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ピカデリーの殺人/A.バークリー

The Picadilly Murder/A.Berekeley

1977年発表 真野明裕訳 創元推理文庫663-01(東京創元社)

 まず、都合のいいところまでをチタウィック氏に目撃させ、後は偽の電話呼び出しによって現場から遠ざけておき、その間に実際の犯行を行うという手口がよくできています。犯人がウェイトレスに扮していたため、どこまでチタウィック氏に目撃させるかという点も自在にコントロールできますし、実際の犯行もいわゆる“見えない人”のトリックにより目撃されにくいものになっています。

 犯人の計画の中心は、替え玉を使って夫のシンクレア少佐に罪をかぶせるというものだったわけですが、この替え玉の扱い方もよくできていると思います。現実的に考えればそうそう都合のいい替え玉が見つかるはずはないのですが、この作品の場合には替え玉と本人との間に血縁関係があることで、十分な説得力があると思います。しかも、替え玉であるベンスン自身が積極的に犯行に荷担する動機(ミス・シンクレアの遺産)もあります。

 そもそもはミス・グールがベンスンを相棒として計画を立て、ベンスンが裏切ってジュディスと手を結んだわけですが、さらにジュディスがベンスンを裏切って独自の計画を進めるという、それぞれの思惑が複雑に絡み合ったプロットが印象的です。ただし、ラストでチタウィック氏が評している通り、いささかやりすぎの感はありますが。その最たるものはやはり、チタウィック氏を本気にさせてしまったことでしょう。

 そして、最後に明らかにされるジュディスの最終的な目的――夫を厄介払いして、公爵夫人となること――が、その人物造形をより印象深いものにしていると思います。その意味で、この作品は名犯人小説であるといえるのかもしれません。

2003.03.14再読了

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