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ブードゥー・チャイルド/歌野晶午

1998年発表 角川文庫 う14-1(角川書店)

 主人公である晃士=“チャーリー”の“前世の記憶”そのものは、幼い頃の現実の記憶だったということで合理的に説明されています。注目すべきはむしろ、それが“現実の記憶ではあり得ない”と読者に思い込ませるための、大胆なミスディレクションでしょう。例えば、家族が“みんな肌が黒かった”(11頁)ことで“チャーリー”自身も黒人だと誤認させる(→明らかに日本人である日下部晃士ではあり得ない)点や、記憶の中の事件が起きたのがハロウィンだったことによる“バロン・サムデイ”などは非常に巧妙です。

 その一方で、代理出産という真相を示唆する伏線は、やや親切にすぎるでしょう。まず、「Signature(悪魔の紋章)」の最後に挿入されたホリーの回想(151頁~153頁)は、ほとんど真相を暴露しているようなものだと思いますし、晃士に関する親子鑑定において母性の鑑定も行われていることも、真相に直結しているといっても過言ではありません。

 “現世”の事件に関しては、やはり“キンです。ホリイキンですよ”(36頁)という言葉の勘違いが非常に秀逸です。さすがに“ホリー・キンデスです”とは言いにくいでしょうし、このような紛らわしい言い方になるのも致し方ないところでしょう(ラリーが通訳を頼んだのが男性であれば、例えば“ホリー・キンデスだよ”といったような、誤解を招きにくい言葉になった可能性もあるかもしれませんが……)

 また、“悪魔の紋章”の真相も非常によくできていると思います。原理としては、島田荘司(以下伏せ字)「ギリシャの犬」(『御手洗潔の挨拶』収録)(ここまで)のバリエーションといえるかもしれませんが、漢字が(本来の意味とはまったく違う)“絵”になってしまうところが面白く感じられます。

2007.02.22再読了