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悪魔を呼び起こせ/D.スミス

Whistle up the Devil/D.Smith

1953年発表 森 英俊訳 世界探偵小説全集25(国書刊行会)

 〈通路の間〉での殺人については、トリックはよくできていると思います。共犯というところがやや物足りなく感じられるものの、“困難の分割”のお手本ともいえる見事なものです。犯人たちが複雑なトリックを弄する理由も、ともに容疑を免れるためという納得できるものです。扉にも施錠しておかなければハーディング巡査部長に容疑がかかることもあり得るでしょうし、彼が持ち場まで戻るための時間を稼ぐ必要もあるのですから。

 ただ、ピーターが財産目当てに兄のロジャーを殺し、協力者のハーディングがピーターを強請ろうとするのならばわかるのですが、直接手を下したのがハーディングでは恐喝も不可能ではないでしょうか。真相が明るみに出てしまえば、ピーターも共同正犯となるのは免れませんが、ハーディング自身は完全に身の破滅となるでしょう。ピーターに殺害の機会がないことはアルジーの証言で明らかですから、ピーターの方が強い立場となるように思えます。


 第二の事件では、被害者が囚人であることが、犯行現場のミスディレクションになっているところが秀逸です。被害者を逮捕せざるを得なかったために窮地に陥ったハーディングですが、困難な状況下で危険な目撃者を排除するだけでなく、自分のアリバイもしっかり確保した見事な計画です。

2002.03.13読了

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