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ライノクス殺人事件/P.マクドナルド

Rynox/P.MacDonald

1930年発表 霜島義明訳 創元推理文庫171-04(東京創元社)

 冒頭の「結末」では保険会社に大金が送りつけられていますが、添えられた手紙の“これにて清算完了/多謝”(19頁)という文面や、“弐拾八萬七阡四百九拾九ポンド参シリング拾ペンス半”という中途半端な金額が利息を思わせるところをみると、詐取した保険金の返済という真相が浮かんできてしまうのは致し方ないところです。

 そしてそうなると、“殺人事件”がF・Xの自作自演であるところまで、ほぼすべてが見え見えになってしまうのもやむを得ないでしょう。仮に「結末」が明かされていなかったとしても、いかにもうさんくさく描かれた“マーシュ氏”のこれ見よがしな振る舞いや、ライノクス社の金銭的な苦境と「第二部」で描かれたその解決手段から、真相が十分に予想できてしまうのは確かなのですが、冒頭に置かれた「結末」がその予想を100%保証するものになってしまっているのです。

 結局のところ、本書の本質は保険金詐取の顛末を描いた犯罪小説であるにもかかわらず、その「発端」「結末」を冒頭に置くことで、“発端の謎”を生み出してミステリとして成立させようというのが作者の狙いだといえます。裏を返せば、“発端の謎”が“謎”として機能しないとしても、犯罪小説としての魅力が失せるわけではなく、特にコン・ゲーム的な企みが描かれた「第三部」などは、保険金詐取というライノクス社にとって暴かれてはならない計画の存在が見えていることで、一層スリリングなものになっているところもあると思います*1

 F・Xの計画の中でほぼ唯一、最後の最後まで明らかにならない偽装殺人のトリックは、臼田惣介氏の解説では“横溝正史の某名作を髣髴させる”(253頁)*2とされていますが、確かに現場に施された手の込んだ偽装では通じるところがありますが、凶器の処理に関しては明らかに本書の方が上でしょう。問題は、読者に対してアンフェアな真相になってしまっている点で、致し方ない部分もあるとはいえ、ポケットに残った糸くず(241頁)という手がかりさえも示されていないのは、いかがなものかと思います。

*1: 逆に、保険金詐取の計画を見抜いていない読者には、「第三部」の展開――“ライノクス社第二の危機”が、意味不明なものに映ってしまうかもしれません。
*2: もちろん(以下伏せ字)「本陣殺人事件」(ここまで)のことでしょう。

2008.03.31読了

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