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殺しにいたるメモ/N.ブレイク

Minute for Murder/N.Blake

1947年発表 森 英俊訳(原書房)

 本書の中で最も面白い謎はやはり、毒薬のカプセルに関するものでしょう。もちろん、消失の手段そのものが面白いわけではありませんが、その隠し方――使用済みのカプセルを口の中に入れるのは不可能であり、身体検査で見落としても何ら不思議はない――は実に巧妙です。つまり、“カプセルがどこに(あるいはどうやって)消えたのか?”という謎を前面に押し出しながら、実は“なぜ消えたのか?”がポイントとなっているわけで、非常によくできたトリックだといえます。

 しかしながら、このカプセルに関する真相が、物語のクライマックスであるチャールズとジミーの対決よりもだいぶ前に明かされてしまうところが問題です。犯人が誰かという謎が(一応)残っているとはいえ、カプセルの謎に比べれば面白味に欠けるのは否めず、物語の盛り上がりとミステリ的な盛り上がりが乖離してしまっている感があります。

 しかも、第二の事件(ジミーが刺された事件)の真相がすでに明らかになっていることで、肝心の毒殺犯の正体も見えやすくなっています。というのは、第二の事件が本当に毒殺と無関係だとすれば、作者がそれを作中に組み込んだ目的としてはジミーへの疑惑をそらすことくらいしか考えにくいからです。このあたりは、もう少し何とかならなかったかと思うのですが……。

*****

 ところで、チャールズとジミーの対決における逆転は、確かに劇的な効果を上げてはいるものの、それと引き換えにミステリとして若干の無理が生じているように思えます。問題となるのは、チャールズのカプセルの中身です。

 カプセルの中身が毒ではなかったとすれば、犯人がそれを使ったのではないことがチャールズ自身にはわかっていたのですから、それを伏せておくのは不自然といわざるを得ません。証拠となる現物が消えてしまっているので、証言が捜査陣に信用されない可能性もあるかとは思いますが、それでも少なくとも主張はしておくのが自然な行動でしょう。

 これに関してナイジェルは、“ニタのカップに毒を盛ったのがアリスでないという確信が持てなかったからだろう”(294頁)と説明しています。しかしながら、身体検査で口の中からもカプセルが見つからなかったこと(154〜155頁)や、自分に有利にならないカプセルの目撃証言などを考えれば、アリスが犯人でないのは明らかでしょう。したがって、チャールズがカプセルの真相を黙っている合理的な理由は何もないと考えられます。

2006.03.24読了

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