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厭魅の如き憑くもの/三津田信三

2006年発表 ミステリー・リーグ(原書房)

 解決場面における刀城言耶のどこか頼りなさそうな姿は、読んでいて少々気になるところではありますが、それが多重解決という趣向を自然なものにしているところが面白いと思います。頼りない探偵役であるがゆえに、提示した“解決”の誤りをその都度修正する姿にもかえって好感が持ててしまうのは私だけでしょうか。

 さてその多重解決、黒子=蓮次郎を犯人とする第一の解決と黒子=聨太郎を犯人とする第二の解決は、いずれもやや唐突な印象が拭えないものの、それなりに説得力を持たせてある(例えば第一の解決については黒子と蓮次郎の良好な関係、第二の解決については祠の中の物実や、聨太郎の失踪と黒子の出現の時期的な暗合など)ところがよくできています。そして小霧の人格に支配された紗霧を犯人とする第三の解決は、今ひとつ面白味を欠いている感はありますが、千代の目撃した生霊(の容貌)や、紗霧と漣三郎の仲を裂くという犯行の動機などがうまく説明されています。しかし、それらをよりうまく説明できるのはもちろん、(生きていた)小霧を犯人とする最後の解決であり、漣三郎がかつて目撃した“白い指”や、その頃に起きた神隠しといった“怪異”が手がかりとなっているところが見事です。

 中心となるトリック、すなわち一人称を三人称と誤認させるトリックには、いくつかの前例がある(例えば「一本足の蛸 - 第八の地獄」のコメント欄を参照)のですが、“文字通り神の視点から描写されていた”(448頁)という真相(いわゆる“神の視点”――登場人物の内面も描写可能――ではありませんが)があまりにも強烈です。そして「おわりに」の448頁〜451頁で説明されている、視点と記述に関する伏線の細かさには脱帽せざるを得ません。

 多くの謎が合理的に解体されつつ、最後の最後には割り切れない部分が残りますが、この結末には若干の不満があります。事件の解決に比して、あまりにもあっさりと書かれているため、残念ながらさほどの衝撃は感じられません。このような結末をつけるのであれば、もう少し大仰に(おどろおどろしく)書いた方がよかったのではないかと思うのですが……。

2006.11.26読了

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