ネタバレ感想 : 未読の方はお戻りください
  1. 黄金の羊毛亭  > 
  2. 掲載順リスト作家別索引 > 
  3. ミステリ&SF感想vol.193 > 
  4. 烏丸ルヴォワール

烏丸ルヴォワール/円居 挽

2011年発表 講談社BOX(講談社)

 “赤い鴉”こと瓶賀流が主役であることは事前に知っていた*1ので、“烏丸ルヴォワール”という題名は特に気に留めていなかったのですが、“二羽のカラス”の再会という結末を考えると、実に見事というほかありません。裏を返せば、題名から“再会”が予想できてもおかしくなかったということかもしれませんが、しかしそれを気取らせることのないよう、「第二章」での“二羽のカラス”の最初の出会いは巧妙に隠蔽されています。

 「第二章」では、“ささめきの山月”の指示により流が“有栖”(=綾織繰子)を、そして(一応は)龍樹家側の“烏有さん”こと鳥辺野有が“繰子”(偽者)をそれぞれ連れ回すことになっていますが、その中に、黄昏卿が“傀儡后が龍樹落花を拐かそうとして山月にしてやられたことがあった。”(213頁)と語り、さらに落花が〈双龍会〉で説明している(290頁~291頁)ところの九年前の出来事――“烏有”が(落花に見せかけた)中学生時代の流を連れ回す場面が挟み込まれています*2

 読者としては、“ささめきの山月”が仕掛けた“又鴉の計”の様子を俯瞰する立場で見せられているようでいて、その実は作者が仕掛けた“又鴉の計”――偽の“繰子”と九年前の流をすり替える――にはめられているわけで、作中で用いられているそのままなだけに悔しい思いを禁じ得ません。“烏有”が“山月”に“傀儡后の件はどうなったんだよ?”(216頁)と問いただしているのが重要なヒントではありますが、“烏有”が“山月”と内通して何かを企んでいるようにも受け取れることで、“過去を現在と見せかける叙述トリック”を想定するのは難しいように思います。

 ここで改めて考えてみると、物語の中はいささか浮いている感のある「第一章」の仕掛け――御堂達也が教育実習生として繰子の学校に潜入したと見せかけて、中学生時代の達也と流を描いたエピソードが、「第二章」の仕掛けの“予告編”であったようにも思われ、余計に「してやられた!」という気持ちが。

 事件については、〈双龍会〉が始まる前に龍師兼メイドの頼館が妥当な推理を披露してしまい(212頁~213頁)、どうなることかと思いましたが(苦笑)、事実上事件の真相が明らかにされてもなお、幾度ものどんでん返しが仕掛けられているところに脱帽せざるを得ません。そして、苦しい状況から好ましい結末に持っていくのみならず、“ささめきの山月”の正体にまで持っていく豪腕には感服です。

*1: 2011年3月6日の作者自身のツイートより、(前略)最後に宣伝。赤い鴉が主役の「烏丸ルヴォワール(仮)」は鋭意執筆中。もう八割は書いた筈ですが……まあ、丸太町みたいな話なんで、よろしければまた読んで下さい。”
*2: 詳細は、小田牧央さん(杉本@むにゅ10号さん)による「円居挽『烏丸ルヴォワール』第二章詳読」をご覧下さい。

2011.10.17読了