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背の眼/道尾秀介

2005年発表 (幻冬舎)

 まず冒頭、“レエ……オグロアラダ……ロゴ……”という、何とも不気味に感じられる意味不明な言葉が、実は“ネエ……ボクノカラダ……ドコ……”という悲痛な問いかけだったという“反転”が鮮やかです。冷たい水の中で凍えて唇がうまく動かないという理由にも、十分な説得力が感じられます。

 次いで「第一章」の後半では、呂坂寿々という老婆が三年前に白峠村で少年を殺し、二年前に自殺したことが記されていますが、白峠村で起きている神隠しは歌川によれば“ここ二年ほどのあいだに”(19頁)とのことなので、時期が合わずに不可解なことになっています。しかしそこに、歌川の秘められた過去をうまく絡め、最終的には筋が通るようになっているところがよくできています。それにしても、“スズお婆さん”の真相があまりにも皮肉。

 “ゴビラサ”という謎の言葉が“金比羅さん”だというのはすぐに予想できたのですが、それが何を意味しているかというのはさすがにまったくわかりませんでした。それが、神隠し伝説の主体である天狗と、歌川の所持している東海道五十三次の沼津とをつなぐ、一種のミッシングリンクになっているところが実に見事です。そして、“なぜ背中に眼が映るのか”、すなわち背中でなければならない必然性が非常に秀逸です。

 犯人の正体については、憑依現象と説明されてはいるものの、自覚のない殺人者(厳密にはそうともいえないかもしれませんが)という意味では前例のバリエーションにとどまっている感があり、さほどの面白味はありません。また、北見凛の霊能力で真相が見抜けなかった点も同様です。しかし、憑依現象であるがゆえの共通言語を介した説得が、“祓い”に見えてしまうところがユニークです。

 ラストでは、亮平少年の言葉により霊の実在が示唆され、それが救いとなっています。ホラーミステリにしては珍しく、ホラー(オカルト)要素が後味のよさにつながっているところが非常に面白いと思います。

2007.01.11読了

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