した、やや無鉄砲な若者で、どこへ行っても大騒ぎを引き起こすことになります。そのため、ファンタジーにおけるアンチ・ヒーローの元祖ということになっているようですが、そんな彼も冒険を重ねるにつれて次第にヒーローへの道を歩んでいるように思えます。 異世界への転移には、「Pが非Qと同値であれば、Qは非Pを含意するが……」といった論理方程式が使われています。これはシェイの同僚であるチャーマーズ博士が構築した理論で、どうも世界の認識にかかわるもののようです。一見もっともらしく書かれていて、単なる呪文などとはひと味違う、といったところでしょうか。なお、この手段はシェイによって〈三段論法的転送機{シロジス・モービル}〉と名づけられています。 第1作の『神々の角笛』ではシェイが単独で冒険に臨みますが、次の『妖精郷の騎士』ではチャーマーズ博士が同行します。さらに第3作の『鋼鉄城の勇士』では同僚のヴォッツィーが、そして第4作の『英雄たちの帰還』では同じく同僚のベイアードと警官のピートが、それぞれシェイと行動を共にします。これは単にメンバーを変えることでマンネリを防ぐという意味もあるのかもしれませんが、シェイが冒険に慣れてきたために新たな狂言回しが必要になったのではないかと考えられます。 なお、このシリーズは前述のように神話や叙事詩の世界を舞台としているわけですが、元ネタを知らなくとも特に問題はないと思います(私自身もよく知りませんが、楽しむことができました)。ちなみに、元ネタは以下の通りです。
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作品紹介 |
このシリーズは全4冊が刊行されています(『英雄たちの帰還』には2つの中編が収録されています)。それぞれ別の世界での冒険が描かれていますが、物語は連続しているので最初からお読みになった方がいいでしょう。なお、全4冊とはいっても、シリーズとしての結末がつけられているわけではありません。さらなる冒険の予定があったようですが、作者の一人であるF.プラットが亡くなったために中断されることになったとのことです。 |
神々の角笛 The Roaring Trumpet ディ・キャンプ&プラット |
1940年発表 (関口幸男訳 ハヤカワ文庫FT33・入手困難) |
[紹介] 冒頭の、チャーマーズ博士の理論に関する会話が難解ですが、シェイが実際に冒険に繰り出してからは俄然面白くなります。せっかく持ち込んだマッチや銃はまったく役に立たず、途方に暮れるシェイですが、なぜか神々、特にラグナロクの始まりを告げる黄金の角笛{ギャラルホルン}の吹き手・ヘイムダルに気に入られ、ともに巨人族と戦うことになります。異世界に戸惑うシェイの姿がユーモラスです。
ただし、終盤があまりにも駆け足の展開となっているところが残念です。ぜひもう一暴れしてほしかったところなのですが。 2001.07.09再読了 |
妖精郷の騎士 The Mathematics of Magic ディ・キャンプ&プラット |
1940年発表 (関口幸男訳 ハヤカワ文庫FT37・入手困難) |
[紹介] シリーズ中でベストの作品です。シェイたちの冒険の目的は“黒魔術師を倒して妖精国を救う”というはっきりしたもので、時おり脇道にそれたりはするものの、基本的には物語の流れがスムーズです。また、冒険慣れしてきたシェイと、微笑ましい失敗を繰り返しながらも魔法の腕を磨いていくチャーマーズ博士という現代人コンビ、さらには女騎士ブリトマートを初めとする妖精国の住人など、登場人物たちがいずれも魅力的です。そして、何と言ってもヒロインであるベルフィービーの登場が物語を一層盛り上げています。
2001.07.12再読了 |
鋼鉄城の勇士 The Castle of Iron ディ・キャンプ&プラット |
1941年発表 (関口幸男訳 ハヤカワ文庫FT49・入手困難) |
[紹介] 残念ながら、この作品はあまり成功しているとはいえません。最大の問題はシェイに同行する同僚・ヴォッツィーの存在でしょう。彼はシリーズ当初のハロルドに輪を掛けた無分別さを発揮し、しかもほとんど学習能力がないようです。そして、彼の言動によって引き起こされる騒動が重大なものであるため、前作のチャーマーズ博士の失敗などと異なり、まったく洒落になっていません。
一方、物語の展開の方も今ひとつに感じられます。キリスト教徒と対立するサラセン人の魔法使い・アトランテの客であったはずのシェイたちが、あっちへついたりこっちへついたりという状態で、心情的にあまりすっきりしません。しかも、本来の目的を達成するためにはアトランテの力を借りるしかなかったはずですし。その意味で、終盤の展開もあまりにも都合のいいものではないかと思います。 結局、個人的に面白かったのは、シェイが正気を失ったローラン伯爵を元に戻す場面くらいでしょうか。 2001.07.17再読了 |
英雄たちの帰還 Wall of Serpents / The Green Magician ディ・キャンプ&プラット |
1953,1954年発表 (関口幸男訳 ハヤカワ文庫FT52・入手困難) |
[紹介と感想]
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