魔女が笑う夜/C.ディクスン
Night at the Mocking Widow/C.Dickson
1950年発表 斎藤数衛訳 ハヤカワ文庫HM6-8(早川書房)
密室の中に〈後家〉を出現させ、そこから消失させたトリックには、さすがに脱力を禁じ得ません。もちろん、村全体を揺るがした“中傷の手紙”騒動によってジョーンの神経が参っていたことは理解できますし、睡眠薬による眠りから(銃声によって)目覚めさせられたばかりの朦朧とした状態であることを考えれば、成立しないことはないかもしれませんが……。とはいえ、あまりにもくだらない、愉快なトリックであることは確かです。
冒頭のドタバタの結果として“顔の不気味な着色模様”
(72頁)が登場するという、“バカはバカの中に隠せ”といわんばかりの伏線は面白いところで、犯人がトリックを思いついたきっかけとしてはよくできていると思います。
ただ、“彼女は――わたしにさわったのよ”
(205頁)というジョーンの言葉は、後に“それはほんとうではなかった。彼女のヒステリーから生じたものだったが、彼女はそれを本物だと信じこんでしまった”
(393頁)と説明されてはいるものの、真相を隠蔽するための“偽の手がかり”としては明らかにやりすぎで、アンフェアといわざるを得ないところです。