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  4. パリから来た紳士

パリから来た紳士/J.D.カー

The Gentleman from Paris & other stories/J.D.Carr

宇野利泰訳 創元推理文庫118-03(東京創元社)
「パリから来た紳士」
 パーリー氏の正体が明らかになってみると、遺言状の隠し場所さえもがポオの「盗まれた手紙」のバリエーションであるようにも思えます(もちろん、巻末の解説に書かれているように他にも伏線はあります)。その隠し場所自体、というよりも、晴雨計という手がかりがよくできていると思います。

「見えぬ手の殺人」
 微妙な伏線はあるものの、最後に明かされる凶器には唖然とさせられます(決してけなしているわけではありません)。解決場面で唐突に証人が登場するところは、やや残念に感じられます。

「ことわざ殺人事件」
 銃弾のトリックは古典的といえるかもしれませんが、山猫の剥製の消失と、カーテンがゆらめいたという手がかりから真相を導き出すあたりはさすがです。

「とりちがえた問題」
 マーサ殺しのトリックは、別の短編(以下伏せ字)「黒い塔の恐怖」(『黒い塔の恐怖』収録)(ここまで)でも使われています。

「外交官的な、あまりにも外交官的な」
 消失の手段自体はありがちですが、“なぜ消失しなければならなかったか?”という理由がユニークです。

「ウィリアム・ウィルソンの職業」
 二段構えの真相がよくできていると思います。それにしても、マーチ大佐もなかなかいい人です。

「空部屋」
 結局事故死だったという真相はインパクトに欠けますが、“当然あるはずの物がない”という形の手がかりには、なかなか気づきにくく、よくできていると思います。

「黒いキャビネット」
 “ルコック探偵”を名乗った男の正体がリンカーン暗殺の犯人であったからこそ、政治的な暗殺を“愚者の行為”と切り捨てるその言葉に重みが感じられます。

「奇蹟を解く男」
 ガスの音や硫黄マッチなど、細かい手がかりの配置はさすがです。のんきなプロポーズには(いい意味で)力が抜けますが、クライマックスとなる迷路の場面が印象的です。
2002.02.08再読了 (2002.02.28改稿)