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The unseen 見えない精霊/林 泰広

2002年発表 カッパ・ノベルス(光文社)

 正直なところ、今時どうかと思うようなものすごいバカトリックですが、使い方次第でこれだけの現象を演出できるという、お手本のような作品といえるかもしれません。双子を含めた“そっくりさんトリック”を人間消失に応用したというのは、例を見ないのではないでしょうか。それを可能にしたのはもちろん、特殊な舞台と暗闇という状況、そして計算し尽くされた手順で、特に精霊召喚の儀式のあたりは非常にうまいと思います。

 真相につながる伏線で見逃せないのは、冒頭の“僕”と老婆のやり取りで、“こいつはもう死んでいる”という老婆の言葉と“彼はたった今、この森の中を駆け抜けていったんだ”という“僕”の言葉(いずれも9頁)がどちらも(超常現象抜きの)真実であるとすれば、ウィザードと同じ顔の人物がもう一人存在するとしか考えられません。

 もっとも、老婆の言葉が真実である保証はまったくないのですが、その場合には“死んだウィザードの物語”そのものが架空のものとなるわけで、単なる作中作と考えれば問題はありません。そしてその中にも伏線は張られているのですから、老婆の言葉が真実であろうとなかろうと矛盾は生じないことになります。このような、現実と虚構との間で揺れ動くようなところが、物語の幻想性を高めているといえるでしょう。

2005.04.26読了

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