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星を継ぐもの/J.P.ホーガン

Inherit the Stars/J.P.Hogan

1977年発表 池 央耿訳 創元SF文庫663-01(東京創元社)

 この作品ではまず、月面での“チャーリー”の死体の発見を受けて“チャーリー”の素性が徹底的に調査されます。このあたりはまさに被害者の身元捜査といった趣ですが、いくつかの手がかりが相互に矛盾しているようにみえるところがなかなかよくできていると思います。

 その矛盾を残しつつも、“チャーリー”がミネルヴァ出身であるということで大筋の決着をみた後、今度は一転して壮大なアリバイ崩しとなります。ミネルヴァの衛星にいたはずの“チャーリー”が、なぜ月面で死んでいたのか。その謎を、現場自体の移動という豪快なトリックで解決した作者の豪腕には脱帽です。しかも、このトリック一発でそれまでの矛盾がすべて解消してしまう鮮やかさも見事です。

 月面の表裏不整合という現象やガニメアン宇宙船の発見というエピソードは、いずれも解決につながる伏線となっているものですが、どちらもやや唐突に持ち出され、本筋から離れている印象を受けます。このあたりの手際はあまりよくないのですが、他にやりようもなさそうなので、仕方ないところでしょう。

2003.03.08再読了

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