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ロスト・エンジェル・シティ/都筑道夫

1986年発表 徳間文庫 つ1-10(徳間書店)『未来警察殺人課[完全版]』創元SF文庫733-02(東京創元社)

 一部の作品のみ。

「マンハッタン・マンハント」
 湯浅リエを殺した――自分でも薬を飲んだドクタ・イマムラが、“バロン・サメディ”ではないという星野の推理には説得力があります。その“バロン・サメディ”の正体がテレパシーで明らかになるのは拍子抜けですが、これはやむを得ないところでしょうか。

「空白に賭ける」
 “被害者と犯人”を揃えるための、二つ重なってはじめて爆発する爆弾という仕掛けが面白いと思います。そして、日本人数学者・山下をダミーの犯人に仕立ててその陰に黒幕・ザーコフが隠れるという計画が周到。あくまでも病院のためというザーコフの動機も印象的ですが、そこに空中都市という舞台ならではの事情が絡んでくるところがよくできています。
 テレパシストのグールモンがザーコフの殺意を見逃したというのは、ややご都合主義のようでもありますが、年をとってテレパシー能力が落ちたグールモンの悲哀を描いてあるのがうまいところです。

「殺人ガイドKYOTO」
 プリンス・ルシファーの消失トリックそのものは陳腐といっても過言ではありませんが、プリンス・ルシファー(大室)の“ダブル”をつとめていた浦辺がすでに死んでいる――ことになっている――ために真相が見えにくくなっていますし、(シリーズの設定からすれば当然ですが)“プリンス・ルシファー”の殺意の行方に焦点が当てられていくことで、消失トリック――ひいてはそれを可能にする大室と浦辺の入れ替わりという真相が、完全に盲点となってしまうのが実に巧妙です。

「ロスト・エンジェル・シティ」
 オスカーの“やらせ”だったというオチに安堵したのも束の間、オスカーの真意は……というところで、メタフィクション的な二段目のオチ。シノプシスとしてはラストがやや不自然なようにも思えますが、なかなか楽しめるプロットだと思います。
 ……と思いきや、ラストの星野の“あすには、おれには辛い仕事がある”([完全版]454頁)という独白で、さらにもう一つのオチが暗示されているのが凄まじいところ。殺人を楽しんでいる星野にとっての“辛い仕事”とはやはり、旧友オスカーの“処分”――殺人課の存在を表に出そうとしたため――ではないでしょうか。

「私設殺人課」
 精神医学者で超心理学者というだけ*1の沖田が、なぜかいきなり“超能力”を使い始めているのは今ひとつ釈然としないものがありますが、それはさておくとしても、超能力への対抗策として集中力を乱すというのは定番中の定番といっても過言ではなく*2、個人的にはあまり面白いとはいえないところがあります。ラストのどんでん返しもありがちといえばありがちな気が。

 なお、この作品から「有毒夢」までの3篇は、幻覚(あるいは妄想)が重要な要素となっている点で、続けて同じような印象になってしまっているのも残念なところです。

「ワイキキ・ワンダーランド」
 派手な幻覚にアクションと、最後まで何ともめまぐるしい作品ですが、事件が決着したかに思えたところで“パイル監督官がなぜ病室を訪れたのか?”という謎が再浮上*3してくる、、、そしてその真相がよくできています。

「有毒夢」
 “新しい治療法”という要素を取り除いてみると、殺意が(もう一人の)自分自身に向けられたものだったという真相だけが残ることになりますが、これは(一応伏せ字)「空中庭園」(『未来警察殺人課』収録)(ここまで)と大差なく、今ひとつ面白味に欠けているのは否めません。
 もっとも、星野が侵入したせいなのか、“もう一人の自分殺し”だったはずがおかしなことになっていくのが愉快で、〈頭目〉を倒しにきた星野が〈頭目〉に――祐天寺博士が倒すべき敵役にされてしまい、勝つわけにも負けるわけにもいかない困難な勝負を強いられるのが面白いところです。そして、当の星野自身が“ぼくにも、よくわかりません”([完全版]564頁)という“大団円”には、ただ苦笑するのみ。

「赤い闘牛士」
 テレパシストが読み取った“へのへのもへじ”のパターンから、大橋の狙いが旧知の日本人(または日系人)だとする推理には納得。扉の登場人物紹介を見れば、それが藤田修(サム・フジタ)であることは読者には見え見えなのですが、当の藤田がすでに死んでいる上に、大橋を襲ったのがマヌエラ……のアンドロイドだったことで、謎が深まるところがよくできています。
 そして、冒頭に登場していた“闘牛のボール”を伏線とした、変形するアンドロイド……と思わせて、死んだはずの藤田のサイボーグだったという真相がよくできています。もっとも、“マヌエラ”がアンドロイドではなくサイボーグだったのならば、“ほとんどなにも、考えていない”([完全版]585頁)ということはなさそうな気もするのですが……。

*1: テレパシストをごまかすことができるのも、(天才とはいえ)“精神医学者で、超心理学者”([完全版]479頁)だからだと述べていますし。
*2: 作者自身、別の作品((以下伏せ字)「熊坂長範」(『まぼろし砂絵』収録)(ここまで))で、似たような手を使っています。
*3: 中盤([完全版]517頁)で一旦は言及されながら、そこでは“金をもらう相手が、ここにいるからじゃないか”([完全版]519頁)と、一応の説明がつけてあるのがうまいところです。

2002.08.15再読了
2014.04.11[完全版]読了 (2014.04.21改稿)

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